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    ゆるはら

    主にちょっと表では載せられないようなSSを投げる場所です

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    ゆるはら

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    Hello again, cinderella/峻玲←蒼&郁(未完)
    今月末で削除する乙女垢で連載していたのですがどうにも完結のめどが立たないためこちらへ
    なお話が進んだら瀬尾さんが容疑者となり郁人さんと交流、捜査に峻さんと荒木田さんが組むことになってバチバチ、玲ちゃんがその間を取り持って、最終的に峻さんが渡米することに、みたいな展開の予定でした。完結できなかったのは完全に私の力不足です。

    .Hello again, cinderella
    目を開ければ、そこは知らない天井だった。
    素肌に布団の感触。久しく味わっていない気怠さ。
    「…」
    ころりと寝返りを打った瞬間。あまりの非現実ぶりに悲鳴が上がりかける。
    それでも「ぎゃ」とか「ふぇ」ぐらいは出ていたかもしれない。ばっちりと不機嫌な寝起き顔――かなり整った――と目が合う。
    「…」
    「…」
    今にも舌打ちしそうなほど眉間にシワを寄せた彼に、なんといったらいいものか逡巡して末。
    「…おはよう、ございます?」
    「……………」
    「あの、ご気分は…」
    「………………チッ」
    ――舌打ちした。
    「あ、あの………」
    「…………。」
    舌打ちしたイケメンは、なにやら複雑そうな表情をした後で、大きくため息をつきながら、一人シャワールームへと向かっていってしまった。
    (え、え、ちょ、ちょっと)
    やがて何事もなかったかのように出てくると、ん、と顎をしゃくった。
    「は」
    「使えよ」
    「………」
    「心配しなくても黙って出てったりしねーよ」
    「いや、上着探してて」
    こういうときの、あまりの自分の経験のなさに悲しくなってくる。こういう、いわゆる『やっちゃった』場面で、自分のあまりにもあんまりな体を晒してもいいものかと、逡巡していると、ため息の音が聞こえた。
    「何だよお前、今更恥ずかしがってんのかよ」
    「いや、だって、昨日の記憶があんまりないといいますか、ぼやけてるといいますか」
    「………」
    「こういう状況で、自分の…体をまた見せるとか、ですね」
    くすりと笑い声がした。
    「お前………見た目通りモテねーのな」
    「大きなお世話です!」
    「図星かよ」
    うぐ、と言葉に詰まる。
    「そういう貴方はさぞおモテになるんでしょうねー!」
    思わずむきになっていい返せば、どや顔で反論が来る。
    「当たり前だろ、女に不自由した試しはねー……。何ならいるだけでホイホイ寄ってくる」
    「へー!じゃあ私も、そのホイホイ寄ってきた女の一人に加えていただけて光栄です!」
    悔し紛れの嫌味を言えば、ぴくっと相手の顔が固まった。
    「………」
    予想外の反応に首を傾げれば、ふいっとそっぽを向かれて、かと思えばぼすっと顔に何かがクリーンヒットした。
    「わぷっ」
    「着ろ。出るまで待っててやるから」
    相手の顔は見えない。けれど、不思議なことに、その声はさっきよりも、随分と優しく聞こえた。
    「………お言葉に、甘えます」
    さっと上から被ったのは、彼の私物らしきTシャツだった。なんとか膝上まで隠れるそれを羽織って、私はそそくさとシャワールームに駆け込んだ。
    「…………ちいせー女」
    彼がすれ違いざまに何を言ったのか聞き取る余裕もなく、早々とシャワーを浴びれば、ようやく頭がすっきりとしてきた。
     確か昨夜は、バーで飲んでいた。久しぶりに腹の立つ接客をして、憂さを晴らそうと飲めないお酒にまで手を出したような、気がする。
     マスターもう一杯、なんて騒いでいた時、ものすごく整った顔のイケメンを見つけて――。
    「…………。」
    あれっ。
    ええっと?
    どうしたん、だっけ。
    見事にさっぱりと――その後の記憶がない。
    「…………いやいやいや」
    酔った勢いとはいえ、その場で会ったイケメンをお持ち帰りだとか、今までの私の人生経験上、地球がひっくり返ってもあり得ないことだ。
    (やっぱり、聞いてみようかな……。)
    髪を乾かして、ちらとシャワールームのドアの外を覗く。
    「…………」
    そこには、ベッドの上で、退屈そうに眉間にしわを寄せて煙草を吹かす、『彼』の姿があった。
    イケメンというものは、どんな時でもイケメンである。とどのつまり、私は彼に見とれていた。見とれてしまっていたから、当然彼がほんの少し目線をそらすだけで。
    「…………んだよ」
    「…………っ」
    目が合ってしまう。ほんの、数秒。電気がはしったような甘い感覚。
    「終わったんならさっさと来い」
    携帯灰皿に吸殻をしまい、彼はずかずかとこちらへ近づいてきた。
    「あ、」
    気づいた時には、シャワールームのドアに張りつけにされていた。
    ――まさか人生初の壁ドンを、こんな形で味わうことになるとは。
    「…………」
    「あ、の?」
    彼はじろじろと私を見降ろした後、ふっと口角を上げた。
    「何動揺してんだよ、一回寝たぐらいで」
    「は、は、はぁっ!?」
    「これだからモテねー女は」
    ぱくぱくと口を開けていると、魚みてーだぞ、とまた憎まれ口が飛んでくる。
    「あ、貴方ねえ!」
    ――瞬間。
    ちゅ、と額に柔らかい感触がして、完全に私はそこに縫い留められた。
    「…………。」
    なおも目を丸くする私に、彼は、今まで見てきたどんな人よりもかっこいい笑顔で、行くぞ、とささやいた。
     魔法にかけられたような体験とは、このようなことをいうのだろうか。
     けれどシンデレラの魔法が12時の鐘で解けてしまうように、私の魔法はわずか30分後、ホテルのエントランスで解けてしまった。
     割り勘すると言ったのに彼は部屋代の全額を支払った後、あっさりとタクシーを呼ぶと、諭吉を数枚無理やり私の手に握らせて、ぽいっと私をその中に押し込んだ。
    「あ、あのっ」
    「………。」
    彼は不機嫌そうな顔をふっと窓越しに緩めた。
    「じゃあな」
    「……。」
    名前を聞こうとした唇は動かなくて、タクシーはそのまま私を乗せ、自宅の前に運んで行ってしまった。
    「…………なんだったんだろう……。」
     呆然としながらも、ああ今日が土曜でよかったと心底思いながら。私は部屋のベッドに沈んだ。ちゃり、とコートが跳ねる音。
    「…………ん?」
     小銭をコートに入れるなんてこと、普段はしない。ポケットをあらためると、中から星の砂のキーホルダーが出てきた。
    「………なにこれ」
    見覚えがないこの星の砂がガラスの靴だったとは、当時の私には知る由もなかった。

    そして王子様との再会が、半年後にあることも――。


    ――半年後。
     厚労省麻薬取締部捜査企画課の初出勤日。
    「…………。」
     自分の記憶なんて、当てにならない。事実、酔っぱらった挙句記憶を飛ばすなんてことはしょっちゅうだし、人の顔をよく覚えていないこともある。
     けれど、それでも例外というものはある。これまで自分が生きてきてめったにない経験として、半年経った今でも、残るものが。
    「…………初めまして、今大路峻と申します」
     彼は全く顔色を変えずに、そう挨拶した。
    「あ…い、泉玲です。よろしくお願い…します…。」
    「こちらこそ」
    完璧な、王子様のような微笑み。夏目君曰く、ミスター浮世離れだと言う彼。
    「そんなつもりはないんですが…」
     声音は違うし、性格も180度違う。半年前の記憶なんて、当てにならないということをよくわかって居るはずなのに。
    (あまりにも…似すぎてる)
     私は、目の前の彼――今大路峻さんが、あの夜の彼であると、認識した。
    「…………玲さん?どうか、しましたか」
    ファーストネームで呼ばれ、どきりとする。
    「あ、え、ええっと」
    「おいおい、初出勤で早くもナンパか?」
    「あ、えっと」
    「まーしょうがないか、峻さんと樹さんってマトリの二大イケメンだし」
    「そうなのか泉…俺ではだめなのか」
    「由井、誤解を招く発言はやめてくれ、彼女も困っているだろう」
    関さんのフォローにほっと息をつくと、当の今大路さんはくすりと笑って言った。
    「大丈夫ですよ。別に悪い気はしていません。少し気になったもので」
    「あ、い、いいええ…!こちらこそすみません、じろじろと…!」
    「はは。気にしないでください」
    その言葉からは、棘のようなものは感じられなかった。
    「…………。」
     どうすればいいのかと内心悩みつつ、この時は笑って過ごした。
     しかし、その日の夜になって、裏社会の犯罪集団に拉致されたり、自分の体質のことを知り――マトリのメンバーの誰かに護衛についてもらうことになってしまったのだった。
    「…………護衛、って言われてもなあ…」
     今のマンションは気に入っているし、個性的な面々ばかりだ。何よりも。
    (今大路峻さん、か)
     護衛を彼にするにしろしないにしろ、あのことだけははっきりさせておかないと、心が落ち着かない。
     思考で溺れそうになる躰をなんとか浴槽から引き揚げる。
     着替えた後でデスクの引き出しを開ければ、ちゃらりと軽いチェーンの音。
    「…………我ながら乙女趣味だなあ」
     コートに入った星の砂は、12時を過ぎても消えずに残っていた。
    (……捨てちゃえばよかったのに)
    ぐずぐずとした気持ちを抱えながら、私は引き出しを閉めた。
     そうして護衛が誰にするか決まらないまま一週間が過ぎたころ、チャンスは唐突に訪れた。
    「…あの、今大路さん」
     一人でいた彼に、意を決して私は尋ねた。
    「はい、何でしょう?」
    「少し…お時間宜しいでしょうか?」
    「それは………ランチのお誘いでしょうか?」
    「えっ、と…」
    どう説明したものだろう…とわたわたしていると、今大路さんは優しく微笑んでくれた。
    「別に、僕は構いませんが…ああ、ディナーの方がよろしかったでしょうか?」
    「いえいえいえ!ランチで!!というか、その…」
    すると、今大路さんは少しだけ考えこむように黙った後、では、と口を開いた。
    「どこか話の出来る場所、ということでしたら…屋上はどうでしょう?」
    「あ、では。そこで…」
    はた、と気づく。まだ何も言っていないのに。
    (行動、読まれてる…?)
    ちらりと顔を見上げても、彼は何も言わずににこにこしている。
    (私、ひょっとしなくても、とんでもないことをしようとしてるんじゃ…)
    その予感はすぐに確信に変わることとなった。
    「その…今大路さん」
    「はい」
    「今大路さんって…ご兄弟いらっしゃいますか?」
    「…………」
    彼は無言だった。
    「よく似たお兄さんとか、弟さんとか…」
    「…………いませんが、それが何か」
    発言が若干毒を帯びたような気がする。
    「その…半年前に、××っていう…バーで、今大路さんにそっくりな人を見かけたような気が…したんですけど…」
    ちら、と彼の顔を覗く。と。その顔は笑っていた。今日ここにきてから見ている笑顔。
    「…………そっくりさんだと思いますよ」
    「ああやっぱり!」
    そうですよね、と納得しようとしかけた時だった。
    「ところで、どうしてその人のことを僕に?」
    「えっ」
    「何か、事情がおありなんでしょうか?」
    「そ、それは…」
    何故だろう、声のトーンが、少しおかしいような気がする。
    「例えば…その男性が忘れられなかった、とか」
    「…………えっ」
    気が付けば至近距離に、今大路さんの顔があった。逃げようとして、背中にフェンスが当たる。ふいによみがえる既視感――。
    「…………そっくりさんですよね?」
    「ええ、そっくりさんですよ」
    「いやいやいや、そんなわけないですよ…」
    だって、思い出してしまった。
    「あの人と同じ場所に、ピアスがあるし……」
    「…………。」
    分かりやすく、目の前の整った顔にしわが寄る。曖昧な認識は、確信となって頭の中で結びつく。ヘーゼルの瞳が動いた、と思うと。
    「…………チッ」
    ――舌打ちした!
    「あの、」
    「………玲さん」
    しかし彼は、体勢を崩さずに、優しい声で私の名を呼んだ後。
    「このこと、誰かにバラしたら…」
    がしゃん、と体重がフェンスにかかる音。
    「南米に売り飛ばすからな」
    「は……」
    ぽかん、と。思わず口を開ける。
    「…………は、は、はぁっ!?」
    そんなことできるわけが、という目で見つめると。
    「案外簡単なもんだ、向こうにコネは持ってる」
    「な、な…」
    意外にもあっさりと素を暴露した目の前の彼は、かけていた体重を元に戻すと、にやり、と悪戯っぽく笑った。
    「分かったらとっとと横浜のマンション探せ」
    「え、私今大路さんに護衛決めたわけじゃないですけど」
    「ああ、横浜よりも南米の物件がお好みで」
    「いえどうぞお願いいたします」
    スマホを掲げた手を下ろすと、よろしい、と言わんばかりの笑顔を向けてきた。
    「…………つーか、真昼間に確認してくるとか…やっぱり痴女か、お前」
    「ちっ…違いますよ!」
    「ああ、元からか」
    「っ!!」
    二の句が継げないまま再び体重をかけられて――あの日と同じ光景。
    「…………あ」
    (また、キスされる…?)
    抵抗したい。
    できるなら横っ面はたいてやりたいのに――動ける気がしない。
    ぎゅっと目を閉じて、振ってくるそれを身構えた―ーのに。
    「…………いたっ!?」
    やって来たのは額への痛みだった。
    ――デコピン!
    「ほんっと痴女だな」
    「~~~~っ!!」
    からかわれた、と思った次の瞬間、耳元で一言。
    「…………は?」
    離れた後、彼はにっと王子様の笑顔をした。
    「お昼休み終わってしまいますよ、玲さん」
    「…………あ!!」
    「よければランチ、ご一緒しますか?」
    「け、結構です!!失礼します!」
    私はそれだけ捨て置いて、その場をできるだけ早く走り去った。
    (何、何、何!!何なのあれは!!)
    囁かれた耳元を抑えながら、合同庁舎内のコンビニへと走る。
    「…………私、とんでもない人に関わっちゃったかもしれない…」
    耳元でささやかれた言葉。
    『お望みなら、あの夜の続きをしてやってもいいけど?』
    「…………何のつもりなのいったい…!」
    こうして私の、波乱の生活は幕を開けたのだった。

    ――けれど私は知らなかったのだ。この時起こっていた事件は、それだけではないことに。
    「…何だあの女、メロンパンばっかり」
    例えばウチにたまたま用事があった銀髪の警察官とすれ違っていたことだとか。
    「ったくあの教授話なげえ…」
    たまたま医政局に用があった黒髪の大学助教授とすれ違っていたことだとか。
     大きく自分の人生に関わる二人とも出会うことになるとは、まだ何も知らなかったのだ。
    ――その、結末さえも。
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