千の紫・万の紅2024/10/21
⚠ なんでも許してくださる方むけ
⚠ 📿さんにファンタジーな捏造妄想過多です
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「空却さぁーーん、こっちの草むしり終わったっすよー!」
「ごくろぉー。茶ァいれたから飲んどけー。」
長かった暑さがようやっと落ち着いてきたこの頃ですが、皆様はいかがお過ごしっすか?
自分はというとですね、空却さん家の草むしりに精を出しているところです!
ちなみに空却さんは縁側にごろんと寝転がって漫画を読んでいて、ヒトヤさんはバイクツーリングで道の駅に行くって言ってたっす!
今年は紅葉の見頃はまだまだ先になるみたいなんで、ひとまず今日は季節限定のおいしいものを狙って走るみたいっすよ。
食欲の秋!読書の秋!絶好の草むしり日和!
日差しはありますけど、長袖長ズボンと帽子も被った完全防備ファッションでも暑さはないし、風も心地良いし、なにより昨日雨が降ってくれたおかげで草が抜きやすいっす!見たこと無い虫さんもたくさん居ますけど、セミの脱け殻はさすがにもう無いっすねー。
あっ、そうそう。なぜ自分が空却さんのお寺の草むしりをしているのかと言うとですね、ハナシは今年の空却さんの誕生日前まで遡りまして、、、
「空却さん!誕生日プレゼントをお贈りしたいんですけど…」
あれっ?当たり前のように誕生日プレゼントを渡そうとしたけれど、そもそも空却さんは自分からの誕生日プレゼントを受け取ってくれるのだろうか……そんな疑問が急に浮かんで、最後のほうが小さな声になってしまったっす!これじゃあ「おい十四!声が小せぇぞ!」って怒られるっす~~!!ひぃぇえ……
…あれ?
空却さんの怒号が飛んでこない?
それどころか、笑ってる?!
「ほーぉ、そーかそーか、拙僧に誕生日プレゼントくれるんか。」
目を細めて口角をあげてニヤッと笑う空却さんを見て、自分の背中がゾワワワァ~~となりました。思わず声も震えちゃいました。
「は、はい…。じ、自分が、かっ、買えるものでしたら…」
一喝されると思っていたら、自分の予想に反して空却さんは笑顔でした。
自分の肩にポンッと手を乗せて、きりりとした顔でこう言いました。
「拙僧が欲しいのはモノじゃねぇんだわ。」
と、いうわけで。自分はいま、500年以上の歴史ある由緒正しき空厳寺の草むしりを代行してます!
まず最初に「空却さんお誕生日おめでとうございます!」と大きな声でお祝いしたら「親父にバレんだろうが!」って叱られました。自分、知ってるんすよ、草むしりは空却さんのお仕事なんすよね。前に一回だけ「修行の一環だァ」って代行したことがあるんすけど、空却さんってばそのあとバッチリ灼空さんに怒られてました。
「十四くんに他人の家の草取りをお願いする阿呆がいるかぁ!!!」
「十四は拙僧の家族だ!弟子だ!弟子が修行の一環に励んで何が悪ぃんだよクソ親父ィイー!!」
「お前はただ自分の務めを十四くんに押し付けてるだけだろう!分かりやすくさぼりおって!」
「サボってねぇって、あっ、てめ!やめろ!チョークスリーパーすんなァァアアア!!!」
砂ぼこりが立ち込める程に激しい親子の取っ組み合い。前にこんなことがあったにもかかわらず、懲りずに今回も空却さんが草むしりをおねがいしたのは「誕生日プレゼント」という名目が立つからでしょうか?
でも、うーん、名目は立つんすかね?
一応空却さんなりに対策してたみたいで、『灼空さんが通りがかった時に自身も一緒にやっていると見せられるように近くで待機する』とかなんとか。
実はなんと空却さん、他人の足音を聞き分けられるらしいので、縁側で静かに寝転がって漫画を読んでいれば事は足りるんですって。
万全な対策をしつつも、今日はあいにく灼空さんはいらっしゃいませんでした。ご予定があって、お出かけみたいです。へへっ、空却さんでも怖いものがあるんっすね。
「親父が怖ぇからじゃねーよ!テメーが間違えて草花を取っちまわないように、監視も兼ねてんだよ!」
そうなんです。
空厳寺にはたくさんの植物が咲いてるんです。
植えられて手入れされている草や花も、
自然のままに生えている草や花も、
お庭で人の手を借りて育つ観賞用植物も、
いつのまにかお庭で萌ゆる野草や野花も、
空却さんはそのすべての名前を知っています。
ひろーいお寺のどこにどんな植物がいるのか、知っています。
いろんな理由で草取りをしなくちゃならない時、空却さんはひとつひとつを目で見て確かめてから始めます。
四十物家の庭には花壇があるので、それ以外の場所に生える草は雑草としてむしります。けど、空却さん家はちょっと違うみたいっす。
それと空却さんは、新しい植物が育っているのも一目で分かります。
“お?おめぇさん、ここでは初めて会うなぁ。山で見たのは昨年かァ?そん時に拙僧の靴の裏にでも着いてきたか? ”
そんなふうに言ってました。
もしかして、この世のすべての植物の名前を覚えてるんですかね?
「お茶、美味しかったっす!洗い物したら帰りますね!」
「拙僧がやるからおいとけ。」
草むしりを終わらせて、お茶をいただいて、空却さんにもう一度おめでとうを伝えて、灼空さんに挨拶をして、時間を確認しようとスマホの画面を点けたらちょうどヒトヤさんからメッセージが!
道の駅のお土産をくれるみたいなので、待ち合わせることになりました。
夕暮れ時の公園で次のライブで歌う新曲の歌詞を考えていたら、待ち時間もあっという間にヒトヤさんと会えました。
ご機嫌なヒトヤさん、とってもツーリング日和だったみたいです。いい風だったって。よかったぁ。
「これ、店の人のオススメなんだとよ。俺も試食でくわしてもらったけど旨かった。」
「わぁ、ありがとうございます!」
「あとこれも。」
ヒトヤさんが続けて渡してくれたのは、3輪のバラでした。
透明感のあるピンク色の花弁がフリルのように幾重にも重なっていて、丸みもあってティーカップのようにも見えて綺麗です。周りはやわらかな色合いの黄色い紙に包まれていて、すっごく素敵です。
「これが “ 桜鏡 ” だとよ。」
ヒトヤさんからその名前を聞いて、やっと分かりました。
「空却が言ってた “十四の花” って、これだろ?」
前に、空却さんが教えてくれました。
“ 桜鏡は十四の花 ”
空却さんは、その人のまとう花が視えるんだそうです。
人は誰でも花を咲かせる。
けれどどんな花を咲かせるか、自分では選べない。
ヒプノシスマイクやスピーカーが自分の個性によって人それぞれに形が決まるみたいな、花の種類にも何か由縁があるんすかね?
空却さんは「なんでテメェがその花なんだとか、花言葉がなんだとかは、一切合切ワカンネェよ。拙僧にはただ、いまの状態が見える、それだけだかんな。」って言ってました。
蕾だったり、まだ生まれたての葉だけだったり、育ちかたも人それぞれ。
花の種類も大きさもそれぞれだけれど、みんな等しく“大きさは1人分”らしいです。
他の人をまるごと包み込むような広さを持つ花とか、何人も一緒に乗れるような巨大な花というのは見たことが無いそうです。
どんなに頼もしい人でも、自分の分だけ。
どんなに心細いと感じている人でも、自分の分だけ。
だれもが1人分、自分の心の中に1人分だけ。
『 どんな花でも 』
一人一人がさまざまな色の花を咲かせ、集まれば鮮やかに。
一人一人の生き様が、多彩に花開こうと鮮烈に。
苦しみも、喜びも、楽しみも、ここにある。
自分の中にある。
桜鏡に顔を寄せると、やさしい香りが花の奥を通り抜けていきました。
「和名が桜鏡らしくてな、元の名前はデュシェス・ドゥ・ブラバン なんだとよ。見事だな。 」
空却さんに名前を教えてもらって、検索して画像では見ていたけど、いまはじめて触れて見る桜鏡はとても愛おしいです。
「ヒトヤさん!ありがとうございます!」
桜鏡、会えて良かった。
空却さん、ヒトヤさん、ありがとうございます。
とっても、誇らしいです。
あっ、
そうそう。
ちなみにヒトヤさんは “ サンカヨウ ” だそうですよ。
おしまい