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    hisui_4miya

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    hisui_4miya

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    幕間 遠くでセミの声が聞こえた。
     空は真っ青で、遠くの方に入道雲が浮いている。日を遮る物は何もなくて、じりじりと日差しが露出した肌を焼く。麦わら帽子をぎゅっとかぶって、汗を拭いながら川縁に腰掛けた。短い棒きれに糸を結び、エサとなるスルメをなんとか糸にくくりつける。長い時間をかけてどうにか結べたソレをえいやっと水に沈めた。浮かんでは沈んで、そのたびに水面がゆらゆらと揺れた。
     周りに隼人以外の人影はない、何故ならここに来ることは誰にも言わなかったから。両親を含めた大人たちは現在進行形で親戚付き合い中。いとこは今日に限って来ておらず、端的にいって暇だったのだ。今日の分の宿題はとうに終わった、好きなゲームは家にある。一人遊びはし尽くした。だから、バケツと手作りの釣り竿を片手に川へと足を運んだのだ。
     一人で勝手に抜け出したことがばれたらきっと怒られる、分かってはいる。でも、だって、暇だったから。誰も遊んでくれないから。怒られた時の言い訳を頭の中で羅列しながら、いっこうにかかる気配のない糸の先をぼんやりと見つめていた。
     ふと、背後で草を踏む音がした。
    「何してるの?」
     振り向くと、女の子が二人立っていた。日が反射してきらきらと輝く銀の髪の女の子、黒と白両方の色を持った女の子。どちらも揃って浴衣を着ていた。赤色の瞳が、ぱちぱちと瞬きをしていた。
    「一人なの? 一人は危ないよ、落ちちゃったらどうするの」
    「この時期の川は危ないからねぇ」
     腰に両手をあてて、少しだけむっとした様子で銀髪の子が言う。反対に黒白の子は間延びした口調で、仕方がない子、といった様子だった。初めて会った、自分よりも少しばかり年上の少女二人。夏祭りでもないのに、どうしてか浴衣を着ていた。
    「なんであぶないの? 雨ふってないのに」
    「お盆だからだよ」
    「お盆だからだねぇ」
     首を傾げて問う隼人に、二人は声を揃えて言った。
    「他に人が居たら大丈夫なんだけどね、何で一人で来ちゃったの」
    「だって……ひとりひまなんだもん」
    「まぁまぁ、落ち着いてぇあ」
     黒白の子が肩をすくめながら銀髪の子を宥めるように言った。彼女はまだちょっとむくれているようだったが、「……まったくもう」と言いながら隼人の隣にちょこんと腰を下ろした。
    「来ちゃったのは仕方がないし、一緒に居てあげる」
    「あ、じゃあ私も!」
    「えっ」
     ぱっと手を上げたと思えば、黒白の子は銀色の子と反対の位置に腰を下ろした。三人、川の縁に並んで腰をかけて、水面を覗き込む。日差しがきらきらと水面に跳ねて、三人の陰を長く伸ばしていた。
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    hisui_4miya

    DONE・一人称、口調ぶれ有り
    ・捏造家族有り
    プロローグ ガタンゴトン。揺れる電車の窓越しに、移り変わっていく景色をぼんやりと眺める。乗った時にはたくさん居た乗客も、気がつけば隼人を含めて数人。窓の外は当に見慣れた高層建築物だらけの景色から、田畑やぽつぽつと住宅が建ち並ぶのどかなものへと変わっている。
     両親と共に何度も泊まりに行った父方の祖父母宅。古民家だが、新しい物好きでハイカラだった祖父の趣味でリノベーションが施された家。そこに今日から一人で暮らし始めるのだと思うと、やはり少々気が重たかった。

     きっかけは、正月だった。祖父母宅に帰省し、年末年始をのんびりと過ごしている時だった。祖母と母が作ってくれたお節料理をモグモグ美味しく食べている最中、日本酒が並々と入ったグラスををぐいっと煽った祖父の言葉だった。大学を卒業したら社会勉強としてフリーターをしながら一人暮らしをする予定だと言う隼人に、酒気で顔を赤く染めた祖父は「それならこの家に住むか?」と聞いてきたのだ。齧り付いたばかりの唐揚げが喉に詰まりかけて咳き込む隼人を見て、祖母があらあらと麦茶をグラスに注いでくれた。麦茶で唐揚げを押し流して、深呼吸を一つ。どういうことか、と祖父を見た。いつも通りのおおらかな笑みを浮かべて、酒をあおっていた。隣に座る父を見やる。琥珀色の目をわずかに見張らせて、けれどすぐに合点が云ったのか「ああ」と頷く。 
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