幕間 遠くでセミの声が聞こえた。
空は真っ青で、遠くの方に入道雲が浮いている。日を遮る物は何もなくて、じりじりと日差しが露出した肌を焼く。麦わら帽子をぎゅっとかぶって、汗を拭いながら川縁に腰掛けた。短い棒きれに糸を結び、エサとなるスルメをなんとか糸にくくりつける。長い時間をかけてどうにか結べたソレをえいやっと水に沈めた。浮かんでは沈んで、そのたびに水面がゆらゆらと揺れた。
周りに隼人以外の人影はない、何故ならここに来ることは誰にも言わなかったから。両親を含めた大人たちは現在進行形で親戚付き合い中。いとこは今日に限って来ておらず、端的にいって暇だったのだ。今日の分の宿題はとうに終わった、好きなゲームは家にある。一人遊びはし尽くした。だから、バケツと手作りの釣り竿を片手に川へと足を運んだのだ。
一人で勝手に抜け出したことがばれたらきっと怒られる、分かってはいる。でも、だって、暇だったから。誰も遊んでくれないから。怒られた時の言い訳を頭の中で羅列しながら、いっこうにかかる気配のない糸の先をぼんやりと見つめていた。
ふと、背後で草を踏む音がした。
「何してるの?」
振り向くと、女の子が二人立っていた。日が反射してきらきらと輝く銀の髪の女の子、黒と白両方の色を持った女の子。どちらも揃って浴衣を着ていた。赤色の瞳が、ぱちぱちと瞬きをしていた。
「一人なの? 一人は危ないよ、落ちちゃったらどうするの」
「この時期の川は危ないからねぇ」
腰に両手をあてて、少しだけむっとした様子で銀髪の子が言う。反対に黒白の子は間延びした口調で、仕方がない子、といった様子だった。初めて会った、自分よりも少しばかり年上の少女二人。夏祭りでもないのに、どうしてか浴衣を着ていた。
「なんであぶないの? 雨ふってないのに」
「お盆だからだよ」
「お盆だからだねぇ」
首を傾げて問う隼人に、二人は声を揃えて言った。
「他に人が居たら大丈夫なんだけどね、何で一人で来ちゃったの」
「だって……ひとりひまなんだもん」
「まぁまぁ、落ち着いてぇあ」
黒白の子が肩をすくめながら銀髪の子を宥めるように言った。彼女はまだちょっとむくれているようだったが、「……まったくもう」と言いながら隼人の隣にちょこんと腰を下ろした。
「来ちゃったのは仕方がないし、一緒に居てあげる」
「あ、じゃあ私も!」
「えっ」
ぱっと手を上げたと思えば、黒白の子は銀色の子と反対の位置に腰を下ろした。三人、川の縁に並んで腰をかけて、水面を覗き込む。日差しがきらきらと水面に跳ねて、三人の陰を長く伸ばしていた。