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    hisui_4miya

    @hisui_4miya

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    hisui_4miya

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    幕間 星がよく見える夜だった。
     空気は澄み、風は心地良く、虫は静かで。辺りはすっかり寝静まっていた。
     山の斜面に建つ古い寺院、そこの本堂の屋根の上。烏天狗の青年はそこにごろりと寝転がって、ぼんやりと星々を眺めていた。
    「今日はどうしようか……」
     気の抜けた声で呟いた。近頃は人の世も妖の世も平和で特に騒ぎもなく、この寺にある書物も粗方読み終えた。ようするに暇であった。飛んで遠くに行くのは億劫で、かといってこうして星々を眺めるのも飽きてきた。
     久方ぶりに友のところへ行って、甘味でもねだろうか。それか、人里まで歩いて行って面白そうなものでも探そうか。
     ふわ、欠伸を飲み込む。そのとき、小さな足音が風と共に転がってきた。
     鹿でも、狐でも、狸でもない。四つ足の動物のものではない、おそらく人が歩く音だ。緩やかな石段を登ってくる音だ、迷いながらもまっすぐにこちらへと向かって来ている。
     こんな夜中に、人の子がわざわざやってくるとは何事か。
     眉を寄せ、起き上がる。屋根の上から参道を見やれば、石段を登る人影が見えた。
    「……は?」
     目にしたのは、まだ幼さの残る少年だった。歳はまだ十にも満たないくらいだろうか。胡桃色の髪が月光に照らされ、きちんと整えられた着物の袖は、まだ少し大きく見えた。身なりからして、裕福な商家か武家の子あたりだろう。
     この夜に、この山に、幼い子がたった一人でやってくるとは一体何事か。道に迷ったのか、それとも別の要因か。迷い子にしては足取りがまっすぐだった、口減らしにしては身なりが整いすぎている。
     青年は軽く眉を寄せてから、静かに声をかけた。
    「童が、こんな夜更けに何用ですか?」
     少年の肩がびくりと揺れて、恐る恐るといった様子で屋根の方を仰ぐ。そして、青年の姿を見た途端、瞳を見開いた
    「……からすのはね……、ほんとうにいたんだ……!」
     ぱちりと手を打って、少年は弾んだ声をあげる。嬉しそうに大きな瞳をキラキラと輝かせる姿に、青年は呆気にとられた。
     まさか、天狗を探していたのか? この童は。一体何のために。
     分からない、理解するには話を聞く必要があるか。すっと立ち上がって、翼をはためかせながら舞い降りる。少年はその一連の動作にも、わぁと歓声をあげていた。
     顔を見る。ふくふくと丸い頬は、豊かな家で、しっかりと愛されている証拠だ。琥珀色の瞳は星を閉じ込めたように輝いている、胡桃色の髪はふわふわと風に揺れていた。本当に、よくまぁ、無事にここまで来たものだ。運の良いことだ。
     じろじろと見つめられても少年は、相も変わらずきらきらとした目で青年の背中に生える翼を見つめていた。
    「……居ますよ。貴方たち人の子が見ようとしないだけで、僕たちは何処にでも居ます」
     姿勢を正して、少年の顔をまっすぐに見つめて言葉を紡ぐ。彼は、青年の言葉に感嘆の声を漏らして、小さく「すごい……」と呟いた。何をしても凄いと言われてしまいそうな空気を感じる。
    「……で、何用ですか?」
     問うと、少年はもじもじと足下を見たり、袖を握ったりと落ち着かない様子だった。言葉を探すように口ごもって、ぱっと勢いよく顔を上げた
    「え、と、えと……あの……! わ、わたくしを、でしにしてください!!」
    「…………うん?」
     何を言われたのか理解が出来ず、青年は頬を引きつらせる。
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    hisui_4miya

    DONE・一人称、口調ぶれ有り
    ・捏造家族有り
    プロローグ ガタンゴトン。揺れる電車の窓越しに、移り変わっていく景色をぼんやりと眺める。乗った時にはたくさん居た乗客も、気がつけば隼人を含めて数人。窓の外は当に見慣れた高層建築物だらけの景色から、田畑やぽつぽつと住宅が建ち並ぶのどかなものへと変わっている。
     両親と共に何度も泊まりに行った父方の祖父母宅。古民家だが、新しい物好きでハイカラだった祖父の趣味でリノベーションが施された家。そこに今日から一人で暮らし始めるのだと思うと、やはり少々気が重たかった。

     きっかけは、正月だった。祖父母宅に帰省し、年末年始をのんびりと過ごしている時だった。祖母と母が作ってくれたお節料理をモグモグ美味しく食べている最中、日本酒が並々と入ったグラスををぐいっと煽った祖父の言葉だった。大学を卒業したら社会勉強としてフリーターをしながら一人暮らしをする予定だと言う隼人に、酒気で顔を赤く染めた祖父は「それならこの家に住むか?」と聞いてきたのだ。齧り付いたばかりの唐揚げが喉に詰まりかけて咳き込む隼人を見て、祖母があらあらと麦茶をグラスに注いでくれた。麦茶で唐揚げを押し流して、深呼吸を一つ。どういうことか、と祖父を見た。いつも通りのおおらかな笑みを浮かべて、酒をあおっていた。隣に座る父を見やる。琥珀色の目をわずかに見張らせて、けれどすぐに合点が云ったのか「ああ」と頷く。 
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