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    -堂島-

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    -堂島-

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    "春黄の道具"ifルートのやり取りが好きでやらかした産物。
    登場人物:春黄ちゃん🐓(🐥)、斑鹿🦌、王(名前のみ)

    #誰デザ_天平命幇

    【天平命幇】Reuse.


    頭の中を熱が駆け巡る。
    消えかけの蛍光灯のように点滅する視界の中、床にゆっくりと広がる血溜まりの向こう側に王の靴が見えた。
    王が何かを言っている。
    聞こえていたし言語として認識していたのは確かだが、何と言われたかは忘れてしまった。
    ただ、上から降ってきたその言葉に、胸の内を強く踏み潰されたような感覚だけが残っている。









    「…………ここは」


    目覚めと共に全身が軋むように痛む。
    視界の片側は何かに覆われていて狭い範囲しか見えない。そこに映るのは見知らぬ天井で、輸液パックがぶら下がっているのが分かった。
    思うように動かないままの身体で無理矢理に半身を起こす。頭がグラグラと揺れて、左腕には違和感。その左腕を目をやれば先程見えた輸液パックのルートの先が繋がっている。おまけに身体のあちこちに電極パッドが貼られているのも分かった。
    こちらが起きたのを認識してか医者らしき男が足早に近寄ってきてベットサイドにある電子機器を覗いている。定期的な音が鳴っているので脈拍か脳波でも見ているのだろうと思われた。男は数値を確認するとこちらに視線をやり何か言いかけたがそれを構う気はなかった。

    一体どれだけの時間惰眠を貪っていたのだろう。左手は痺れていて感覚はないが右腕は動く、両足も動く。王が求める基準には達しないがそれでも動ける。
    動けるなら使える。
    使えるならいつでも応えられるようにしていなければならない。
    見覚えのない部屋だったが余程の遠方でなければ土地勘には自信があった。
    気分屋の王の元に戻るのに、時間は掛けられない。

    点滴を引き抜き、胸元や頭部に貼られていた電極パッドのシールも剥ぎ取り、引き留めようとする男を無視して扉を開けると、そこには小柄な少女が立っていた。


    「何処へいくの?」


    「起きたと報告は受けたけれど、動いていいとは誰も言っていないはずよ」


    先程の台詞と共に不思議そうに首を傾げた少女は扉の前から動こうとはしない。そんな彼女の横をすり抜けようとしたが、彼女の足がスッと前に出されて行く手を阻まれる。身体のあちこちに包帯を巻かれた男──斑鹿は、眉間の皺を深くさせて少女に咎めるような視線を寄越した。


    「退け、春黄。王さんの所に行く」

    「言ったでしょ。誰も動いていいなんて許可を出していないわ」


    春黄──そう呼ばれた少女は、自分よりも上背のある斑鹿に物怖じする様子もなく、むしろ呆れたように小さく溜息を吐いて彼を見上げた。
    医者らしき男が背後で狼狽えているのが分かる。自分の背中越しに春黄をチラチラと見ているのか、目の前の春黄が斑鹿の背後にアイコンタクトを取る様子が見えた。


    「何故お前に許可を得なくちゃならないんだ。俺のことは王さんが決める」

    「斑鹿さんはもう春のものだよ」

    「何言っている。急いでるんだ、退け。力尽くで通るぞ」

    「おじ様に廃棄の指示を出されたでしょ。だから戻る意味ないよ」


    さらりと続けられた言葉。
    廃棄というその言葉に斑鹿の喉が僅かに息を呑んだ。


    「王のおじ様が廃棄と言って、斑鹿さんは自分の頭を撃ったじゃない。…もしかして忘れちゃった?海馬に損傷はないって診断だったけれど」

    「…………」


    その瞬間斑鹿の頭に再び強い熱が駆け巡った。
    激痛と共に雪崩れ込むように"あの瞬間"が鮮明に蘇る。

    こちらを一瞥もしない王の視線。
    その口から放たれる簡潔で冷ややかな言葉。
    スイッチを切り替えられた機械のように半自動的に身構え、反射的に動く身体。
    こめかみに押し付けた銃口の硬さ。
    呆気ないほど軽い引き金の音。
    瞬間、鼓膜と脳を揺さぶった衝撃。
    傾いた視界に広がる赤と近寄る王の靴。
    暗く落ちた意識の遠くで、何度か揺さぶられるように衝撃を受ける感覚。

    その全て。全てをだ。

    踏み出そうとしていた足元がふらつき、背後にいた男が慌てて斑鹿を支えた。反射的に振り払おうとするが衣類も入院患者のような簡素な服に変わっており一切の武装をしていないことに気付く。
    武器がなかったとて武闘の心得はある。しかし斑鹿がそれを発揮することはなく、それよりも彼の思考は春黄の告げた事実に奪われていた。

    捨てられたのだ、自分は。
    壊されたのだ、"これ"は。

    胴体や四肢に散った傷口から血と痛みが滲む。
    死んだかどうか確認するために死体に銃弾を追加で数発撃ち込む行為は珍しくない。
    部下もやる。斑鹿もやる。王も、やる。


    「ほら、傷まだ塞がってないしベッドに戻って?」

    「……何故俺は"動いている"」

    「一命を取り留めたからだよ。捨てたのならもうおじ様の物ではないでしょう?だから春がもらったの」

    「…俺は道具だ。王さんの‪道具だ。廃棄されたのなら動いているのはおかしい。…再廃棄すべきだ」

    「こらこら何をするの。ねえ、この人止めておいて。何も持たせたら駄目」


    踵を返してベッドの方に向おうとする斑鹿を春黄は止めさせる。武術の心得などなさそうな医者一人では止めきれぬのかズルズルと押し負けてベッドに引き摺られていくのを見て、春黄は呆れたように他の構成員を呼んで加勢させた。
    数人かがりでのしかかり斑鹿を抑え込む。もがこうとする四肢を床に押さえつけ、咄嗟に舌を噛もうとした口には剥ぎ取ったシーツを噛ませた。それでも斑鹿が動こうと力むと、押さえ付けてる数人の構成員達の方が揺さぶられていた。
    床に押し付けるように拘束される斑鹿の前に春黄はしゃがむ。


    「懐かしい。初めて会った時、斑鹿さんにこうやって床に押さえられたよね」

    「……」

    「いい?死ぬのは駄目。何のための手当だと思ってるの。斑鹿さんはもう春のものなの。だから言うことを利いて」


    この世界に慣れきった冷静さで、春黄は続ける。斑鹿の身体から更に溢れた血が身じろぐ度に床に赤くかすれた線を描いていた。
    斑鹿が頭を擡げるようにして春黄を見上げる。困り顔にも見える特徴的な八の字眉の間には深い皺が刻み込まれ、その目付きは完全に彼女を睨んでいた。

    春黄は小さな溜息を吐く。
    一度目を閉じて息を吸って、ゆっくりと吐き出すと斑鹿の真っ正面から見下ろした。


    「"斑鹿"」


    短く言い切るような、有無を言わせぬ呼び方。
    感情に揺れない視線。引き結ばれた口元。
    それを見上げる斑鹿の身体が小さくピクリと反応したのが彼女の部下達にも振動として伝わった。


    「貴方は、もう、春のもの」


    何度目か分からぬ言葉。
    ゆっくりと言い聞かせるように音を紡ぐ。
    数秒間の沈黙ののちに、ゴト、と脱力するように斑鹿は額を床に擦り付けるように降ろした。その拍子に緩んだ猿轡、その隙間から掠れた短い音が洩れる。


    「…………はい」


    「……命令なら、従います」


    その話し方慣れないから嫌だな、と春黄はぼやきながら立ち上がる。
    斑鹿を抑え込む部下たちをしっしと手で払って退かせても、斑鹿はのっそりと項垂れたまま身を起こすだけでもう部屋の外へ行こうとはしなかった。


    「じゃあベッドに戻って寝てて。勝手に抜け出そうとしたら駄目。お願いね」

    「……それは命令ですか」

    「お願いって命令に入る?」

    「個人の裁量に依ります」

    「うーん、じゃあ命令でいいや。そっちの方が斑鹿さんやりやすいみたいだし」

    「…承知しました。命令なら従います」

    「うん、それじゃあ休んでてね。またお見舞い来るね」

    「…はい」

    「あと違和感すごいから話し方今まで通りにして」

    「………………それは命、」

    「命令」

    「はい」

    「…命令だよ」

    「……………わかった」

    「うん」


    一先ずは及第点か、と春黄は腰に手を当てて部下達に指示をする。
    彼らは今の一件で散らかったベッド周りを整え、すっかり包帯やガーゼが赤く染まった斑鹿を助け起こし手当に取り掛かる。すっかり大人しくなった斑鹿は春黄らの部下にされるがままになっており、その様子を確認した春黄は部屋を後にする。

    それ以降斑鹿の口から王の名が出る事はなかった。
    斑鹿が生存していることは王には秘匿していたため、春黄は斑鹿を以前のような外に出る業務から外し別の仕事を与えた。とは言っても主に春黄の側に控え、呼ばれればその希望通りに動くだけで王の道具であった時とそうは変わらない。

    たた、以前よりも暗愁を湛えた眼差しがぼんやりと春黄の背中を見つめていた。


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     半世紀以上前に活躍したカメラマンの業績についても、学びの一環として教示しようとしたのだろう。当時のリグレーが知る女性のポートレイトといえば、スポーツ・イラストレイテッドに月替わりで掲載される裸体が関の山だった。どれだけページを繰っても、淑女達はビキニのトップスすら外そうとしない。と言うか、そもそも水着写真がない。この乙に澄ましてオートクチュールの服を身につける、鶴のように細い淑女達の一体何が良いのだろう。ショッピングモールまで車で3時間走らないと詣でられない田舎のティーンエイジャーがそう考えるのは、ある意味当然の話だった。
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