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    rainno🐌

    @shamisembrella

    かたなとさにわ中心。一次創作農家出身。
    絵と字を描くかたつむり。雑食で偏食で悪食。

    drawing / writing
    fanarts mained Touken Ranbu / my originals
    they might contain immorality and palaphilia.

    website ◆ http://unohanakutashi.dreamlog.jp/#top
    pixiv ◆ https://pixiv.me/5amidarainn0
    Tumblr ◆ https://unohanakutashi.tumblr.com
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    rainno🐌

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    ※独自解釈、捏造設定
    ※イベントストーリーなど未読あり

    けーくんと仮面カプ演じてカフェ巡りしたり辛いラーメン食べに行ったりしたいだけ。
    ケイ監未満。監督生の性別は伏せています。ふわっと書いたので粗だらけ。

    ##ついすて



    『振動ファントム』


     目が覚めて、端末を覗く。そこに特に意味は無い。
     着信を知らせるバイブレーションが聴こえた気がしたが、どうやら錯覚だったらしい。携帯電話やスマートフォンが普及した現代人には――特に常日頃から通知の有無を気にしている若年層にはよくある事、そう、いつもの事だ。


     放課を告げるチャイムが響く。予定の無い日ならば席につき直してゆるりと最新の投稿を浚うところだが、今日は約束があった。教科書をてきとうに机に突っ込み、財布とスマホの入った鞄を引っ掴んで教室後方の扉へと向かう。置き勉は推奨されないが校則違反ではない。近くテストも無いし、厳格な女王様もすぐさま首を刎ねたりはしないだろう。
    「おうケイト、今日部活?」
     敷居を跨ぐ寸前の背中にクラスメイトの声が掛かり、一瞬面倒に感じつつも、違うよ、と振り向きざまに笑顔を繕った。
    「じゃあ今からカラオケ行かね?」
    「ごめん、オレこれからデートなんだよねぇ」
     顔より上に両手を合わせてみせるケイトに、周りの数人を含めたクラスメイトが納得半分、呆れ半分といった顔でああ、と頷く。
    「オンボロ寮の監督生だっけ。お前らほんと仲良いよなぁ」
    「そ。オレらラブラブだからさ。カラオケはまた今度ね」
     じゃ、と振った後ろ手をしんがりに教室をあとにする。放課直後で自分以外は人気が無い廊下を咎められない程度の速足で進みながら、その足音に軽いため息をひとつ重ねた。


     小一時間後、港に程近いカフェの一席にケイトと監督生の姿はあった。二週間ほど前に賢者の島へ初出店したばかりのフランチャイズチェーンだが、マジカメ映えする店舗限定メニューがあるらしいと聞きつけてやってきたのだ。
    「いやー、ホントいつもありがとね。監督生ちゃん」
    「いえ、自分もこれぐらいがちょうどいいですし」
     奢ってもらってるみたいなものですからと、ケーキの最後のひとかけを口に運びながら監督生は笑う。
     テーブルの上にあるのは、珈琲、紅茶が一杯ずつと、一人前のデザート。交通の便が悪いこの島限定のものなら当然希少価値は高く、いいね数も多くなる事請け合いなのだが、如何せん甘いものが苦手なケイトには一セットを食べきるのがなかなかに苦行である。そこで写真を撮ったあとは付き合わせている礼も兼ねて、監督生の取り分を多めにシェアしているというわけだ。さすがにグリムは連れてこられないのでおみやげを買って帰る事で許してもらっている。
    「あっ、待ってストップ。今の顔かわいいからそのまま」
     監督生は言われるまま、シャッター音とケイトの合図があるまで動きを止めた。
    「ハッシュタグ、けーくんと監督生ちゃん、今日もラブラブ、っと」
    「今の写真はアップしないでくださいよ、大口開けて恥ずかしいですから」
    「えー、せっかくめっちゃ盛れてるのにー」
     ダメです、と念押ししてカップを傾ける。この子と懇意にしている後輩達にも見せてやりたかったが、本人が嫌がっているのでは仕方が無い。
    「このあともう一軒、行くでしょ?」
    「当たり前じゃないですか。むしろそっちが本命ですよ」
    「だよねー。そう来なくっちゃ」
     撮ったばかりの自信作は加工もせずアーカイブに移動させ、軽い鞄と会計伝票を手に席を立った。


     熱い吐息を弾ませ、額の汗を拭う。口に含んだ水の冷たさが心地好く、通り抜ける喉をひやりと潤した。
    「あっつー。今回のは激しかったね」
    「そうですね。指先までじんじん痺れてます」
     よく頑張ったね監督生ちゃん、そう言って隣の頭に手を載せる。触れた髪は少し蒸れていて、本人もその自覚があるのかすぐに退けられてしまった。
    「でもオレ、今日のがここんとこで一番好きかも」
    「自分もです。今度別のも試してみましょう」
     ふと目を目を向けた小さな窓から薄暗い外界が覗いているのに気がついて、はっと我に返る。スマホを取り出すと、門限まで一時間を切っていた。
    「おっと、門限ブッチしたら首刎ねられちゃう」
     急いで帰んなきゃ、と立ち上がるケイトに続き、監督生も上着を羽織る。
     監督生ちゃんとお揃いならあの首輪も悪くないけど、と思い浮かんだ台詞を声に出す寸前で呑み込んだ。冗談やめてください、と一蹴されるのは当然目に見えていたが、そもそも魔法を使えないこの子に女王の術は意味を為さない。強いていえば毛むくじゃらのモンスターとお揃いになるのが関の山だ。なんとなく、その事実を言葉にされる事を避けたくなってしまったのだ。
     店を出ると夕刻の外気が火照った身体を包み込む。
    「それにしても意外だよねー。監督生ちゃん、甘いもの好きだから辛いのダメなのかと思った」
    「ケイト先輩に誘ってもらえて嬉しいです。グリムと一緒だとあんまり食べられないんで」
     刺激物がタブーなのは普通の猫と同じなのか、とあらぬ方向に向きかけた思考を現実へと補正する。
    「グリちゃんは今日の夕飯どうするの?」
    「購買で何か買うようにお金渡してきてます」
     出てきた店の暖簾と看板を振り返り、今更ですけど、と監督生は続ける。
    「ここにもラーメン屋なんてあるんですね」
    「監督生ちゃんの故郷にもあった?」
     はい、と頷きながら帰路に向き直る。
    「じゃあ結構このあたりと似てたりするのかな?」
    「そうかもです」
     オレもいつか行ってみたいな、そう言いかけて、やはり噤んだ。この子自身が戻れる保証も無いのに、軽々しい期待を押しつけるのは無責任だ。だいたい、そこまで深入りするべき相手じゃない。


     平日で部活が無く、かつ比較的早く放課する日には、オンボロ寮の監督生をデートと称して連れ出すのがケイト・ダイヤモンドの習慣となっていた。プランは大抵いつも同じ――マジカメ映えするスポットで素材撮りをして、ほかの友人は誘えないような辛いものを食べて帰る。それだけ。特別な事は何もしない。きっちり門限どおりに帰寮するし、週末は公用でも無ければ顔も見ず、メッセージの内容は約束の日時を取りつけるだけの事務連絡ばりに簡素なものだ。デートだとかラブラブだとか、誤解を招くような単語を敢えて発するのは、あわよくばそういう関係なのだと認識させるためだ。話が拡がれば、他者から余計な交流を求められる事は自ずと少なくなる。
     その場その場の関係を楽しみはしたいが、馴れ合いも付き合いも正直いって面倒だ。今でこそ日常的に顔を合わせる学友も、卒業すれば年に一度会うかもわからなくなる。そんな連中に無駄な体力も愛想も使いたくない。きっとこの子もそうなのだ。突発的に現れて、特例的に入学を認められた、魔力の無い半人前。そんなのはどうしたって好奇の的だ。質問攻めにも遭ったろうし、心無い言葉だって浴びせられた事だろう。だから行動を共にした。そういったものに対する一種の牽制だった。知らない場所で手を差し伸べてくれる心優しい先輩を演出しつつ、体良くクラスメイトとの接触を避けられる。この子にとっても不利益ではないだろう。ウィンウィンとまではいかないまでも、ある程度のギブアンドテイクは成り立っているはずだ。そう都合良く理由づける。
     互いが互いの利得のために互いを利用する、暗黙に結ばれた盟約なのだ。そこに感情が伴うはずは無い。


     いつの間にか無言のまま歩を進めていて、気づけば学校正門の前だった。日はとっぷりと暮れていたが、門限までにはまだ余裕がある。先輩としてかわいい後輩を送り届けようと、分かれ道を過ぎて尚隣につく。
    「ここでいいです。リドル先輩に怒られちゃいますから」
    「いいっていいって。ここまで来たらオンボロ寮まで行っても変わんないし」
     強情を張ってしまったと、ケイトは己の言動に驚いた。普段なら甘んじるであろう提案を、自分の我を通して押し退けるなんて。自分の事を心配してくれたのだろうに、なぜか胃のあたりがむかついた。激辛ラーメンが今頃響いてきたのだろうか。
    「大丈夫ですよ、ほら」
     監督生が指し示した先、オンボロ寮の前には憶えのある影がみっつ、暗がりの中でも見て取る事ができた。
    「おーやっと帰ってきた、監督生。グリムに付き合わされて大変だったんだぞ」
    「ダイヤモンド先輩と出掛けてたのか。夕飯は済ませてきたんだな」
    「うん。これ、グリムへのおみやげなんだけど、ふたりもよかったら」
     最初に行ったカフェから大切そうに抱えていた缶を開くと、クッキーやマドレーヌの詰め合わせを三袋取り出した。グリムへ、とは言っていたが、最初からこの展開を予測していたのだろう。
    「僕達にまで悪いな、監督生。ありがたくいただくよ」
    「モンスターのお守り代にしちゃ安いけど、もらっといてやんよ」
    「ふなー! これスゲーおいしいんだゾ!」
     何か言いたげに振り返る監督生に、ケイトは手のひらを振ってみせる。
    「エーデュースちゃんが居るなら安心だね。けーくん先に戻るよ。ちょっとくらいは誤魔化しといてあげるけど、あんまり遅くなんないようにね」
     言い捨てて、誰の返事も聴かずに踵を返す。オンボロ寮から漏れる灯りがぼんやりとケイトの影を行く道に落としていた。
     胃袋とは違うどこかで何かが沸き立っている。その何かを冷まそうと、ハーツラビュル寮への道すがら、ケイトはその身を夜気でゆすいだ。


     どこかで大切に思っていたのだろうか、幾らか特別に感じていたのだろうか。今となっては確かめる術も無い。仮に気づいて伝えていたとして、別の関係になっていたとしても、それが一体何だったというのだろう。
     結果は何も変わらない。そのひとが居なくなったという現実は。
     いつもの事じゃないか。偶々、今回は離れていくのが向こうで、自分は置いていかれる側だった。立場が逆なだけで、こんな事には慣れっこだったはずだ。いいや、元々、何も生まれてすらいなかったのだから。
     こんな痛みは、まやかしだ。


     バイブレーションが鳴った気がする。どうせ今度も幻聴だと、画面は開かず微睡みに落ちる。
     返信は無い。今日も、明日も、これからも。


      - 終 -
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