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    kiri_nori

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    kiri_nori

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    ある夏の日の話。季節ボイスネタも入ってます。お題はメル燐ワンウィークドロライさんよりお借りしました。

    ##メル燐

    暑さ対策 二度寝から目覚めた燐音は今日をどう過ごすか悩んでいた。燐音が休みだからとぐっすり寝過ぎたせいなのか、それとも用事があったのかは知らないが同室の二人は起きたときにはもういなかった。
     どちらか一人でもいれば話し相手になってもらったのだが、いないものはしょうがない。静かな空間自体は別に嫌いではなくとも今日の燐音はそういう気分ではない。とはいえ悩んでいるだけだと時間がもったいないのも事実である。
     そんなときは運を天に任せた方が早いとばかりにサイコロを振ることにした。丁が出ればパチンコで半が出れば寮にいる誰かに構ってもらおう。さすがにこれだけの人数が住んでいて誰にも出会わないということはないはずだ。いい考えだと燐音は一人で頷くとサイコロを転がした。
     出た目は六の丁。つまり今日の燐音の予定はパチンコに決まった。そうと決まれば部屋でボーッとしているわけにはいかない。こうしている間にも良い台が取られているかもしれないし、幸運の女神がどこかに行ってしまうかもしれないのだ。燐音はさっさと身支度を済ませると部屋から出て行った。

     胸を躍らせながら玄関までやってきたはいいが、明らかに暑そうな外に燐音はつい二の足を踏んでしまった。燐音から見える範囲では雲一つない晴天といっていい。今日の日差しは間違いなく肌に刺さると痛いタイプのものだろう。日焼けにはHiMERUがうるさく、何なら二週間ほど前に日焼け止めを押し付けてきたから一応塗ってはきたがそれだけで防げるとも思えない。
     それでもせっかくサイコロがパチンコに行けと背中を押してくれたのだからそれを裏切りたくはなかった。何より今日は当たる気がするのだ。前回行った時は負けたから今回こそは運が向いてきている気がする。まあ、外がどれだけ晴れていてもパチンコ屋に入ってしまえばこちらのものだろう。別に日が落ちるまで打っていたところで休みなのだから誰に何を言われるまでもない。
     燐音がそう決めて外に出ようとした時に誰かが外から寮に帰ってくるのが見えた。遠くて……というか帽子で顔はよく見えないがあの薄紫色のシャツには見覚えがある。視線を感じたのか単なる偶然かその人物が顔を上げて、面倒くさそうに顔を歪めたのが燐音には分かった。
     そんな顔を見せたくらいで絡みに行くのを止める気は毛頭ない。ただ、今駆け寄っていったらせっかくの涼しい室内ではなく外で話すことになるから燐音にしては珍しく待っているだけなのだ。こちらに歩いてくる人物だってそれを理解しているのだろう。表情とは裏腹に足取りに躊躇は一切見られなかった。
    「メルメルおかえり~」
    「……ただいま帰りましたが、天城はどうしてここにいるのですか? まさかHiMERUを待っていたわけではないでしょう」
    「愛しのメルメルを待ってたに決まってるっしょ!」
     無言で燐音は帽子の下から睨みつけられた。冗談もほどほどにしろと瞳が訴えており、燐音はやれやれと肩をすくめた。どうやらHiMERUは暑さで少しばかりイライラしているらしい。仕方ないと燐音は正直に名探偵に答えを教えてあげた。
    「今からパチンコに行こうとしたら偶然メルメルが帰るタイミングと一致しただけっしょ。そもそも俺っちはメルメルがどこに行ってたかも知らねェし」
    「プライベートなのでHiMERUの行き先は黙秘しますが、まさかその格好で出かけるつもりなのですか」
    「ダメ? メルメルからもらった日焼け止めは塗ったけど?」
    「当たり前です」
    「え~じゃあメルメルがその帽子でも貸してくれンの?」
     断られること前提で燐音はそう告げた。何故ならば前に似たことを言ってHiMERUに怒られた経験があるからである。ふざけないでくださいなどと言われて会話が終わって別れることになると燐音は予想しているのだ。燐音としては早くパチンコに行けて、暑い中帰ってきてイライラしているらしいHiMERUだって部屋に戻って休むことが出来る。お互いに良いこと尽くしだ。
     それなのにHiMERUは、少しだけ悩むように俯いたかと思うと帽子を脱いで燐音の胸に押し付けてきた。チャリとネックレスが揺れた音がして、燐音は帽子を受け取ってしまった。
    「今回だけ貸してあげます」
    「へ?」
    「そのかわり今度一緒に天城の帽子を買いに行きましょう。また今日みたいにたかられても困りますから」
     最後にそれだけを告げるとHiMERUは足早に場を去ってしまった。去り際に笑っていたように見えたのはきっと燐音の気のせいだろうと思いながら。
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    wonka

    DONEアベルとアビス/アビアベ寄りですが左右不問
    悪夢を見たアベルの話
    nightmare母が刺された時のことは今でも夢に見る。
    もう乗り越えたことだと思ってはいてもその悪夢が訪れるたびに鮮明な映像で繰り返し見せつけられる凄惨な過去の光景。子供だった頃ほどは動揺しなくなったものの現実と見紛う悪夢はそれでも良いものではない。
    また今日も。ああ、この後母は殺される。二度と見たくない光景がまた繰り返される。頭にこびりついて離れないこの先の光景から目を逸らしたくても自分の意思で止める術のない夢の中では目の前の事象をただ眺めいることしかできない。母から食べ物を受け取った男が懐に忍ばせていたナイフ、それが母の身を切り裂く、その場に倒れ噴き出す赤い血でみるみる染まってゆく美しく優しかった母……夢に見なくとも忘れることのできないのにそれでいて何度も見た悪夢だ。そう思った矢先、血に染まる母の姿はみるみるうちにアビスに変わった。母の返り血を浴びた男の立っていた場所には鮮血の赤に染まる自分がいた。え、と思わず溢れた声は夢が現実が分からない。心臓がどくどくと音を立てて鼓動を早める。違う、アビスは助かったはず。そう自分に言い聞かせるも血溜まりなかのアビスはびくともしない。「お前を庇ってそいつは死んだ」どこからともなく声がした。違う、アビスは死んでない。「お前を庇ったせいで」「アビスは死んだ」違う、違う、そんなこと命じてない、望んでない。アビスは今でも……責め立てる声はアベル自身の声に似ていた。うるさい。耳を塞いでもその声は止まない。アビスの体から流れでた血が立ち尽くすアベルの足元にまで広がっていた。うまく息ができない。は、は、と自らの乱れる呼吸音が耳に響く。酸素が足りなくなっていく感覚に視界が暗くなった。
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