添い寝 天城が寝ている。家に帰ってリビングの様子を覗いてみれば横になって眠りに落ちている姿が視界に入った。横に雑誌が置かれていることから読み終わったか、読んでいる最中に眠くなってそのまま寝てしまったというところだろうか。
別に天城が寝ていること自体は珍しくも何ともない。暇なときは出かけていることが多いが、室内で過ごすこともそれなりにあるのだ。だからこの光景だってありふれている見慣れたものだった。
普段であれば用事がなければ何もせずに放っておいている。起こしたら起こしたで「メルメルってば燐音くんが寝ていて寂しくなっちゃったんですか~?」などとからかってくることが目に見えていた。そんな天城の相手をするのは面倒極まりないし、何より天城が寝ていたくらいで寂しさを覚えるような殊勝な性格はしていない。
だから今日だってせいぜいがタオルケットをかけてやるくらいで、後は自分の時間を過ごすつもりであった。
……そのつもりだったのだが、今日の仕事はソロで朝早くからのロケであったため今のHiMERUが眠気を覚えていることは事実である。多少仮眠を取ったところで夜の睡眠に響くとは思えない。急ぎの用事だってない。そんな状況で目の前で天城が寝ていて、心が揺れ動かない方が難しかった。
「……まあ、丁度天城と眠りたいタイミングが被っただけですから」
そんな誰に聞かれているでもない言い訳をしながら天城の隣に身体を滑り込ませた。
「……ア?」
目を開けて見れば至近距離でメルメルの顔が見えた。瞳を閉じて呼吸で身体が薄く上下している姿は眠っているようにしか見えない。寝たふり……とは思えなかった。
は? なに? 俺っち何か試されてる?
あまりに突然の出来事に寝起きでぼんやりしていたはずの頭が一気に覚醒する。だって昼寝をしていたはずなのにメルメルが目の前にいたことなんて初めてなのだ。いつもであれば俺っちが寝ていたところでメルメルはコーヒーを飲んでいるか本を読んでいるかばかりで、こんな風に一緒に寝ていたことはない。俺っちが起き上がって目を軽く擦っている姿を見て「ようやく起きたのですね」なんて手元から目を離さずに言い放つくらいだ。
だから混乱して、状況を把握しようと周囲に視線を動かしてやっと気付く。俺っちにタオルケットがかけられていることと、メルメルもそれに半分入っているということにだ。ここでようやくメルメルも単純に一眠りしようと思って隣にいた可能性に思い至った。いや、だって、思いもしないだろう。メルメルが特別な理由もなく夜でもないのに俺っちの隣で眠っているなんて。
「……あまぎ?」
俺っちが身動ぎしていたせいだろうか。さっきまで眠りの中にいたはずのメルメルの瞼がゆっくりと持ち上がった。
「あ、悪ィ。起こしちまったか」
謝って反射的に起き上がろうとしたところでメルメルに腕を掴まれた。もうとっくに覚醒している俺っちと違ってメルメルはまだ眠そうである。
「……別に、もう少しくらいいいでしょう」
それだけ言い残してメルメルの手からは力が抜けた。半分ほど持ち上がっていた瞼も下ろされて、どうやらもう少し眠るみたいだ。そんなメルメルの姿を見て俺っちも何だか気が抜けてしまった。ただ寝ていただけのメルメルに何を驚いていたのかと。
もうすっかり目は覚めていたが、珍しすぎるメルメルの頼みに俺っちは起き上がりかけていた身体を再び横に戻した。どうせなら起きるまで寝顔を眺めていてやろうかなんて考えながら。