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    kiri_nori

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    時間軸を気にしないでほしい夏のメル燐

    ##メル燐

     ……暑い。昼間の太陽が夕日に変わりかけている時間にシナモンまでの道を歩いているが、どうにもこの夏の暑さが苦手であった。梅雨の時期のじっとりとした暑さもそれが終わった後にやってくるカラッとした暑さも等しく苦手である。
     別に夏の暑さが苦手だと言ったところでHiMERUのイメージダウンには繋がらないだろう。大抵の日本人は夏や冬のどちらかは得意ではなく、それが苦手なところでマイナスのイメージを抱かせる可能性は低い。ただ、あまりに暑いと苛ついてしまうのだ。苦手だと正直に言って気を遣われてしまうことは避けたい。
     とにかく、それを避けたいのならばHiMERUは夏の暑さ程度に動じないアイドルになるだけだ。HiMERUは季節なんかでパフォーマンスが落ちるアイドルではない。何より舞台に立てば暑さなんて忘れてしまうのだから。

     横断歩道で信号が変わるのを待っていると渡る先の道に随分と見慣れてしまった赤毛が視界に入った。HiMERU達をシナモンへと呼びだしている張本人なのだ。向かう道すがら偶然出会ったところで何もおかしくはない。
     見えた相手が桜河であれば声をかけていただろうが天城なので気付かない振りをすることにした。……椎名は現在もシナモンで働いているであろうことから置いておくことにする。さすがに空腹状態の時に見かければ何か持っている食べ物を分け与えはするけれど。
     このイライラしてしまうほどの暑さの中で天城と会話をする気力はない。これでも天城のことは認めているし好感を持っていると言ってもいい。だから普段ならばただの会話をすることもそれなりに楽しんでいる。……あまりに鬱陶しいとその限りではなくなるが。しかし、今はそれを楽しむ余裕がない。店内ならともかく外であれは暑苦しいにも程がある。
     HiMERUに気付かずさっさとシナモンに向かってほしい。こちらに気付いた天城がHiMERUを置いて先に行く可能性はゼロなのだ。今までの付き合いからそのくらい考えるまでもなく分かってしまう。むしろ知らない振りをされた方が何かを隠しているのかと怪しむだろう。
     ああ、もうすぐ信号が青に変わる。さっさと行ってくれ。そう願いチラチラと視線を向けていたことが駄目だったのだろうか。不意にこちらを向いた天城と目が合ってしまった。HiMERUは帽子などで軽く変装こそしていたが、天城が見抜けない程度のものではない。その証拠に天城の口角が見つけたと言わんばかりに上がっているのが見えてしまった。
     もうどうにでもなれ。暑さのせいか天城のせいか分からない苛立ちのまま足を踏み出した。
    「まさかシナモンに着く前にメルメルに会えちまうとはなァ。いっそのことニキとこはくちゃんの前に待ち合わせして一緒に来ましたァって登場でもしちまう?」
    「却下します。HiMERUは天城と偶然会っただけなのですから」
     喋りながらするりと隣に並んだ天城から距離を取る。この男は基本的に距離が近い。肩を組むくらいなら誰が相手だろうとやる。もちろん椎名以外ならば相手と状況は読んだうえでの行動だろうが。……そう、思っていたはずなのだがいつの間にかHiMERUと桜河に対しても普段から更に距離が近くなっていた。ライブ中ならば分かる。ファンサービスでもあり、あの熱の中にいるとお互いへの接触だって増えてしまうのだから。
     問題はこうしてオフのタイミングでも増えていることであった。この陽が沈みかけているとはいえ暑い中で天城のスキンシップなんか受けたくないから距離を取ったが、最近振り払う回数が減っていることを自覚してしまっている。メンバー以外の目がない楽屋やミーティングルームではHiMERUが読んでいる雑誌や台本を覗き込むために天城が肩に腕を回してきても放置している。
     最初は必要以上の接触が鬱陶しかったと思うのだが、気付けば天城の行動にも慣れてしまい振り払う必要性を感じなくなっていた。
     帽子を少しだけ上げて天城の方を見れば何が楽しいのか笑顔である。
    「そんなにわざとらしく距離取られちゃうとさすがの俺っちでも泣きそうになっちまうぜ?」
    「天城がこの程度で泣く男だったらHiMERUは今まで何回天城を泣かせたことになるのでしょうね」
    「そりゃァ数えきれねェくらいっしょ」
     天城が笑う。会話の心地良さと暑苦しさを天秤にかけて、日に日に心地良さの方に傾いていくことを見て見ぬ振りができなくなるくらいにはこの距離感が好ましいと感じている。
     一つ息を吐いて天城を見れば首元に汗を掻いているのが見えた。ああ、そうだ。天城だって別に暑さに強いわけではない。……どちらかというと気温の変化によって自身の体温を調節することが上手くないのだと考えているが。
     万が一にも熱中症にでもなられたら困ると何か飲み物でも買わせるべきかと悩んだが、気が付けばシナモンまでもう目と鼻の先である。店内なら冷房も効いているだろう。椎名に何か熱中症の予防になるメニューでも訊いてみればいいかもしれない。天城のためだと言えば隣を歩いているこの男はどんな顔をするのだろうか。それを想像するだけでも暑さによる苛立ちが薄まっていった気がした。
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