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    kiri_nori

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    メル燐。そこまで強い要素はありませんが、りんねの同室掛け合いに触発された結果書いたひめるが部屋を訪ねる話。

    ##メル燐

     先程寮監である蓮巳先輩から受け取ってしまったユニットのリーダーの署名が必要な書類を見て深いため息を吐いた。別に断っても大丈夫だという空気は出ていたが、彼は本人の性格なのか寮監という立場上なのか天城の素行を叱っている場面によく出会している。同じユニットのメンバーとしてこれ以上迷惑をかけさせるわけにもいかないことが受け取ってしまった大きな理由だ。
     天城は世話が焼けてしまう人物であることは共に過ごす中で知ってしまっていた。本当に不本意ではあるけれど、迷惑をかける相手は自分を含めたCrazy:Bのメンバーだけにしてほしい。
     再び出そうになった二度目のため息は飲み込んで天城の自室の前に立つ。ノックをするより前に扉が開かれた。
    「あれ、HiMERUくんどうしたの? 燐音先輩に用事?」
    「はい。天城はいますか?」
    「中でまだ眠っているから起こしてあげるといいね。奏汰くんは仕事に行ったしぼくも今から出かけるから好きに過ごすといいね!」
     そう言うと巴さんは仕事なのか用事なのか部屋を出てどこかに行ってしまった。最後に言ったお礼の言葉は聞こえていたか分からない。とはいえ、部屋の住人から許可をもらったことは事実だ。天城がまだ寝ていることも分かったのだから言葉に甘えて中にお邪魔させてもらおう。
    「お邪魔します」
     言葉通りに寝ているのならば返事はないと思っていたが、予想通り何の反応も帰ってこない。静かに扉を閉めると天城のベッドへと近付いていく。
     ……天城が埋もれている。正確に言えば枕代わりだと思われるぬいぐるみに顔を押しつけて、その周りを取り囲むようにぬいぐるみが置かれていた。この形状からしてぬいぐるみの正体はダイオウグソクムシだと推測できる。同室の深海先輩にもらったというところだろうか。随分ファンシー……と言っていいかは分からないが、最近の天城はこの状況で寝ていることは容易に想像できた。ぬいぐるみによって色に差があるのは時間経過によって増えたのだろう。
     起こすことに邪魔だとぬいぐるみの位置をずらす。埋もれていた天城の寝顔が晒された。天城の寝顔を見たのは別にこれが初めてじゃない。ロケで泊まりになれば同じ部屋を割り当てられることは何回もあった。それ以外に二人で行ったホテルで見たこともある。そちらは今みたいに服なんて着てはいなかったが。
     急に目元に光が当たり部屋の電気が眩しいのか少し眉間に皺が寄っている。このまま放置していてもそのうちに眩しさで目が覚めそうだがそれまでは待てない。資料を一度近くに置いた後、天城の肩に手を置くと遠慮することなく揺すった。
    「天城、起きてください」
    「んあ? ……メルメル?」
     ぬいぐるみに押しつけていた顔を離すと天城はこちらを見上げてきた。へこんでいたぬいぐるみがゆっくりと元の形に戻っていくのが視界の端で見える。
    「おはようございます」
    「……おはよってメルメルがどうして俺っちの部屋にいるわけ?」
     天城が上半身を起こすと欠伸を噛み殺しながらこちらに質問を投げかけてきた。起き上がった衝撃で囲んでいたぬいぐるみが動いたのは天城にとって気にすることではないのだろう。
    「ユニットリーダーの署名が必要な書類を持ってきましたので、ちゃんと目が覚めたら記入をして蓮巳先輩に渡しておいてください」
    「敬人ちゃんに?」
    「そうです。あまり迷惑をかけないようにお願いしますね」
    「え~俺っちとしては楽しくお話してるだけなんだけどォ」
    「今以上にHiMERUに世話を焼かせないでください」
     ため息混じりに言った言葉に対して天城が一瞬だけ目を丸くした。すると、何故か枕代わりに使っていたぬいぐるみを抱き締めながらニヤリと口角を上げる。……面倒になりそうな気配だ。書類を渡して伝えるべきことは言った。これはさっさと部屋を出た方がいい。
    「それではHiMERUはこれで失礼します」
    「まァ待てって」
     天城に腕を掴まれたことで足を止める。ほら、やっぱり面倒じゃないか。
    「メルメルったら俺っちの世話を焼いてくれるンだ?」
    「……言葉の綾です。他のユニットの人に迷惑をかけられたら困りますから」
    「それじゃあ、そういうことにしとくかァ」
     パッと天城の手が離されたが、納得しているとは思えない。今だってぬいぐるみを抱き締めて形を変えながら楽しそうに笑っている。よっぽどさっきの言葉を否定してやろうとも思ったけれど、言えば言うほど天城が喜ぶことは分かっていた。
    「……今度こそ帰ります」
     手を振る天城に見送られながら部屋を後にした。次からはもう少し厳しく接するべきだと強く思いながら。
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