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    kiri_nori

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    お題はメル燐ワンウィークドロライさんよりお借りしました。

    ##メル燐

     最近メルメルの付き合いが悪い。もちろん仕事は今まで通りきっちりやっているし、レッスンだって遅れることも手を抜くこともない。ただ、ミーティングに対する付き合いだけが急に悪くなったのだ。
     ミーティングとは言っているだけで仕事の話をすることの方が少ない集まりである。ギャンブルで勝っただの負けただの、そんな話をする時間が多い。メルメルが積極的に話すことは少ないが、仕事がなければ必ずと言っていいほど参加していた。口では何を言いつつも途中で帰ったりしないことが何よりもこの時間を気に入っていることを物語っていたというのに。
     ……俺っちが何かした? メルメルに何かをしたという意味なら前から色々やっている。面倒くさそうな顔をされたのは数え切れないほどに。しかし、こんな突然付き合いが悪くなるようなことはやっていない。そもそも仕事やレッスンで会うときの態度は全く変わらないのだ。それはニキやこはくちゃんに対しても同じで、二人と何かあったことも考えにくい。その場合、メルメルが上手く隠せたとしても二人の顔か態度に出るだろう。だからこれは違う。
     頭を捻って付き合いが悪くなったタイミングを思い出す。そういえばこの前のナンバーエイトの仕事が終わって少ししてからだったように思う。……間違いない。それまでは断るとしても何の用事があるか言っていたのに、こっちに帰ってきてからは「用事があります」だけで何も言わない。
     俺っちだって普段なら用事の内容を根掘り葉掘り訊いたりはしない。最初の方はそういうこともあるだろうとスルーしていた。でも、さすがにこの頻度はおかしい。……Crazy:BのHiMERUとしてソロの仕事を受けることはあっても、ソロアイドルとして今のHiMERUが仕事をしているとも思えない。それこそリーダーに黙ってなんて。
     考えれば考えるほど分からなくなってくる。途中で色々あったがナンバーエイト自体はちゃんと真っ当に仕事を終えたはずだ。メルメルが終わった今も不信感を抱いているとは思えないし、それがミーティングの付き合いに影響するとも思えない。そろそろニキもこはくちゃんも不思議がっている。
     疑っているわけではなく、理由が分からないのだ。それは、俺っちも同じなもので。
    「……推理を担当するのは俺っちじゃないンですけどォ」
    「なに一人で言っているのですか」
     レスティングルームでぽつりとこぼした独り言を拾われた。聞き間違うわけもないその声の主は今の今まで俺っちを悩ませていたメルメル本人である。
    「メ、メルメル?」
    「そうですよ」
     隣座りますねと言ってからメルメルが隣に座る。なんだか仕事やレッスンの予定もないのにこうやって顔を合わせるのは久しぶりな気がした。それだけ前は頻繁に会っていたということなのだろう。四人揃うことがいつの間にか普通になっていたと改めて実感して笑いそうになってしまう。最初の頃はあんなに皆付き合いが悪かったのに。
     だからこそ今がメルメルに理由を訊くチャンスに違いない。そう思って口を開こうとした瞬間。
    「丁度良かった。あなたに伝えたいことがあったのです」
    「俺っちに?」
     メルメルに先を越されてしまった。まあ、今のメルメルは忙しくないみたいだし話が終わってからでも時間はあるだろう。雰囲気からして後で別の話もできないほど真剣な内容でもなさそうなのだから。問いに対して軽く頷いたメルメルを見ながら言葉の続きを待つ。
    「車の免許を取ってきました」
    「……はァ?」
     口を開けてついメルメルの顔をじっと見てしまう。その顔は普段と変わらなくて冗談を言っている雰囲気は微塵も無かった。
    「これで今後はあなただけに運転を任せることはありませんね」
    「えーっと、マジで取ってきたの?」
    「はい」
    「……もしかして最近付き合い悪かったのもそのせい?」
    「そうですね」
     当然と言わんばかりに肯定の言葉が返ってきた。それならそうと言ってくれたら俺っちがここまで悩むことなかったンだけど!? そう返そうと口を開きかけて閉じた。代わりに別の言葉を紡ぐ。
    「急に付き合い悪くなってニキもこはくちゃんも不思議がってたっしょ」
    「それは……後でちゃんと二人にも伝えておきます。速めに免許を取っておきたいと思いましたので」
    「必要になる予定でもあンの?」
    「いつ必要になるか分からないからですよ。さっき言ったでしょう。あなただけに運転を任せることはないと」
     言われてメルメルの発言を思い出す。さっきは突然免許を取ってきたとか言うから驚いて流してしまったのだ。
     ナンバーエイトの仕事が終わってから突然車の免許を取りに行ったメルメル。確かに車の運転が必要になる仕事なんていつやってくるか分からない。全員持っていないユニットなら別だが俺っち達は違う。だからきっと急いで取りに行ったのだろう。その理由を察してしまって言葉をなくしてしまう。
    「……あ~、メルメルってばそういうこと」
    「はい。天城しか運転できない状況では何かあっても交代できませんから。これならあなたが疲れてしまう前に代わることもできるでしょう」
     こいつ、たまに直球で言葉を投げてくるよな。なんだか妙に照れくさくなってメルメルから視線を外した。
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