無自覚　いつからかは忘れたけど、燐音くんはHiMERUくんが好きなんだなと思うようになった。皆で集まったときに最初は僕に絡んでくることが多かったのに、気付けばHiMERUくんに絡みに行くのが多くなったのが「あれ？」となったきっかけだったはず。燐音くんから珍しくチョコレートケーキみたいな甘いにおいもしていたし。
　……いや、ちょっと違うかも。僕の落ち着いてご飯を食べられる時間が増えて不思議に思ってたら気付いたんだった。僕にとってはご飯を食べられる時間が増えて、燐音くんにとってはHiMERUくんの隣にいられる時間が増えて良いことしかない結果である。
　だから今向かいのテーブルで燐音くんとHiMERUくんが話しているのをパンを食べながらなんとなく見ていた。あ、天満くんにオススメされたこのパン美味しい。半分ほど食べ進めたところで一つの疑問が思い浮かんだ。
　そういえば、HiMERUくんは迷惑じゃないのだろうか。HiMERUくんは燐音くんに絡まれると面倒くさそうな顔をしていた。それに僕が燐音くんに技をかけられているときも仲良さそうとか言って距離を取って助けてくれなかったことを思い出した。いくら燐音くんが大好きで、HiMERUくんだって前ほど嫌がらなくなったとはいえ毎回はさすがに疲れるんじゃないのかな。
　二個目のパンの袋を開けながらHiMERUくんを見る。本当に嫌だったら自分で拒否してそうだけど念のためだ。その顔はいつもと同じで今にもため息を吐きそうな顔をしていたけれど、においを確認して僕が気にすることでもなかったとパンを飲み込みながら気付いた。
　HiMERUくんって燐音くんといるとティラミスみたいなにおいがするんだ。苦味と甘味が共存しているあの感じ。甘いだけじゃないのがHiMERUくんらしいけど、言っちゃえばなんだかんだ燐音くんのことが好きみたい。
　うーん、これは本当に僕が気にすることじゃなかったっすね。ということはこれって両思いってことなんすかね？　でもだから実は二人は付き合って……みたいなことも燐音くん見てると無さそう。なんか、燐音くんって恋愛慣れしてないというか自分が誰か好きだって自覚したら途端に変に距離取りそうなところありそうだし。別にもうちょっとグイグイいっても大丈夫だと思うのに。
　いっそのことHiMERUくんから押しちゃってもいい気もするけど。いや、もしかしてHiMERUくんの方も自分の気持ちに気付いてなかったりするのかな。僕より色んなことに気付くんだからそんなことはないか。多分タイミングを計っているんだろう。
　そう納得してパンの最後の一口を口に入れた。もう一つのパンを収録後に残して今はお菓子を食べて終わりにするか悩む。二人のことを考えていたら頭使っちゃったからカロリーを取りたい気もする。少しだけ悩んでクッキーを手に取った。これなら収録後までは持つはず。
　封を開けながらもう一度視線を燐音くんとHiMERUくんに移す。いつか二人からするにおいがもっと甘くなる日が来るのかなと思いながらクッキーをかじった。