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    うしんおふかいよう。
    原作軸、既に出来てる二人。

    次まで我慢するから本格的な冬の訪れに寒いなと思ったからアンタに会いたくなった。
    恋人に会いに行く理由には十分だろう、と笑って言えば槇寿郎さんは呆れたように仕方無いなと溜め息を吐いて、でも追い返したりしないで家の中に入れてくれる。
    家の中はしんと静まり返っていた。廊下はひどく冷えている。下の息子は蝶屋敷に暫らく泊まり込みで手伝いに行っていると聞いているので、今この広い屋敷に居るのは一人だけ。

    「なぁ、やっぱり千坊が帰ってくるまでウチに居たら?」
    「申し出だけ有り難く受け取っておこう」

    つれない言葉に肩を竦める。こう言うところ、この人は頑固だ。この屋敷に誰も居ないと言う状況が嫌なのだ。買い物だとか一時的なのはいいが、まる一晩、数日がかりで誰も居ないのは駄目なのだと。妻をひとり、屋敷に残したくないのだと。まぁ、今はあの子が側にいるだろうがと遠くを見ながら話してくれたのは、いつの頃だったか。

    「天元くん、煎餅と饅頭があるがどっちが良い?」
    「あー、饅頭で」

    槇寿郎さんの部屋は火鉢が炊かれていて、この部屋だけが暖かい。パチパチと炭が小さく爆ぜる音が聞こえる。

    「槇寿郎さん」
    「何だ?」

    饅頭と一緒にお茶の用意をしている槇寿郎さんはこっちを見ずに言葉を返す。前は一々振り向いていたのに。つれないじゃないの。

    「寒い」
    「火鉢に当たりなさい」
    「そう言うんじゃなくてさぁ。槇寿郎さんの身体で温めて欲しいわけ」

    俺の言葉に漸く振り向いた槇寿郎さんの眼は俺の様子を窺うように細められている。揶揄ってるのかどうか確かめてるんだろう。ちゃんと真面目そうな顔を作ってるから、たぶん大丈夫な筈。

    「……君の誘いに乗るのも吝かではない、が」
    「が?」

    出された饅頭に手を伸ばしながら、首を傾げさせる。勿体ぶる言い方するじゃん。

    「生憎と今日は千寿郎が一旦帰ってくると連絡があったので、無しだ」
    「うっそ」
    「本当だ」

    照れ屋なのか知らないが、この人は屋敷に他の人間がいる時は絶対にヤラせてくれない。俺に集中しきれないから嫌なのだとか言われたら、こっちだって無理強い出来ない。
    あ~、残念だけどしゃあないわなぁ。

    「時期が悪かったな。また明日向こうに行くようだから、恐らくは俺がちゃんと一人でも飯を食ってるか確認する為だろうな」
    「一人だとアンタ、面倒臭がってちゃんと食わねぇもんなぁ?」
    「……昔ほど動かないから腹が空かんのだ」

    言い訳するように顔を背けられる。
    まぁ、この人の言い分も分かるっちゃ分かる。炎の呼吸は特に体力の燃費が激しいから、食わにゃあやってられない。だから今でこそあんまり食わないこの人だって現役時代は息子に劣らず大食いだったと聞いてる。
    けど、今じゃあ昔ほど激しい戦いなんてありゃしねぇからあんまり食わないでもこの人は日常生活程度送れちまう。ある意味燃費が良くなってる。
    まぁ、あとは単純に自分で作る飯があんまり好きじゃないってのもあるんだろうな。

    「腹が空くように俺と身体動かすかい?」
    「鍛錬なら付き合う」
    「床の方に決まってるさね」
    「やらん」

    にべもない。

    「つれねぇなぁ。あ、千坊に言えばいんじゃん。俺がいるから、ちゃんと槇寿郎さんに飯食わせておくぜって」
    「止めろ。折角千寿郎が帰ってくるのに邪魔するんじゃない。俺はあの子の美味い飯が食いたい」
    「なぁによぉ。たまにしか会えない恋人を無下にすんのかよぉ」

    残っている片手で畳にのの字を書けば、はぁあと大きな溜め息を吐かれた。

    「……明日向こうへ行って、こっちに帰ってくるのは年末前だ。だから、その間に時間が出来たら、また来ると良い」

    待っている。と最後の小さな呟き。俺様じゃなかったら聞き逃してるくらいの小さな誘い。
    この人は、こういう所がいじましくて、愛らしくて、堪らないのだ。歳が二十離れているとは思えないくらいに。

    「アンタ本当、そう言うところっ!」
    「うぉっ、とと。こら、急に抱き着いてくるんじゃない」

    こんなにも俺の感情を揺さぶるのにヤラせてくれないとか。本当に酷なことをする。だから、せめて温もりだけでも堪能してやろうとぎゅうぎゅうに抱き締めてやる。
    手に持っていた湯呑みを置いた槇寿郎さんは、まったくと呆れながらも俺の背中に手を回してくれる。

    ああ、暖かいねえ。

    千寿郎が帰って来るまでの暫しの間。
    恋人の温もりを堪能した俺だった。


    次に来るときは、もっと堪能してやるから覚悟しておけよな!!



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