紅葉の季節は君の季節風に乗って、ひらりひらりと舞い落ちる紅葉。
黄色と赤で埋め尽くされる視界に宇髄は、隣に佇み紅葉を見上げている男を見やる。周りと同じ様な黄色と赤の髪を持つ男。まるで秋そのものだと、くつりと笑えば男─槇寿郎が顔を向けた。
「何か面白いものでもあったか?」
「いやぁね、アンタってほんと秋の男だよな、って思ってさ」
手に持っていた黄色と赤が混ざった葉を差し出せば、槇寿郎をそれを手に取った。
「秋になると俺を思い出す、とは昔からよく言われていたな。俺と言うより煉獄の者は皆言われていた事だろう」
さもありなん。それだけ連想しやすい色合いを持っているのだから、当然のことだろうと宇髄は頷く。
「俺も、任務先でこう言った景色を見ると家族のことをよく思い出していた。妻もこの季節は俺の色で溢れかえるから少しだけ寂しさが紛れると言っていたなぁ」
葉を翳して見る先は、昔の風景だろうか。
「だが……今はそれだけじゃなくて」
ちらりと向けられた視線は何処か悪戯めいていて。
「君の、誕生日も近いのだなと、思い出すようになった」
「っ」
何を言うのかと思えばと、宇髄はぱちりと瞼を瞬いた。今まで家族のことを思い出していたソレに、自分のことまで乗せるとは思っていなくて。
「〜、くそ。今のは不意打ちだったわぁ。旦那のくせにぃ」
崩れてしまいそうになる口元を手で隠しながら悪態を吐けば、槇寿郎は目を細めて楽しそうに笑った。
「いつもしてやられてばかりでは男が廃るからなぁ」
はは、と笑いながら腕を伸ばした槇寿郎にわしゃわしゃと頭を撫でられる。まるで子供のような扱いだけれど、宇髄は存外そんな扱いが嫌いではなかった。
「そんで?俺の誕生日が近いって思い出してくれたアンタは、何をくれんの?」
「そうだなぁ、何をくれてやろうか」
槇寿郎と恋仲となって幾年目。自分も子を持ったことで以前ほどの頻度で会う事をしなくなった。槇寿郎たっての願いだった。子供に、家族に時間を使えと。特に幼い頃はそばにいてやれと。
だから、今こうして二人で並んで歩くのも数カ月ぶりのことだった。
「ねぇ、旦那。まだ決めてないならさ。半日だけでいいから、俺と居てよ」
「宇髄、それは」
「何も丸一日居てくれてって言ってねぇだろ?ほんとは言いたいけど、アンタは許してくれねぇだろうし。だから、半日で我慢するからさ」
な?とわざとらしく小首を傾げておねだりをすれば、槇寿郎は眉間に皺を寄せて、への字口になる。
「自分の顔が良いと分かりきっている男はコレだから」
「そんな俺のことも好きでしょ?」
その宇髄の言葉に答えず、槇寿郎は溜息を一つ吐いた。
「まぁ、良い。半日くらいなら……許されるだろう」
ぽつりと溢れた小さな呟き。
誰に許されるのか。宇髄自身が望んでいて、宇髄の嫁たちは寧ろこの機を逃さずにもっと雁字搦めにしろとケツを叩いてくるだろうし、槇寿郎の息子である千寿郎にも父の事をよろしくお願いしますと言われていたりするし。
亡き妻と息子のことを言っているのであれば、それは確かに分からないけれども。少なくとも許す許さないの問題ではない、祝うならしっかり祝えと言ってくれそうだと宇髄は勝手に思っている。
「よぉし、今から半日で何してもらうか派手に考えるぜ!」
「おい、頼むからお手柔らかにな?」
「さぁてね。半日しか居れねぇんだから、いつもよりすっげぇことしてもらおうかなぁ!」
はらはらと風とともに沢山の紅葉が舞い踊る。
黄色と赤に埋め尽くされる視界。
愛する男の向こう側に、誰かの姿を見た気がした。一人は槇寿郎によく似ていて、もう一人は黒髪の綺麗な女性の様な気がした。
けれど、一際強い風が吹いて咄嗟に目を隠した。
「今の風は強かったな」
強風に巻かれた紅葉が宇髄の体中に張り付いているのを槇寿郎がはたき落とす。その姿の向こう側には誰も居なかった。
マジで許されたんじゃね?
そんな事を思いながら、宇髄も槇寿郎に張り付いている紅葉をはたき落としていく。
「槇寿郎さん」
「うん?」
最後の一枚を手に取った宇髄はにんまりと笑みを作る。
「コレからも、コレを見て、俺様の事を思い出してくれよな」
紅葉を槇寿郎の口元に持っていき、そのまま紅葉越しに口付ける。
呆気に取られている槇寿郎の顔が面白くて、宇髄は派手に笑い声を上げた。
その声は、青く澄んだ高い空へと響きわたった。
終