下心もろとも漬け込んでしまえミンミンと忙しなく蝉が鳴いている昼下がり。
沢山の野菜を抱えた男がやって来た。
「やる」
にこやかに、そう言われて差し出された胡瓜は普段目にするものよりも大分大きいものだった。
「畑始めたんだ」
お裾分けと言う事かと、差し出された胡瓜を手に取った時。自分はこの大きさを知っていると気付いてしまった。手が、覚えていた。思い出してしまった。
此方を見下ろす男の眼差しに、一瞬ゾクリとしたものが背筋を這った。
息子に心配されながら、昼間渡された大きな胡瓜を切っていく。
全くあの男はこんなものを渡してきてどういうつもりなのか。目の前で噛り折ってやれば良かったのか。だが胡瓜自体に罪はない。そんな粗末にするような真似は出来ない。
切った胡瓜に塩を揉み込み、あとは数刻ほど重石を置いて漬けておけば浅漬けが出来る。そこまでやった所であとは自分がやりますからと息子に厨から追い出されてしまった。
襷を解きながら、居間の自分の定位置に腰を下ろした所で小さく息を吐いた。
あの男が、今更なんのつもりであんな下心を見せてきたのか。それが分からない。
かつてあれと身体を交わらせてしまったのは、俺が自暴自棄だったのと向こうの若気の至りだと思っていたのに。
あの男とは元同僚で、先輩と後輩で、今は良き知人……烏滸がましくも歳の離れた友人と思っていたのに……。向こうは違ったと言うことなのだろうかな。
これからどう接するべきなのか。
気付かぬ振りをしていればいいのか。
正直言って面倒臭い。あの男が本気になったら、逃げ切れぬ気がする。しつこさ的な意味で。
何故こんな事で悩まねばならぬのかと、頭を抱えた。
出来た浅漬けの胡瓜は美味かった。
次にお裾分けとして渡されるのは、立派な長茄子。