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    ちえさん

    筋肉大好きな20↑です。
    常に筋肉吸いたいです。
    書きたいだけ書いたお話置いてきます。
    ついすてととうらぶを置いていきたい所存です。

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    ちえさん

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    盛大に大遅刻のお誕生日おめでとうのお話です。
    甘くないし絡みも少ない、だってこれから親密になっていくので!

    #マレ監
    #twstプラス
    twstPlus

    ―自分の世界に居る時から、こういう機会は多々あった。自分は顔見知りではないけれど、自分の友人の、その友人が誕生日だから、パーティにおいでよ、という誘い。

    『来るだろ?』

    放課後に監督生がエースに声をかけられた内容も、ハーツラビュル寮の1年生の誕生日パーティーをやるから来いよ、というものだった。
    少し考えてから、監督生はゆっくりと首を横に振る。
    お互い良く知らないわけだし、知らない人を祝って微妙な雰囲気の震源地になるのは避けたい。友人に誘われてパーティーに参加したは良いものの、誰?という顔をされて、お祝いの言葉より自己紹介が先になる場面はもう、こりごりだった。

    『…私はいいや。』

    『はぁ?なんで?』

    断られると思っていなかったのか、エースはあからさまに不機嫌な反応をして、腕を組んだ。

    『やい子分!せっかくタダ飯食えるのに、なんで断るんだゾ!』

    監督生の足下でグリムも不満を訴えてきた。

    『だって、そのハーツラビュル生…』

    断ろうと理由を話そうとしたが、エースはこちらの話は聞かずやけに食い下がってくる。トレイ先輩のケーキもあるしとか、ゲームもやる予定でその景品も豪華だとか、しきりに此度の誕生日パーティーの魅力を語ってくる。
    なぁなぁ、と軽いノリのエース、足下から子分~!と訴える声、あー!もう!とヤケになって、わかった、と頷いてしまう。結局、監督生は押しに弱いのだ。

    『じゃ、待ってるからな~!』

    開催日を伝えて楽しそうに歩き出すエースを見送って、ため息をつく。すでにもう、半分面倒臭い。当日お腹痛くならないかな、雨にならないかな、と考えながら、オンボロ寮への道を辿る。
    オンボロ寮へ着いて、届くことも滅多に無い郵便物を(オクタヴィネルからの請求書は希にある)確認する為ポストを開けると、ヒラリ、と何か手紙が舞い落ちて、あ、と思った時だった。

    『ぶしゅん!』

    『ちょ、大丈夫?』

    グリムがくしゃみをすると同時に蒼い炎がブオッと吹き出して、ヒラリと舞い落ちた手紙らしきものを焼き尽くした。

    『うー、寒ぃんだゾ…』

    『風邪じゃないよね?
    早く入ろう。』

    ―あ、手紙…まあいいか。

    扉を開けて、オンボロ寮へと入る。出迎えてくれたゴースト達に早速グリムが誕生日パーティーの話をして、彼らは手を叩いて喜んだが、監督生は開催日までの日々を鬱々と過ごした。

    *

    当日は残念ながら、お腹も痛くならなければ雨も降らなかった。恨めしいほどの青空を見上げて、先を歩くグリムの後ろをトボトボ歩く。

    『子分!おせぇんだゾ!さっさと行かないと、オレ様のご馳走がなくなっちまうんだゾ!』

    『はいはいはい…』

    はぁあ、と盛大にため息をついて、ハーツラビュル寮へと続く鏡をくぐる。薔薇が咲いた庭でパーティは既に始まっていて、賑やかな音楽で盛り上がっていた。テーブルの上にケーキが置かれて、飲み物やお菓子が並べられている。
    早速ご馳走に飛びかかろうとするグリムを引き留めて、キョロ、と辺りを見回してエースとデュースを探した。この学園に入ってからしばらく経つが、顔と名前が一致しない学生の方が多いので、その2人が居ない環境は心細い。

    『監督生、来たんだな!』

    嬉しそうに駆け寄ってきたデュースにぎこちない笑みを返して、椅子に腰かけた。

    『私、来てよかったのかな?
    今日の主役のハーツラビュル生、私、全然面識が無いんだけど…』

    『…そうなのか?』

    不思議そうに首を傾げて、デュースはエースと談笑するパーティーの主役を見た。

    『でも、あいつが監督生を…』

    『?』

    デュースと同じように首を傾げたところで、エースが今日の主役を連れてきた。監督生の方を見て、彼は照れ臭そうに笑顔を向けてくる。

    『監督生、来てくれてありがとう。』

    『…あ、いえ…誕生日おめでとう。』

    頭の中で、なんとか彼の名前を思い出そうとしたが、やはり全く浮かばない。しかし彼は監督生を知っているようなので、自己紹介をする手間は省けた。

    『じゃ、ごゆっくり~♪』

    『え!?ちょっと…!』

    ヒラヒラと手を振って、エースは主役の彼を残して、デュースを連れ去ってしまう。

    『なんなの…』

    ぽかんと2人の後ろ姿を見送ってしまい、監督生はハッと我に返って残された彼を見る。

    『エースには、話してあるんだ。それで、協力してもらってた。』

    『なにを?』

    彼の言っている言葉の意味が分からず、首を傾げる。監督生はこのパーティーに来てから、首を傾げてばかりだった。

    『それは、オレが、監督生のこと…』


    じっ、と真剣な目を向けられたところで、突然雷鳴が轟いた。先ほどまで澄み渡っていた青空は黒い雲で覆われて、稲光が走る。
    冷たい風が荒れ狂うように吹きぬけて、賑やかなパーティーの飾りつけを無情に空の彼方へと吹き飛ばしていった。



    『…おやおや。』

    砂ぼこりの向こう側から現れた姿とその声に、一同は戦慄した。顔面蒼白にして、固まって動けない者まで居る。

    『ハーツラビュル寮でも、誕生日の祝い事をしていたのだな…ディアソムニア寮にまで賑やかな声が聞こえていた。』

    『ど、ドラコニア…先輩…なんでここに…』

    がくがくと身体を震わせて、ハーツラビュルの一年生たちは一塊になってその長身を見上げた。緑色の瞳が鋭く見下ろしてきて、ひぃ!と小さく悲鳴を上げて気を失いかけるのは、監督生の影に隠れる本日の主役だった。

    目的の人物―…監督生にズンズンと歩み寄ってきて、マレウスはぐいっとその手を引く。

    『えっ…』

    『監督生!!!』

    エースとデュースの伸ばす手も虚しく、マレウスは緑色の光と共にシュン、と微かな音をたてて、姿を消してしまった。監督生を、抱き抱えて。

    『…ツノ太郎、なんで?』

    抱えられたまま見上げて問い、辺りを見回す。古城を思わせる石造りの建物の壁が見えて、ディアソムニア寮に連れてこられたことを理解するまでに、時間はかからなかった。
    蝋燭のみで灯りが照らされる廊下は薄暗く、マレウスの足音と、監督生の声だけが木霊する。

    『…時間になったのに姿を見せないから、連れに来ただけだったが…まさか僕を差し置いて他の者の生誕を祝っているとは…』

    監督生を下ろすとムス、と腕を組んで、マレウスは言う。今度は彼の言葉の意味がわからず、監督生はまた首を傾げる。

    『時間?時間って、何の?』

    『……………』

    尋ねると、緑色の目が驚いたように見開かれた。そして、少しだけ残念そうな表情を見せたかと思うと、ふい、と顔を背けてしまう。

    『あ…待って、もしかして…』

    マレウスの服装を見て、監督生はハッとした。エースやトレイ、ジャミル、ジャック、イデアが着ていた服と同じ出で立ちだった。そう、誕生日の日に彼らが着ていたものだ。

    『うそ、ツノ太郎、今日お誕生日だったの…!?』

    息を呑んで尋ねる監督生の言葉にコクン、と頷いて、マレウスはため息をついた。

    『…招待状は届けたはずだが?』

    ―…もしかしてグリムが燃やしたのって…。

    ヒラリ、と舞い落ちた手紙らしきものは、確認する間もなくグリムのくしゃみで炭になってしまった。
    うわぁ、と頭を抱えて、ごめんなさい!と頭を下げる。

    『言い訳にしか聞こえないと思うけど…ポストから取り出したら落ちてしまって、その拍子にグリムがちょうどくしゃみをして、燃やしちゃったんだ。
    本当にごめんなさい。』

    『………』

    監督生の謝罪に、マレウスは静かに耳を傾けている。

    『…だけど、』

    顔を上げてまっすぐ緑色の瞳を見つめて、監督生は息を吸った。

    『ちゃんと招待状を読んでいれば、ハーツラビュル寮には行かずに、プレゼントだって準備して、最初からこっちに来てた。』

    淀みなく言いきる監督生を、マレウスはじっと見下ろした。その緑色の瞳に宿る感情を読む術は持ち合わせていない。それでも、監督生はマレウスの表情が少しだけ和らいだように感じる。

    『…そうか、そういうことなら…次回から、お前に出す招待状は、簡単には燃えないように魔法をかけておかねばなるまい。』

    『ぜひそうしてください。』

    マレウスの言葉にそう答えると、彼は嬉しそうに微笑む。

    『遅れてごめんね。
    ツノ太郎、お誕生日おめでとう。』

    プレゼントは無いけど、と付け加えて困ったように微笑む監督生を、マレウスは優しく見つめた。

    『お前に祝われるのは、悪い気がしない。
    だが…贈り物…そうだな、では、これでどうだ?』

    『え?わあ!?』

    マレウスがくるくるっと指を動かすと、監督生の周りが緑色の光に包まれる。驚きでギュッと閉じた目を開くと、満面の笑みで自分を見下ろすマレウスの姿。

    『こ、こんな高そうなドレス…』

    ひら、と鮮やかなグリーンのドレスの裾を広げてみて、監督生は目を見張る。

    『その姿で今日1日、僕と過ごす。
    お前からの贈り物は今回はそれで充分だ。』

    『…そんなのでいいの?』

    『ああ。』

    満足げに頷くマレウスに手を引かれて、再び2人はディアソムニア寮の談話室へと向かって歩いていく。

    『今年はプレゼント、用意できなかったから来年こそは…』

    そこまで言いかけて、監督生は口を閉じた。

    ―来年?来年まで自分は“この世界”に、存在しているの?自分の世界に帰らないの?

    『どうした?』

    『あ…ううん、何でもない。』

    不思議そうに振り向くマレウスに笑顔を返して、監督生は、きゅ、と自分の手を引くマレウスの手を強く握る。

    『……お前が望むなら、』

    『?』

    不意に言葉を発したマレウスを、監督生は見上げた。

    『お前が望むなら来年の誕生会にも、また招待してやろう。』

    『……うん、お祝い、したい。させてほしい、今回、きちんと用意できなかったぶん…』

    来年に至るまでの間に、自分は存在するのか否かは関係なしに、監督生は答えた。
    自分を友人として慕ってくれている彼に寂しい思いをさせてしまったことも悔やまれている。

    『楽しみにしている。』

    『うん。』

    マレウスの言葉に頷いて、監督生は頭の中でプレゼントを何にするかを早速考え始める。

    『今年はドレスを贈ったから…、そうだな、来年は指輪がいい。』

    『指輪?ツノ太郎、指輪が欲しいの?』

    『そうだな、あくまで印として、ではあるが。』

    『印…?デザインは、どういうものがいい?
    ああ、その前に指のサイズもはからないと…それから予算とか…』

    早口に言うと、ははっ、と堪えきれなくなったかのようにマレウスは声を上げて笑った。

    『そう焦るな。来年までまだ時間はあるだろう。』

    『でも、1年間で貯められるお金には限りがあるから。』

    『案ずるな、僕から贈ることになるだろうからな。』


    『?
    でも、ツノ太郎の誕生日だよね?』

    『ああ。』

    相変わらず分からない言い回しをするなぁ、と頭の中で考えているうちに談話室にたどり着く。
    リリアが満面の笑みで出迎えてくれて、セベクは若様にご足労をかけるなど、無礼極まりないぞ人間!と叫んだ。

    恐らく外注であろうケーキを取り分けて貰って、美味しく味わっているうちに、あっという間に時間は過ぎてしまう。

    『送っていこう。』

    パーティーはお開きになり、マレウスと共にすっかり日が暮れて月明かりが照らす道を、オンボロ寮へ向かって歩く。

    『今日は楽しかった、ありがとう。
    来年のプレゼントは指輪、だよね。覚えておくね。』

    『ああ。しっかり覚えておくんだぞ。』

    クス、と微笑んで、楽しそうに緑色の瞳が細められる。

    『うん、それじゃあ、おやすみなさい。』

    『おやすみ人の子、良い夢を。』

    シュン、と緑色の光を微かに残して姿を消すマレウスを見送り、オンボロ寮へ入る。ドレスを脱いでしまえば、いつもの自分に元通り。
    名前も知らない、あのハーツラビュル生のことなどすっかり忘れて、監督生はベッドに横になった。

    ―来年のプレゼントは指輪、指輪…

    1年後、再び無事に迎えたマレウスの誕生日に、監督生はマレウスからお揃いの指輪をマレウスの言葉通り、“贈られる”ことになることなど、今は知る由もなかった。

    マレウスを祝う事のできなかった誕生日のその日から、彼はずっと、翌年のプレゼントをハッキリとねだっていたのだ。

    “監督生の未来”、と。
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