一緒に寝る話「どうしたの?こんな夜遅くに」
「もう昼だっての」
日常から閉ざされてるような部屋だった。
最後に掃除したのは確か1週間前だったか。床にはすでに研究資料であろう紙束や本が散乱していて足の踏み場がない。
日差しを遮断してるせいで外の明るさに部屋の主が気付くことはない。
マークが勢いよくカーテンを開き、窓を開ける。薄暗い空間に、明るい日差しと新鮮な空気が流れ込む。
「眩し……」
「日の光には慣れろ。いつまで引き篭もってんだ」
「ごめん、手が離せなくて……」
「顔は出せ。食事はとれ」
「とってるよ」
「お前のそれはとってるって言わねーんだよ……」
明るくなった部屋でようやくフィリップの顔を確認する。目の下には隈が出来ていて、髪も無造作に結っているだけだった。
「……とりあえず寝とけよ」
「さっき寝たばかりだから大丈夫だよ」
「嘘つけ、隈酷いぞ」
「ずっと本を読んでいたから目が疲れてるだけだよ」
フィリップが椅子から立ち上がり、マークの側まで歩いて数歩、足元がおぼつかず身体が傾く。足がもつれて倒れる前にマークがフィリップの腕を掴み、身体を支えた。
「はは……もう歳だね」
「馬鹿。寝不足なだけだろ」
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「マークも」
目を閉じて少し浅い眠りに入ったところで声を掛けられる。顔を上げるとフィリップとすぐに目があった。
「少し寝たほうがいいよ」
「別にいいよ。少し休んだら行くから」
「マークが寝ないなら僕も起きてるよ」
「何だよそれ…」
「一緒に寝ようよ。昔みたいにさ」
「男2人は狭いだろ」
「つめれば大丈夫だよ、ほら」
「……少しだけな」
脱いだ上着を椅子に掛けると、フィリップの隣で横になる。
「寝づらいだろ」
「ううん、昔はよくこうやって二人で寝たよね」
「手を繋いで寝たこともあったな」
「うん…、眠れない夜でもね、すごく…安心、し…て……」
マークの手を握るとすぐに目を閉じ、寝息をたてた。自覚は無かったが、相当疲れが出ていたのか。
マスターの温もりが何故かとても辛く感じた。
フィリップの手を離し、壁のほうを向く。
すぐに起き上がろうとも考えた。しかし、頭がぼんやりしていて、身体がだるい。
ああ、きっと、疲れている──。
自分にそう言い聞かせながら、目を閉じる。
「ビクエ様」
「んあ」
扉の奥からのノック音と自分を呼ぶ声で目が覚めた。仮眠と言うには十分な時間を眠り、すぐに目も冴えた。
「その声は…ルックかい?」
「ええ。マークさんを探しておりまして。こちらに、いらっしゃいますか?」
「ああ。マークならここに……」
ふと、目線を彼に向けると違和感に気付く。
いつのまに、手を離してしまったのだろう。
自分に背を向けて眠るマークの姿もどこか様子がおかしい。小刻みに身体が震えている。
「…………すごい熱だ」
額に手をやり、マークの顔を覗くと、
フィリップはすぐ様に起き上がり、勢いよく扉を開けた。驚くルックの表情に目も暮れず、要件を告げた。
「ルック。すぐに医療班を呼んで」