Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ちょこ

    主に企画参加の交流小説、絵など投稿してます
    よその子さん多め

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 417

    ちょこ

    ☆quiet follow

    よその子さんお借りしてます

    「よろしくお願いします!」
    「あぁ、よろしく」
     輝の大きな声が響く。その声にチラリ、と奏芽は顔を向けた。そこには自身の師匠である天寿紅にお辞儀をする輝の姿が見えた。輝は、普段は天寿紅の友人である芽白の所で修行している。そういえば、今日はこっちで一緒に修行するとか言っていたが、芽白ともう一人の弟子である里は遅れてくるようだ。すると、天寿紅が奏芽の所へ来る。
    「奏芽、輝くんと打ち合わせしてくれるかい」
    「いいですよ」
     奏芽は木刀を手にして輝を見る。自分と同期という事は把握しているが、あまり話した事も、一緒にバディを組んで仕事もした事がないなとぼんやり思う。輝はやる気十分といった様子で奏芽を見ていた。天寿紅の一声で打ち合いが始まる、相手の癖など見分けるため、まずは様子見だと奏芽が構えていると、唐突に輝がつまづいた。
    「うわっ!」
    「えっ」
     なんの前触れもなく輝がつまづいた、しかもあのままでは顔から激突しそうだ、と奏芽は木刀を投げ捨てると輝の腕をとり、引っ張る。だが、足の踏み込みが甘かったのか、奏芽の体勢が崩れた。そして、なし崩しに奏芽と輝は倒れ込んだ。

    「いたた……あ、あれ、柔らかい……」
     倒れ込んだ輝は、手に伝わる柔らかい感触に疑問に思いつつ目を開けると、奏芽を押し倒す形で倒れていたのが分かった。そして、輝の手は奏芽の胸を触っていた。
    「………………………」
     手に伝わる柔らかい感触、それは男ならないはずの感触で、輝は思考停止と言わんばかりに固まっていた。ぐるぐると考えて、口をパクパクと鯉のように動かす。一つの考えに至ったのだろう、見る見る顔が赤くなって言った。
    「……あの」
     そんな様子の輝と違い、顔色を変えずに、態度も変わってない様子の奏芽が声をかけた所で、天寿紅と審判をしていた燕志が慌てて輝の脇に手を入れ、奏芽からどかした。
    「大丈夫ですか……?」
    「……」
    「輝くん?」
    「えっあっ……だ、大丈夫、ですけど……」
     口をどもらせ、チラリと奏芽をみる。自分のした事に顔を青くしてしまう。事故とはいえ……と輝は頭を抱えた。一方、天寿紅は倒れていた奏芽に手を差し出す。奏芽はその手を握り、立ち上がった。服に着いた汚れを払い、天寿紅に言った。
    「すみません、受け身取り損ねました」
    「怪我は?」
    「してないです」
    「怪我がないならいいよ、君は?」
     天寿紅がそう言って輝を見る。天寿紅の言葉でハッ、と気がついたのか輝は慌てた口ぶりで話す。
    「え! あっ! 大丈夫です!」
    「なにやってんの輝」
    「あだっ!」
     すると、遅れてきた芽白が輝の脳天にチョップをくらわせた。どうやら、一部始終を見たからだろう。その後芽白は天寿紅の所へ行った、話をしに行ったのだろう。チョップとはいえ、痛みで響く頭を押さえて蹲る輝だったが、里に小声で聞いた。
    「あの……中門さんのとこのお弟子さんって……」
    「あぁ、奏芽さん? 話したこと無かったんだっけ……。……というか、君はまず謝りに行こっか……」
    「うぅ、謝りに行きます……。でも手ぶらじゃダメですよね……」
     だが、何を渡せばいいのか。そもそも許してくれるのか、とまた頭を抱えた輝に対し、天寿紅と話が終わったのか芽白が戻ってきた。
    「花を渡せばいいよ」
    「花?」
    「あの子、花が好きだからさ。まぁ渡さなくても許してくれるとは思うけどね」
    「か、買ってきます!」
    「えっ今から……!? 行っちゃった……」
     勢いよく走り出した輝の後ろ姿を見る里、里も天寿紅と奏芽の所へ行くと、頭を下げた。
    「すみません本当に……」
    「別にいいです、気にしてないので」
    「いやそういう問題じゃなくてね……」
    「奏芽、もう少し気にするようにしようか」
     里と天寿紅の言葉に少しだけ首を傾げる。本当に気にしてなかったのだ。相手はわざと触った訳じゃない、と思っていたからだろう。何故二人がこういう反応をするのか、ピンと来ていなかった。すると、急いで走ってくる足音が聞こえた。顔を向けると、走ってこちらへ来る輝がいた。少しつまづきそうになりながらも、奏芽の所へ来た。ゼェ、ゼェと息を切らしつつ、ばっと奏芽に何かを差し出した。それは小さな鈴蘭のブーケだった。
    「さっきはすみませんでした!」
    「…………」
     返答もない、そして表情を一切変えない奏芽にみるみる顔を青くする輝だったが、そっと奏芽はブーケを受け取った。
    「……大丈夫ですよ、ここまで気を使わせてすみません。怪我は無いですか? ……鈴蘭、綺麗ですね。……ありがとうございます」
     綺麗な鈴蘭に、奏芽は表情が柔らかくなる。それは輝が一度も見たことがなかった奏芽の笑った顔だった。ほんの少しだけ口角が上がって、目元もふにゃっと下がった笑った顔だったが、その笑った顔にボッと顔を真っ赤にした輝が早口で話す。
    「……っ! だ、大丈夫! 怪我してない! チョップの方が痛かった!」
    「輝?」
    「ヒェッ」
    「ちょっと気が緩んでるねぇ」
    「ちょ、あの、芽白さ……っ! いただっ!」
     芽白に絡まれている輝を横目に、奏芽は天寿紅と燕志の所へやって来ると、二人に鈴蘭のブーケを見せた。
    「……花、貰いました」
    「よかったな」
    「綺麗ですね」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ちょこ

    DONEよそのこさんお借りしてます
     倒された落武者を見て終わった事を察した、里は刀を仕舞うと、燕志の元へ行く。まだ後ろ姿でしか見れてないが、息が上がっているのか肩が上下ゆっくりと動いているのが分かった。里は小走りで走ると、燕志に声をかけた。
    「えーじ……」
     里の声に気づいたのか、燕志が後ろをむく。怪我をしない日はないのではと言うほど、燕志はよく怪我をする。今もこうして、腕を斬られたのか一部服が血で滲んでおり、そこだけではなく他の所も怪我をしているのが見て分かった。これは看護班の所に連れていった方がいいな、とそう思った矢先に、燕志から唐突に抱き上げられた。
    「え、えーじ下ろして……」
    「……」
    「……えーじ……」
     これが初めてではなかった、落武者との戦闘が終わっても昂っているのか分からないのだが、こうして里の事を抱き上げるのだ。里としては、自分を抱き上げるより治療しに行って欲しいのだが、強く拒絶してはいけない気がして、あまり抵抗出来ないのだ。先程のように、一応下ろしてと言ったが、降ろされたことは無い。そうしているうちに、燕志は里を抱き上げたまま歩き出した。このまま看護班の所へ行くのだろう。
    1733

    recommended works