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    ちょこ

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    アイドラ小説
    ピアノの話の続き、燕くんと時雨の話

    あれから何日かたったある日、放課後ほぼ誰も来ない音楽室に入る時雨。ガラリ、と開けた、今日白銀は来るのだろうか、とふと思う。自分がいる時にしか聴かせないと言ったあの日から今日までここには来なかった、普段の授業や休み時間ですれ違ったりはしたが。特に約束もしている訳でもない、流石に来ないだろう、と椅子に座り鍵盤を撫でて弾き始める。今日は歌う気分では無いため伴奏だけだ。いつもよく弾く名前の無い曲を弾いているとふとなんとなく扉の方へ目線を向けるとなにやら人影がみえた。時雨は一瞬驚いたような顔をして演奏をやめ、そのまま扉の方へ行き開けた。
    開けたらそこには白銀がいた、まさか来るとは思わずお互いに少しだけ驚く顔をする。
    「……、よく来たな」
    「すみません、演奏の手を止めてしまいました」
    「……いやいい、中に入りなさい。……何が聴きたい」
    「……先生の好きな曲を」
    白銀は中に入って椅子に座る、それにしても自分の好きな曲か、と時雨は少し悩んでしまった。ストレスか知らないが、あの日アイドルを辞めてから”好きな曲”というものが消えてしまったのだ。好きという気持ちすらも霧のようにモヤモヤと隠れてしまっている。好きな曲、自分の好きな曲はどんな曲だったか、と。
    結局先程弾いた曲にした、名前の無い曲、気まぐれで弾いているだけの曲。白銀の顔をチラリ、と見ると目を閉じて聴いていた。変わった生徒だ、と不思議そうに見る。自分より上手い演奏者の曲を聴けばいいのに、と思う時すらある。
    まさか人にこうして聴かせる日が来るとは思わなかった。自分は、あの日、もう人にこうして演奏や歌を歌う資格をドブに捨てたと思っているから。相手は若いためもしかしたら自分がアイドルをしていた頃を知らないかもしれない、だからだろうか、あの時期嫌というほど味わったあの視線をこの子はしない。だからなんだ、と時雨はそのまま演奏を終わらせた。
    「……先生、ありがとうございます。先生はいつもその曲を弾いてますが好きなんですね」
    「……いや、好きで弾いてる訳じゃないんだ。……情けない話だが、先生は好きな曲が分からないんだ。……好きという気持ちすらも忘れてしまった。……この曲を弾いてるのは、ただ無心で弾けるから。感情のない曲だよ、これは」
    「そんな事はないです、先生のその曲には感情があるかと」
    「……」
    この曲に感情が?そんなわけない、とポロン、と鍵盤を優しく押す。もし感情があるのなら、この曲に名前をつけているし、歌詞もつけている。時雨からしたらこの曲は白紙のよう真っ白な未完成な曲だ。完成させる気もない。白銀はそれ以上何も言わなかった。自分もまた、何も言わなかった。
    「……もう帰りなさい」
    白銀と共に音楽室を出て戸締りをする、そのまま向こうの方へ立ち去る時雨の背中を見る白銀。さっき時雨が言った言葉、”感情のない曲だ”を思い出す。そういった時雨の顔が酷く寂しそうだったのが忘れられない。白銀はそのまま踵を返して廊下を歩いた。
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