今回の没は少し変わった没らしく、今も尚逃げ回っているとのこと。琥珀は一緒にいたフレイにエガキナで確認してもらった。
「どうだ?」
「うーん……表示されるけど……おかしいな、弱点書かれてない……」
フレイのエガキナでは、地図上に没の情報が出てくる。その際にここが弱点だ、と書かれることもあるのだが、フレイの言う通り。没の名前しか書かれてなかった。
「まぁいいや、とりあえず飛ぶな! 『地図の示す場所へ!』」
フレイがそう高らかに言うと、地図が光り出す。そして、フレイと琥珀がその場で消えた。
トン、と地面に足をつき周りを見る。周りは静かで、特に変わった様子はみられない。そして、没の姿も見当たらない。
「あれ、いないな……」
フレイはもしかして座標を間違えたのかと地図を見る、ほんの少しだけ琥珀から目線を逸らしただけ。たった、それだけだった。
「……っ!」
琥珀は何かの気配に気づき、急いで剣を振った。間一髪、どこからかの攻撃を受け止めきれたが、ポタリと落ちてきた液体が地面に吸わ、かと思えば動き出した。そこからボコボコ、と地面が揺れ出す。にか来る、と思った時には遅く、足首を掴まれてしまった。
「旦那!?」
音に気づいたのかフレイは慌てて短剣を握る、琥珀の足首を掴んでいるところからゆらり、ゆらりと"何か"が実態を表す。間近で見ていた琥珀は足を振り払おうと動かすが、何故か力が抜けていくような感覚に襲われる。まるで、目の前の没に吸い取られるような。このままでは、と琥珀はフレイに叫んだ。
「フレイ、俺が止めるから刺せ! こいつを怯ませたい!」
「え、それじゃ旦那怪我する……」
「俺は大丈夫だから!」
「で、でも」
あまりにも没と密着している、フレイはどうしようと短剣の持つ手が震えていた。今の現状では琥珀のマキナの剣でどうにか琥珀は没を受け止めきれているが、持っている手が震えている。
けれど、どうやっても琥珀に怪我をさせてしまいそうで、でも考えている暇などない。そうしているうちに、琥珀の体勢が崩れそうだった。
その時、琥珀の影が揺らいだ。
「見てられねぇな」
二人にとって聞き覚えのある声と共に、槍が没に突き刺さる。突然の事で没が離れ、その拍子に琥珀は踏み込んで斬りつけた。ズキリ、と先程まで没に握られていた足が痛み、思わず顔をしかめる。斬られた没は、そのままシュレッダーゴミへと琥珀の周りに散っていく。痛んだ足を庇うように立ち、琥珀は後ろを向いた。
「……すまんサクリ」
「何やってんだお前」
サクリは呆れた様子で槍を持ち直していた、そして、慌てて駆け寄ったフレイがやんやと噛み付く。
「お前! 旦那に怪我したらどうすんだよ!」
「あれが最善だろ、うじうじしてたお前に言われたくもねぇな」
「あ? なんだって?」
「あー、喧嘩するな……フレイもごめん、俺のこと考えて迷ったんだろ」
間に挟まれた琥珀は頭を押さえつつフレイに謝る。ズキ、ズキと立ってるだけなのに痛む足を悟られないようにしていたが、サクリが鼻で笑うようにフレイに言う。
「お前がうじうじしてたから、コイツは痛い思いしたようだけどなぁ?」
「……サクリ」
「え、旦那どっか怪我したのか……?」
「……あー……」
誤魔化しきれない、と琥珀は頭をかく。琥珀は思わずサクリを睨んだが、サクリは涼しい顔をしてそのまま琥珀の影の中に消えていった。フレイは琥珀の服の裾を掴む。
「……旦那、アイツの言ってることほんと?」
「……あー……言っておくけど、お前のせいじゃない。それだけは、分かってな」
そう言うと、フレイはどこか不機嫌そうに、そして悔しそうに顔を歪ませた。
「……アイツに言われたの、ムカつくけど本当だから自分にもムカついてる」
「……フレイ」
琥珀は優しく名前を呼ぶと、少ししゃがんでと意思表示をする。フレイは素直に少ししゃがむと、琥珀は頭を撫でた。
「大丈夫だ、今回ばかりは俺の立ち位置が悪かったな。お前にも、嫌な選択肢を選ばせた。今度、サクリを見返そうな? フレイが強いっての、分からせような」
「……うん。……そうだな、まいりました! って言わせる!」
ほんの少しフレイが元気になったようで安心する琥珀。そして、フレイはしゃがんで琥珀の足首を突然触り出す。不意に触られたため、痛みでビクリ、と反応してしまう。
「いた……っ」
「やっぱり! なんか足庇ってるなって思ったら……ちぇ、アイツお見通しかよ。旦那! 病院いこ! 俺のエガキナですぐ飛べるから!」
「……すまん、隠そうとした」
「旦那の悪い所ー! 俺には隠さなくていいじゃん。旦那のニジゲンなんだし」
そう言うと、フレイは地図を取りだし、琥珀の体の支えになるように体を密着させて、エガキナで飛んだ。