親友の、誕生日 ポケモンリーグ内はなにやら慌ただしくしており、すれ違うスタッフらの忙しさを見つつフロアに入る。フロアにはもうダミアがおり、入ってきたレイフに気づくと笑ってきた。
「廊下にいたスタッフ、忙しそうだったな」
「そりゃ主役の誕生日会が近いからですよ、ダミア」
そう、一週間後にダミアの誕生日会が来るのだ。チャンピオンの誕生日会という事でスタッフらも力を注いでいるのであろう、なにやら屋敷を貸し切りにするだとか話を聞いたような気がする。
なんせダミアとレイフには何も話がいっていないのだ。恐らくレイフにも話したらダミアに話すのではというスタッフの考えだろう。
「……前のチャンピオンの誕生日会、テレビで見たことあるけどこんな風に準備してたんだな」
「今回はテレビ放送するんですかね?」
「どうなんだろうな?それは話して欲しいよな」
一度前のチャンピオンの誕生日会をテレビで見たことがあったが、いわゆる豪勢を形にしたようなパーティーだった記憶がある。まさか自分たちが前のチャンピオンみたいな立場で誕生日会をされるとは思わなかったが。
「まぁいいや、レイフ〜。バトルしようぜバトル」
「いいですよ、挑戦者が来るまでしましょうか」
一週間後の夜、ダミアの誕生日会当日だ。やはりテレビも来ているらしくカメラやアナウンサーの人達がたくさんいた。パーティー会場を覗くと来賓の方や抽選で参加してきた一般の方、そしてダミアのご両親も来ていた。
まさか抽選をするとは思わなかったが、その話を聞かされたのもギリギリだったため、流石にそれは話して欲しかったと思いつつ見る。ダミアも一緒に覗き、人の多さに驚いていた。
「うわ、こんなに居るとは思わなかった」
「人気者ですねダミア」
「レイフ〜、お前も同じ道を辿るからな。お前の誕生日会楽しみだな」
そんな話をしているとスタッフから呼ばれる、そろそろパーティーが始まるみたいだ。パーティー会場に入るとあの時テレビで見た時と同じくらい、いやそれ以上の歓声に包まれた。
来賓の方や一般の参加者に囲まれてるダミアを遠目で見るレイフ、誕生日プレゼントも用意していたのだが、あの様子では渡せるタイミングが見つからない。まだおめでとうも言ってないのになと考えていると、レイフに話しかける人物が。
振り向くと見知らぬ女性達、一般の参加者だろうかと見ていると女性達はやや興奮気味でレイフに話す。
「わ!テレビとかで見るよりイケメン!」
「ファンなんです! 握手してください!」
「私たちとお話しましょう!」
「あ、えー……と」
ダミアの誕生日会というのにこの人達は……と呆れるしかないが、それよりも女性達のつけている香水の香りに頭痛と吐き気が込み上げてくる。どうにか話をしないとと口を開こうとすると誰かに抱きつかれた。
「お、と……」
「レイフ〜! 向こう行こうぜ向こう!あっちになんか面白そうなのあったからさ」
「え、ダミア?ちょっ」
ポカンとする彼女達を横目にダミアに手を引っ張られて屋敷の奥へと行く、主役が会場を離れていいのかとか話したかったのだが、いやにあの香水の香りがしているような気がして気持ち悪くそれどころでは無かった。
ダミアに連れられた先はこの屋敷の庭、庭には誰もおらず、丁度座れるベンチがあった。ベンチに座るとおもむろにダミアが話しかけた。
「大丈夫だったか? 絡まれてたけど」
「え、あ……すみません。大丈夫です、むしろ助かりました。でも主役が抜け出していいんですか?」
「大丈夫だろ? あとは皆食事食べたりしてたし?てか硬っ苦しい……ネクタイ緩めよ……」
絡まれてたレイフを助けようとしたのだろう。よく見ていたなと思いつつ、心地の良い風に当たりながら空を見る、空は綺麗な星で描かれてるような空であった。
あの豪勢で煌びやかなパーティー会場ももちろん綺麗だったが、この星空が一番綺麗に見えた。
「いや〜、色んな人からおめでとう言われるのは気分が良かったな」
「そりゃそうでしょう?」
「けどまだ俺におめでとうって言ってない相手がいるな〜?」
そう言いながらニヤニヤと自分を見るダミアに渡したかったプレゼントを差し出す。
「違いますよ、タイミングが見つからなかっただけですから。……誕生日おめでとうございます。ダミア、これ受け取ってください」
「やっぱ親友から言われると違うな! 開けてもいいか?」
「えぇ、いいですよ」
なにやら品のいい紙袋の中に入っている箱を開けるとそこには手袋が、しかも穴あき手袋と普通の手袋2つ入っていた。
「え、いいのかこれ?」
「前、手袋そろそろ買わないととか言ってたでしょう? 気に入ってくれたらいいんですが……」
「めっちゃ嬉しい……はめてみよ」
そう言うと目の前で手袋をはめるダミア、サイズもピッタリで使い心地もよい。
「え、まてここの会社、オーダーメイドじゃないかこれ? いつの間にサイズ計ったんだよ?」
「大変でしたよダミアの手のサイズ計るの、ダミアがウィンディと寝てる隙に計りました」
「いつの間に……。でも嬉しいな、ありがとな」
「いいんですよ。気に入ってくれて嬉しいです」
お互い笑いながら星を見た、星なんて見慣れていたはずなのに何故かダミアと見たこの星空だけは特別なように感じられた。二人を探しに来た四天王らに見つかるまで二人でずっと星を見ていた。