迷った。リヒトは広い廊下でポツンと一人立っていた。今日は琥珀がエリーの所に作り置きを作るということで、なんとなく着いてきたのだ。なんとなくと、もしサクリに出会ったら、絵のことも聞こうかな、なんてそんな気持ちもあった。飾ってくれてたら嬉しいのだが、まず気に入っているのかも分からない。
エリーの家──豪邸と言っていい家は、リヒトにとっては興味津々だった。こんな大きなところなら本が沢山置いてそう、なんて思ってしまうほどに。庭も広く綺麗で、薔薇の低木らしき植物もある。琥珀がエリーに挨拶をした所までは良かった。
その後確かに琥珀の後ろを着いてきてたのだ、けれど、興味深そうにキョロキョロと周りを見ていたからか、ふと前を向いた時、琥珀とエリーの姿がなかったのだ。琥珀さん? と小さく声を出したが何も起きない。さぁ、と血の気が引いていく。そして途端にあわあわと慌てだして今に至るのだ。
「え、ど、どうしよう」
ここにフレイがいたら、と思ってしまうが、立ち止まっても何も解決しないと思い、とりあえず歩くことにした。広い廊下、曲がるところもあり、二人はどこに行ったのかさっぱり分からなかった。
「こ、ここかなぁ……」
曲がり角をゆっくりと覗く、廊下には誰もいない。エリーの豪邸には色んなニジゲンが住んでいるのだが、こういう時に限って、誰ともすれ違わない。
「だ、誰かいませんか……?」
ゆっくりと歩きながら声を出すが、リヒトの声に反応する相手はいない。あるのは誰もいない廊下と、重厚そうな扉だけだ。
「ひょ、ひょえ……どうしよう……」
部屋に誰かいないかな、とドアにノックをしてみるが反応はない。開けていいものかと迷ってしまう、数分迷った挙句、そっとドアノブを握って開けてみた。いや、開けたはずだった。
「あ、あれっ」
開けたはずなのに目の前にまた扉がある。リヒトは目を何度も瞬きし、思わずそっと扉を閉めてみた。なにか見間違いだったか、と思いまた開けてみたのだが、どう見てもまたそこに扉があった。しかも、ドアノブが壊れているのか、ドアノブがあるはずの場所に何も無い。
「え、えっ? なにこれ……」
「リヒトくんみーつけた」
「うわぁ!」
いきなり両肩を掴まれ、思わず飛び上がってしまい慌てて後ろを見た。するとそこにはエリーがニコニコと笑ってリヒトを見ていたのだ。
「居なくなったから探しに来たんだよ」
「あ、あう、ごめんなさい……迷って、えっと。あ、あれ、扉がない……?」
ふと扉の方を見るとそこには壁しか無かった。まるで最初から扉など無かったかのように、思わずぺたぺたと壁を触ってみたのだが、何も変わった様子は無かった。
「どうしたの?」
「え、あ、え……?」
「向こうで琥珀くん心配してたから、行こっか」
「あ、は、はい」
確かに開けたはずなのに、とリヒトは首を捻りながらエリーの隣を歩く。またチラリ、と後ろを向いたのだが、そこには扉はなかった。