2人の探検 昼下がり、琥珀がエリーに作り置きを作る日として相手の家に来ていた。その琥珀についてくるように、リヒトとフレイもエリーの家に遊びに来たのだ。リヒトに関しては、以前エリーの家に来た時に、不思議な部屋を目の当たりにしてから、ずっとあの部屋の正体がなんなのか気になっていた。
エリーはそんな部屋はないと言ったのだが、自分がこの目で見たのだ。エリーの家に行く機会がまたある時に、今度は探してみようと思ったのだ。そして、フレイにその事を何気なく話した時、自分もついていくと言って今に至る。
「ほんとにそんな部屋あったのかよ」
「あったもん…………」
フレイは怪訝な顔をしつつ、広い廊下を見つめる。琥珀は先程作り置きを作るために、キッチンへと行った。エリーに家を探検していいかと聞いたら快く承諾してくれた、自分たちは認可だというのに、自分たちは何もしないだろうという信頼の現れなのだろうか、と思いつつ二人は廊下を歩く。
「んで、どこにあった訳? その扉」
「確かここの廊下……」
リヒトは記憶を頼りに廊下を歩き、ひょっこりと曲がり角の廊下を覗く。確かここだ、と少し薄暗い廊下を歩く。廊下にあるのは重厚そうな扉、誰かの描いたであろう絵も額縁に飾られている。扉を開けてみたが普通の部屋しかない。
「……ほんとにあった訳? お前まさかなにかに騙されたんじゃ……」
「ほ、ほんとにあったよ……壁しか無かったんだけど……」
フレイはリヒトが見間違えたんじゃ、と思いつつも、そんな不思議な部屋を見てみたい気持ちもある。壁しか無かった部屋など、秘密を暴いてみたい気持ちもある。自分とリヒトなら暴けそうな気もするのだ。
そう思いつつ、適当に握ったドアノブを捻って開けて中を見ようとした時、何かにぶつかった。
「いった!」
「フレイ! またノックしな、いで……」
「……あ?」
額をおさえつつ目の前の光景に思わず固まる。そう、確かにフレイは扉を開けた。けれど、目の前には部屋など見えない。見えるのは壁だった。リヒトの言っていた壁か? とフレイは思わず触る。
「壁だ……」
「よ、よかった。僕の夢じゃなかった……」
「えー! すげー! あ! 俺の地図でこの部屋の向こう飛べるんじゃ」
そう言って意気揚々と地図を取り出したフレイなのだが、音もなく急にフレイが消えた。
「……え?」
リヒトは隣にいたはずのフレイが、消えた事に腰が抜けそうになる。なんとか座り込むことなく立っていると、なぜ突然居なくなったのか、とおろおろとしつつ周りを見渡す。
「フレイ……? フレイどこに……?」
どうしよう、とぷるぷると体が震えてしまう。とりあえずフレイがノックせずに開けてしまった扉を、内心謝りながらそっと締める。もしかしたら、ノックしなかったことによって扉が怒ってしまったのだろうか。
「フレイ……」
「リヒトくんどうしたの」
「わひゃぁ!」
突然の声に心臓が飛び上がるほどに驚き、そのせいで本当に腰が抜けて座り込んでしまった。後ろをむくとリヒトの悲鳴に驚いたのか、少し苦笑いをしているエリーがそこにいた。
「そんなに驚いちゃう?」
「ひゃ……ご、ごめんなさい……。フレイが……」
「フレイくん? フレイくんならキッチンにいるけど」
「え?」
なんでキッチンに? とリヒトがきょとんとした顔を向けていると、エリーがリヒトに目線を合わせるようにしゃがんで教えてくれた。エリーの話によると、キッチンに来たというよりか、キッチンに瞬間移動したように突然来たとの事だった。
「いやー、びっくりしたよねぇ。フレイくん、エガキナ使ってないのになんでキッチンに!? って驚いてたもん」
「……ならフレイは無事なんですか?」
「無事無事、なんなら琥珀くんが作った料理つまみ食いしてたし」
「……はぁ……よかった」
安堵のあまり力がさらに抜けていく。フレイがキッチンにいるのなら、そこに行こうと立とうとしたが立てなかった。
「あれ、リヒトくんどうしたの」
「……すみません……腰抜けちゃって……」
「あはは、すごく驚いてたもんねぇ。ならちょっと失礼して……」
そういうとエリーは軽々とリヒトを抱き抱えた。重くないかと慌てたリヒトだったが、全然とのエリーの一言に申し訳なさがあったが、キッチンまで運んでもらうことした。
そして、後ろを向いて先程の扉に向かって呟く。
「……ごめんなさい、探すような真似をして。ノックもせずに開けてしまって。……気になるけど、もう探しません」
「ん? 誰に謝ったの?」
「え、えっと……扉さんに……?」
「……リヒトくんは不思議ちゃんだねぇ」
「不思議ちゃん……?」
不思議ちゃんとはなんだろうか、と目をぱちくりするしかないリヒトだった。