朝の風景 朝、隣で寝ている慈々の頭を優しく撫でた後、みとらはゆっくりと起き出す。寝る時に寝やすいように、と慈々が毎回みとらの髪型を三つ編みにしてくれている。その三つ編みを丁寧に解いた後、無造作にひとつに結んだ。顔を洗ってコーヒーの準備をするためにキッチンへと行く。ヤカンに水を入れて火をつけている間に、少しだけぼぅ、と空を見る。
少しだけぼぅ、とした後に冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中には食材と、慈々用の食事であるゼリーが入っていた。慈々はとある事情で、あまり食べると吐いてしまう。その関係もあり、ほぼ食事はゼリーなのだ。そのゼリーをつくっているのは、みとらである。
みとらは料理ができない。一応、米は炊けるのだが、ゆで卵を作ろうとしたら炭のように真っ黒で硬い卵と言っていいのか分からない物ができ、目玉焼きを焼こうとしたら焦げて食べれないものを作り、肉も魚も何もかも丸焦げにするのだ。
けれど、慈々と暮らすようになり、慈々の食事の事情を知ってからか、少しでも食べれたら、と何度も失敗をして、指に火傷を何度もした事があったが、その練習も甲斐あって、ゼリーだけは綺麗に美味しそうに作れるようになった。指に火傷を作った時、慈々から心配をかけたくなかったのだが、やはり怒られて馬油を塗られたのが懐かしく思う。
そのような昔を思い出している時に、お湯のわく音が聞こえて慌ててコンロの火を消した。その時、ふと慈々の声が聞こえた気がした。そのまま寝室へ歩く。寝室を覗くと、丁度慈々が起きており、音に気づいたのか扉にいるみとらを見ていた。慈々の顔がどこか不安げに見え、みとらは近寄って頭を撫でる。
「慈々、どうした」
「……起きたら居なかったから」
「コーヒー飲む準備してた。もう起きるか?」
「うん」
そういうと慈々もベットから起き上がり、降りると洗面所へと向かっていく。慈々の後ろ姿を見つめた後、みとらも寝室から出た。
またいつもの一日がやってくる。