両親との話の後、レイフとダミア、そして執事であるグレイが部屋を出る。言っていたように、レイフの祖父──レオンと会うためだ。レオンはこの屋敷に一緒に住んでおらず、少し歩いた先の屋敷に住んでいるとのことで、歩いて行ける距離でもあるため、そのまま屋敷を出て道を歩く。道と言っても、オルグレン家が所有している土地でもあるため、レイフにとっては庭を歩いているのと同じ意味なのだが、やはり敷地の広さにまたキョロキョロと辺りを見回すダミア。
「レイフのじーちゃんと会えるのめっちゃ楽しみだな」
「俺も家を出たきり会ってないので……少し緊張します」
「レオン様、レイフ坊っちゃまと会えるのを楽しみにしておられました」
そう話をしながら歩くと、歩きやすく舗装されていた道から、少し砂利が混ざった土の道へと歩いていく。エルフは自然を愛するものが多い、現にレイフの家も周りはバラ園や庭が広がっており、自然に囲まれていた。だからだろう、歩く道がまるで森の中を歩いていくような、そんな道だった。
「森の中に住んでんの?」
「ここはレオン様が気に入った森でして」
「確かばあちゃんと初めて会ったんでしたっけ? じいちゃんが話してくれたのを聞きましたけど」
「そうですね、リノ様はこの森が大好きでしたから」
「レイフのばーちゃんってどんな人だったんだ?」
「俺が小さい頃に亡くなったので……でもすごく優しい人でしたよ。優しくて、でも凛として強い人……小さい記憶ながら、そう感じとれる雰囲気がありました」
そう言って懐かしむように目を伏せるレイフ。墓参りもしなくては、と思いつつ歩く。森の中をよく見ると、今じゃ希少価値が高い植物と似たような植物が生えているのもチラホラと見えた。自然保護もしているとレイフが説明した後、指を指した。
「あれがじいちゃんの家です」
指さした方向は、レイフの家よりか、それでも他の家よりかは大きい屋敷と、小屋と庭が見えた。どうやら畑もあるらしく、丁度作物も実っていた。変わってない、とレイフが呟いた後、扉の前に行きノックをする。
ノックをしてすぐに物音が聞こえ、勢いよく扉が開いた。
「レイフ! よく帰ってきた!」
そう大声で言ってレイフを抱きしめる長身のエルフ、銀色の髪は腰まで伸ばしており、細身だったが決して痩せすぎという訳でもなかった。顔立ちはグレイと同じように初老に見えたが、顔立ちはレイフの家族の中で一番綺麗では? と思うほどに。今の見た目でこれなのだ、若い時は相当な美麗だったのだろうと予測ができる。
「うぐ、じいちゃん苦しい……」
「少し背が伸びてるな? 顔立ちもナナリーさんにますますそっくりになって! お、君がダミアか! レイフの手紙でよく知っとる!」
ダミアの存在に気づいたレオンは、レイフを離すと即座にダミアに抱きつく。本当にエルフか? と思うほどの力の強さに、思わずダミアも呻き声をあげた。そして抱きつかれて気づいたのだが、細身ながらも体を鍛えているのが伝わった。
「ぐぇ! レイフのじーちゃん……力つよ……」
「じ、じいちゃん、ダミアが潰れるから……」
「なーに! 冒険者なのだろう! これぐらいじゃ潰れんよ!」
「レオン様、立ち話もそろそろ……私はここで失礼します」
「そうだな、さぁ中に入りなさい」
そう言ってグレイは一礼すると、来た道を引き返して行った。ダミアから離れたレオンはそう言うと、屋敷の中に入っていく。中に入ると、鼻に入ってきた匂いで懐かしい所へ戻ってきた、とレイフは安心した。幼少期からずっとここに来ていたのだ、あの頃と何も変わっていないことに心がほっとしていた。
そして、よくレオンと話していた応接間へと案内される。ソファに座ると、レオンがお茶をいれてくれ、一口飲んだあと、ニカッ、とレオンは笑った。
「まずは、レイフ。Sランクおめでとう!」
「ありがとう、じいちゃん」
「そして……改めて、ダミアくんだね。俺がレイフの祖父のレオン。まぁ元冒険者だ。今はこうして隠居の身だがね」
「すげー豪快なじいちゃんだな!」
そう言ってお互いに笑うレオンとダミア。レイフはそんな様子を見ながら周りを眺める。やはり懐かしい気持ちと、ここに戻ってこれたという安心が広がっていた。
「ダミアくん、レイフが世話になってるね。レイフが初めて友達を連れてくるなんて、俺は感激した」
「レイフのとーちゃんからも似たようなの言われたな、そんなに友達いなかったのか?」
「いなかったのかというか……。……ダミアやじいちゃんみたいに心許せる相手がいなかったのは事実ですね」
「ていうか、じいちゃん相手だと敬語じゃないんだなレイフって」
「えっ、まぁ……」
両親みたいに顔色を見なくてもいいから、とは言えなかった。小さい頃から染み付いてきた敬語は中々に取れない。
「レイフ、ダミアくんにも敬語じゃなくていいんじゃないか?」
「そうだぜレイフー。呼び捨てにはできたんだからさ、今度は敬語をとる練習な」
「えぇ……」
また考えさせてくれ、と言ってお茶を飲む。すると、レオンが何か思い出したのか、部屋から出ていくと、少しして何か小さな箱を二つ持ってきた。そして、二人の前に置く。
「じいちゃん? なにこれ……」
「俺にも?」
「まぁまぁ、開けてみなさい」
レイフとダミアは怪訝な顔をして箱を開ける。箱を開けると、それぞれ小さな宝石のような石が入っていた。レイフは見てすぐにわかった、これは魔法石だ、と。自分の武器である杖の先の宝石、アフェランドラ──金翼龍の鬣と同等のものだ、と。
「じいちゃんこれ……」
「すっげー綺麗な石だな!」
「ハッハッハッ! なぁに、レイフのお祝いと、ダミアくんにお土産だ。レイフは使い方を分かってるようだな。ダミアくん、これをレイフの杖のように武器に組み込むといい。君の助けになる」
「あー、でも俺なんの武器使うか迷ってるんだよなー」
「なるほど! まぁのんびり決めなさいそれは」
レイフは内心戸惑ってしまった、自分の憶測が正しければ、この石の材料の元となるモンスターは、相当な腕の立つ冒険者が討伐に行かないと、手に入らない貴重なものだ。もしかしたら、自分の持っているユキノハナが天然物だと気づいたダミアも、薄々この石の正体が分かっているのでは、と予測した。
「もしかしてじいちゃん……討伐に行った?」
「さぁ……どうだろうなぁ、俺ももう歳だしなぁ。引退した身であるからなぁ」
あ、行ったなこれ。とレイフは頭を抱える。引退したのなら、あまり心配をかけないで欲しい、という気持ちと、それでも冒険をどこか楽しんでいたレオンの雰囲気を感じ取り、何も言わなかった。
二人の反応を見ながら、レオンは笑って口を開く。
「二人とも。……冒険者になってよかったか?」
そう質問を投げかけられた二人は、顔を見合せた後、笑って答えた。
「もちろん!」