「いやいや、だからギターよ」
「お琴やろ」
「……」
目の前で赫鐘と游樂が揉めてる様子を、ただ黙って見つめるしか無かった。
事の発端は、楝が赫鐘の持っているギターに興味を示したことだった。一度は西洋琵琶、など嘘をつかれて騙されかけたのだが、それはそれとして、本でしか見た事のなかったギターが、目の前にあるということで、楝はじっと見ていた。
「なん? 興味あるん?」
「……実物見たの、初めてだから……」
「ギター、今まで見たことないんか!?」
「……」
肯定するかのように楝が頷くと、赫鐘はマジか、と呟いた後、ちょっと見ててや、と赫鐘が呟いた後、ギターを構えて楝の目の前で弾いたのだ。
初めてギターの演奏を聴いた、なんて言ったらいいかな分からなかった。耳に入ってくる初めての音、思わず釘付けになるほど演奏を見つめ、そして終わった。演奏が終わった後の赫鐘は、笑顔で楝を見る。
「どうや?」
「……え、あ。……すごい、です」
「そうかそうか〜! なんなら教えるから弾いてみ?」
「え、でも……」
生憎、楽器に関してはあまりいい思い出が無かった。楽器に限らず、嫌でたまらず、女になれ、と無理やりに近いほどに習い事をさせられたあの日々を思い出し、赫鐘がそういう事をする人間だとは思っていないのだが、少し顔を青くさせてしまった楝をみて、赫鐘は笑う。
「大丈夫やって! 最初は誰だって下手やし! なんなら手とり足とり教えるから……」
「何話してるん?」
「ぐふっ!」
突然、楝の目の前にいた赫鐘が軽く吹っ飛んだ。代わりに、楝の目の前にいるのは、先程まで用事で居なかった游樂と、游樂が突進したからか、変な声を出して吹っ飛んで倒れている赫鐘がいた。
「ゆ、游樂……許さへんぞ……」
「そのくらいなら平気やろ? んで、何してたん?」
「……」
楝は戸惑いつつも、游樂に先程の事を話した。話を聞いていた游樂は、どこか困り眉をして楝を見つめる。
「お琴にせぇへん?」
「いや待て、ギターやろそこは」
いつの間にか復活した赫鐘が、游樂の言った言葉に反対だ、と言わんばかりに反応する。
「琵琶法師なんやから琵琶もてや」
「高かったんやもん!」
ここからだった、ギターかお琴か、討論が始まったのは。
「ギターカッコええやん! ギター弾ける男はカッコええで〜!」
「お琴を弾く楝、ききたいわぁ」
「こんなお顔してる子がギター弾くのええやろ」
「それなら、なおさらお琴の方が似合うやろ」
「…………」
楝が止めようか、と戸惑っていると、楝の肩を誰かが軽く叩いた。振り向くと、游樂と赫鐘の共通の知り合いだと聞いた白竜が居た。手にはけん玉を持っており、そして楝に渡す。
「二人が話し終わるまでこれしようや?」
「……これ……」
けん玉、遊んだ記憶があるような気がしたのだが、家にいた頃は誰も使い方を教えてもらったことも無く、結局遊ばなかった。
「……使い方、知らない……」
「知らないん? 教えるわ〜」
楝は、二人がまだ揉めてる様子を見て少し考えた後、白竜からけん玉を教えてもらった。最初は難しかったのだが、少ししてコツが分かったからか、途中からなんなくと玉を乗せることが出来ていた。
「上手いやん〜!」
「……あ、ありがとう……ございます」
「ええよええよ。なんなら技教えるわ」
なお、揉めていた二人に、どっちとも教わりたいと言ったのはそれから数十分経過した後である。