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    @kusaka_Cage

    二次創作腐字書き | 雑食 | 落書き未満置き場 | X:@kusaka_Cage | Bluesky:@cage42k.bsky.social

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    池裏/「きみが羽撃く眩い季節の先で」の原型を考えてた時に打ち出したワンシーン/裏卒業コンサートに池が来てくれたら?という妄想

    袖からやってきたスタッフから受け取ったマイクを、彼が持っている。花束を抱えたまま未だぼんやりと佇んでいる自分の隣で、彼があの頃のように、マイクを持っているのだ。輝きに満ちた笑顔で、観客席を見渡して、聞き慣れたはずの曲のイントロが流れて会場が沸いた一瞬、こちらに目配せ。そしてウィンク。馬鹿馬鹿しいくらいに気障なその仕草が、どうしてこんなにも似合うのだろう。
    「一緒に」
    ーー"歌って"
    声が入らないように囁かれてはっとする。インカムタイプの自分のそれ、癖で確認した腰の機器はきちんとオールグリーンだった。それでもまだ、並んで立っていることを夢でも見ている気分でいる自分の唇は戦慄くだけだった。
    歌い出し、何度も聞いた彼の歌声が。音の始まりも言葉の始まりも明瞭で高らかな聞くものを魅了する歌声が、ホールに響き渡る。またより一層観客が沸いたその瞬間、歌い続けている池照が手を差し伸べてくれた。
    子供みたいに、胸が高鳴る。
    あの日死んだはずの想いがまた、芽吹こうとしている。
    ーーほら、はやく
    短い間奏、また唇だけで囁かれるから。
    「っ……」
    花束を右の手で抱えなおす。そうして左の手を、あの日伸ばせなかった手を、彼へと伸ばした。指先が触れた瞬間、満面の笑みを浮かべてくれるから、また高鳴る胸に思わず唇を噤んでしまうけれど。もう関係なかった。強く握りしめられたかと思った手を、勢いよく引かれる。素っ頓狂な声が上がるのだけは寸で堪えて、ぴったりと寄り添うようにして舞台の真ん中に立たされた。
    「"いまこそ"」
    そんな池照の紡ぐ歌詞に重ねて、勇気を奮った。
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    @kusaka_Cage

    MOURNING池裏/「きみが羽撃く眩い季節の先で」の原型を考えてた時に打ち出したワンシーン/裏卒業コンサートに池が来てくれたら?という妄想袖からやってきたスタッフから受け取ったマイクを、彼が持っている。花束を抱えたまま未だぼんやりと佇んでいる自分の隣で、彼があの頃のように、マイクを持っているのだ。輝きに満ちた笑顔で、観客席を見渡して、聞き慣れたはずの曲のイントロが流れて会場が沸いた一瞬、こちらに目配せ。そしてウィンク。馬鹿馬鹿しいくらいに気障なその仕草が、どうしてこんなにも似合うのだろう。
    「一緒に」
    ーー"歌って"
    声が入らないように囁かれてはっとする。インカムタイプの自分のそれ、癖で確認した腰の機器はきちんとオールグリーンだった。それでもまだ、並んで立っていることを夢でも見ている気分でいる自分の唇は戦慄くだけだった。
    歌い出し、何度も聞いた彼の歌声が。音の始まりも言葉の始まりも明瞭で高らかな聞くものを魅了する歌声が、ホールに響き渡る。またより一層観客が沸いたその瞬間、歌い続けている池照が手を差し伸べてくれた。
    子供みたいに、胸が高鳴る。
    あの日死んだはずの想いがまた、芽吹こうとしている。
    ーーほら、はやく
    短い間奏、また唇だけで囁かれるから。
    「っ……」
    花束を右の手で抱えなおす。そうして左の手を、あの日伸ばせなかっ 673

    @kusaka_Cage

    MAIKING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/短い/宴の最中に捕まえるシーンのみその夜催された宴でも、煌びやかに着飾った年頃の娘達と幾人も引き合わされ、熊谷にとってはくだらないとしか思えない話を聞かされ、心底うんざりとしていたのだ。「夜風に当たりたい」と言ってやっとその場を辞して広間を後にし、遠く回廊の灯だけが差し込むテラスへ出る。オアシスの緑に囲まれ夜闇に沈んだ東の宮が見えて、このまま自室に帰ってやろうかとすら思った、その時だった。‬
    ‪視界の端を掠めた、白い人影。「あ」と小さく声をこぼして立ち去ろうとした姿。声を聞き間違えることも背中を見間違えるわけもなかった。
    「池照!」
    「まって、だめです…!」‬
    ‪掴んだ手首に引っ張られて、頭から被っていた白布が翻る。光沢のある象牙色の上衣、細くくびれた腰の濃紺の絹紐、月を溶かしたような淡い金色の宝飾が、波打つ黒髪と白色の首筋に掛かっていて、恥じらうように俯いたからしゃらりと涼しげな音色が奏でられた。
    「ごめ、んなさ…ちがうんです、ちがくて…」‬
    ‪なにを謝り、なにに言い訳をしているのか。そんなこと、今の熊谷には関係ない。ただ、ただ一言を伝えたくて、口を開いた。‬ 471

    @kusaka_Cage

    MOURNING熊池🏜パロ/砂漠の強国の王様×亡国の生き残り王子様/雰囲気でどうぞ/服をあつらえてくれる話王の午後の政務というのは、政の報告を受けたりとか書き物机に向かって書簡に署名をしたりとかそういったものが大半なようだった。それゆえ、執務室に篭っていることがほとんどだ。もちろん外遊に出たり忍んで市政に降りたりすることもあるけれど、大半の日々の午後というのはそうやって過ぎていくから、池照は池照でやはり、女中と二人細々とした掃除や洗濯をしたり、竪琴を爪弾いたり書物を読んで日がな過ごしていた。
    だから、昼食を共にしたその日。さて、ひと通りのことを終えてしまって今日は夜まで何をして過ごそうと考えたところで、女中から「王がお呼びです」という声がかかった時にはその珍しさに驚いたのだ。昼日中、政務に忙しいはずの彼が自分を呼ぶ用向きとはなんであろう…思い当たる節がないまま、通されたことも片手で足りるほどの執務室の前までやってきた。脇に控えていた近衛兵が、慇懃無礼に扉を開けてくれる。
    記憶が正しければ、そこには確か、正面に遥か北方の大陸から運ばれたという大きな書き物机があって、左右の壁には種々の決まりごとや法に関する書簡や書物が大量に詰め込まれていたはずの、飾り気のない彼の"職場"だったはずだ。けれどど 2808