幽霊なんていない「アンタはいつも、右斜め上を見ているな」
書架整理をしていると、坂口先生は何もない空間に向かってボソリという。まるでそこに誰かいるような物草だったが、堪らず固まってしまった。
「いいか。仮に目があっても、絶対に知らんふりをするんだ。構ったら、気づかれちまったら終わり。怖いの好きじゃないだろう?」
私の肩にそっと触れて引き寄せたかと思うと、そのまま横へ並ぶ。そのまま背中を軽く押してくれたおかげで、なんとか足を動かすことができた。
「すみません、不快、でしたか…?」
「あぁ、悪い。別に他意はないさ。ただ、暑いからな。少しでも怪談話でもよ、っと」
「わたし、怖いのは嫌いですけど、霊感ないですよ」
「はは、そうかい。それは何よりだ。言っちゃなんだが、怖がっちゃダメだ。信じちゃダメだ」
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