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    セベジャミ。キャラ崩壊注意。ラッキースケベの話。

    ##セベジャミ

    付き合ってるセベジャミ やわらかい。まるで寮に置かれたクッションのような……いやふわふわのマシュマロのような? そこまでではないか。そもそもそんなにマシュマロを触ったことがないのでわからない。単なるイメージの話だ。いずれにせよ、手のひらに触れたそれは意外な弾力を持っていた。あたたかくて、やわらかくて、トクトクとかすかに脈打っている。そのリズムが心地よかった。

    「まったく! あいかわらず騒がしいやつらだ! 今度会ったら文句を言ってやる!」

     頭上から憤慨したような声が響いた。『憤慨したような』、というか実際憤慨している。まあもう少しで固い床に突き飛ばされそうになったのだから無理もない。あの勢いでぶつかられたら、お互い無事では済まなかっただろう。一体今日はなにをやらかしたのやら。ジャミルは猛スピードで自分たちの横を走り抜けていった三人と一匹の残像のような姿をちらりと思い浮かべた。

    「ジャミル先輩、怪我はないか?」

     だがあいつらのことなどいまはどうでもいい。問題は、己の手のひらと頬に触れているこのぬくもりのやわらかさである。紆余曲折あって彼と結ばれてから早数ヶ月、お互い手探りではありながらそれなりに恋人らしい経験を重ねてきたが、彼の身体にこんなにやわらかいところがあったとは知らなかった。意外な発見である──ぶっちゃけて言うとこれまで野郎の胸になぞ興味がなかったのだ。

     そう、ジャミルはいま、ものすごい速さで自分たちの方へと突っ込んできた三馬鹿トリオ(+監督生)と危うくぶつかりそうになったところをセベクに腕を引かれ、彼の胸の中に抱きとめられているのだった。

    「ジャミル先輩?」

     頭上から訝しげな声が落ちる。自分の問いかけにジャミルが返事もしなければ身動きも取らずにいるのを不思議に思ったのだろう。だが身動きに関して言えば、セベクの方がいまだにしっかりとジャミルを抱きしめているのだから動けと言われても無理な話だった。そういうところが彼は詰めが甘い。
     ジャミルは躊躇しなかった。遠慮などという言葉は彼に対してはもうとっくに捨て去っていた。なにせ彼は自分の恋人なのだから。
     むに、と手の中でやわらかな肉がたわんだ。

    「ひっ!?」

     ジャミルを包み込んでいる逞しい体がビクゥッと跳ねる。まな板の上に置かれいままさにたたき切られようとしている魚の最期のひと跳ねみたいだった。
     相手の動揺になどまるで頓着せず、ジャミルは目の前の肉──つまり恋人の胸──を揉み続けた。今度は両手で。

    「これだけ鍛えていれば硬いのだと思っていたが……胸筋がこんなにやわらかいものだとは知らなかったな」

     さわさわさわさわ。あいかわらず両手で熱心にセベクの胸を揉みしだきながら独り言のようにそうつぶやく。
     鍛え抜かれた胸筋はジャミルの手のひらにちょうどすっぽりと収まるぐらいの按配で、先ほど述べたように適度な弾力があった。女性の胸になど触れたことはないので比べようもないが、これはこれでなかなか趣がある。こんな興味深い代物がすぐそばにあったとは知らなかった。
     ベストが邪魔だな、とジャミルは思った。ちょうど親指の付け根あたりに制服のベストのぶ厚い生地が当たり、手の中にあるものの感触を阻害していた。ボタンを外してしまおうか。いや、さすがにここ(外廊下)でそこまでするのはまずい。ジャミルはいまの状況がもうとっくにアウトであることには気づかずにそう思いとどまった。そう、彼にもまだ砂漠の砂粒ひとつまみ分ほどの理性は残っていたのである。
     ふとジャミルはセベクがひと言も声を発していないことに気がついた。先ほど情けない悲鳴をあげてからというもの、その口は堅く閉ざされている。自分を抱きしめている腕が小刻みに震えていた。というか、全身がまるでスプーンでつつかれたゼリーみたいにぷるぷる震えていた。ジャミルはちらりと視線を上げた。

     色白の肌が燃えるように赤くなっている。まるでジャミルがはじめて彼にキスしたときのように。ぎゅっと引き結ばれた唇がわなわなとわなないていて、全身が爆発寸前の爆弾みたいだった。
     色素の薄い唇がゆっくりとひらかれる。しまった、と思ったときにはもう遅かった。


    「────は、は、破廉恥だ!!!!」


     腹の底から発せられた絶叫はジャミルの鼓膜に多大なるダメージを与え、その声は学園中に轟いたという。




     更衣室のロッカーの前に立ち、セベクははあ、と深いため息をついた。今日の授業は散々だった。授業に集中できずぼんやりしているところをバルガスに見咎められ、授業中一人で運動場を走らされるという屈辱を味わった。それもこれもジャミルのせいだ。
     セベクはロッカーの扉に手をかけたまま、己の体をちらりと見下ろした。
     学園指定のつなぎタイプの運動着に、ぴっちりとした黒のスポーツインナー。伸縮性のあるそれは、肌にぴったりと張り付いている。まるで鍛え抜かれた筋肉を際立たせるかのように。
     セベクは軽く頭を振って脳内に浮かび上がってくる記憶を追い出そうとした。だがそれが無駄な努力であることは自分でもよくわかっていた。

     セベクの絶叫をもろに浴びたジャミルは、眉間にぎゅっとしわを寄せ迷惑そうな顔でセベクを見上げた。そもそもの元凶は彼だというのに理不尽な話だ。
     混乱と羞恥によって頭がうまく働かないままに抗議と疑問の声をあげたセベクに対し、ジャミルは「別にいいだろ、男同士なんだから。生娘でもあるまいし」とにべもなく言い放った。なにがいけないのか本当にわかっていないような顔だった。
     この恋人にはこういうところがある。いまだ小さく震えたままジャミルの顔を見つめ、セベクはそう思った。入念に手入れされきっちりと編まれた美しい髪や、どこか女性的なほっそりとした見た目に反し、彼はわりと大ざっぱというか、セベクに対しどこまでも遠慮がない。というより、セベク相手にならなにをしても許されると思っている節がある。
     これがもっと別の場面だったなら、自分は彼にそこまで気を許されているのかと喜ばしい気持ちになっただろう。だが実際にはセベクはただ彼に無遠慮に胸を揉まれていただけだ。それもいつ人が通るかわからない放課後の校舎内で。現実とは無情である。
     恋人とはいえ他人の体をそんなふうに不躾に触るなんて破廉恥極まりない、しかもこんな場所で、とセベクがまるで年頃の娘を持つ伯爵夫人のようにがみがみと小言を言うと、「じゃあ部屋の中だったらいいのか?」とジャミルは首を傾げた。違う、そうじゃない。

    「だ、大体、僕の胸なんて触っても楽しくないだろう」

    「いや結構よかったぞ」

     そんな感想が聞きたいわけじゃない。あいかわらずジャミルはけろりとした顔でセベクを見つめていた。なんだか腹立たしい。いつもセベクは彼に振り回されてばかりだ。
     セベクはむっと唇を尖らせた。

    「……なら僕だってジャミル先輩のむ、む、…………胸筋に触ってみたい。男同士なら、別に構わないのだろう?」

     涼しい顔をしているジャミルに一矢報いてやるつもりで口にした言葉だった。

    「別にいいぞ」

    「は!?」

     頓狂な声をあげたセベクを無感動な瞳で見つめたままジャミルは続けた。

    「別に減るものじゃないし。でも君ほど鍛えてるわけじゃないから、触り心地は保証しないぞ」

     そう言って軽く両手を広げてみせる。まるでさあ来いとでも言わんばかりに。
     セベクは目の前に立つ恋人の美しい顔から、ゆっくりと視線を下げていった。臙脂色の大きめのパーカーに覆われた胴体の胸のあたりで視線が止まる。その下に隠された褐色の肌が脳内に浮かび上がった。薄暗いランプの明かりに照らされた薄い胸、その頂を飾る薄桃色の小さなふたつのふくらみ──


    「もっと自分を大事にしろ!!!」


     その日二度目の絶叫が轟いた。さすがに教師に怒られた。

     一体自分の胸なんかのどこがいいのだろう。黒いスポーツウェアに包まれた体を見下ろしたままセベクは考える。ぴっちりと肌に張り付くインナーに身を包んでいるといつもよりも己の筋肉を意識してしまい、他のことにまったく集中できなかった。自分の胸を揉みしだく手のひらの感触をふたたび思い出し思わず体が熱くなる。いけない。こんなところで『反応』してしまったらとんだ変態じゃないか。どう考えても変態なのはジャミルの方なのに。

    「よう、今日はめずらしかったな。具合でも悪いのか?」

     突然すぐそばで聞こえた声に盛大に肩が揺れた。バッと横を見ると、いましがた隣のロッカーの前にやってきたらしいジャックと目が合った。驚愕したような瞳で自分を見つめるセベクのことを不思議そうな顔で見つめ返している。

    「い、いや。その……そうだな。少し疲れているのかもしれない」まさか本当のことを言うわけにもいかず、セベクは適当にごまかした。

    「ふうん。まあもう授業は終わりだし、今日は部屋でゆっくりしろよ」

     親切な男だ。いつもとは様子が違うセベクのことを気遣いながらも深入りすることはない。ジャックはそれ以上余計なことは言わず、ロッカーの扉を開けて黒いつなぎのファスナーをおろした。セベクはその様子をなんとはなしに眺める。
     オオカミの獣人属であることが関係しているのか、ジャックは学園の生徒たちの中でもかなり体格が良い方だ。セベクにとって自分よりも体格が良い同年代の男に会うのはジャックがはじめてだった。半袖のTシャツから逞しい上腕が伸びている。つなぎを腰のあたりに引っかけたまま、ジャックは寮カラーのオレンジ色のTシャツをがばりと脱いだ。本人曰くスノボ焼けだという浅黒い肌と白のタンクトップが露わになる。
     セベクは思わずその上半身に目が釘付けになった──自分のそれよりも逞しいその大胸筋に。

     セベクにはまったく理解できないことであるが、あの日ジャミルはセベクの胸のふくらみがたいそう気に入ったようだった。元来人間の男というのは女性の胸に並々ならぬ関心を抱いているものらしい。以前リリアがそう言っていた。普段男である自分に抱かれる側であったとしても、他の人間の男の例に漏れずジャミルもそうなのだろうか。
     リリアはこうも言っていた。「男の約90パーセント(※わし調べ)は巨乳好きじゃからの〜。胸を大きくすればするほど自分たちの誘惑に引っかかりやすくなると昔知り合ったニンフたちが笑っておったわ。いやはや、あれは恐ろしい女人たちよ」と。
     ジャミルもそうなのだろうか。もしジャミルも恋人の胸は大きければ大きいほどいいと思っていたとしたら。もしジャミルがこの前の自分たちのように、ひょんなことからジャックとぶつかってその逞しい胸筋に手が触れたとしたら──

    「……おい。なんだよ、人の体をじろじろ見て。気色悪りぃな」

     タンクトップの裾に手をかけたままジャックが気味悪げな顔でセベクを睨んだ。肌着の布を押し上げるほどの豊かな胸。見ただけで自分のそれよりやわらかいとわかる。熱心に自分の胸をまさぐる手のひらの感覚がふたたび甦った。

    「貴様には負けないからな!!!」

    「ああ?」

     思わずそう叫んだセベクにドスのきいた声が返される。だがそんなことはどうでもよかった。少しでも恋人の期待にそえるよう、セベクはいつだって必死なのだ。そうだ。普段の触れ合いで相手に負担をかけているのは自分の方なのだから、胸を揉まれるぐらいどうということはないではないか。ジャミルが巨乳が好きだというのなら、もっと身体を鍛えよう──目の前の男に負けないぐらいに。
     思考がすでに大幅にコースから外れていることに気づかないままに、セベクはぎゅっと拳を握りそう決意した。

     ──そうだ。自分は絶対に誰にも負けはしない。ジャミル先輩を満足させるのはこの僕だ!

     後日ジャミルに「いや別にそこまでしなくていい」と無情にも告げられて、セベクの厳しい大胸筋トレーニングは徒労に終わったのだった。
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