最後に鉛玉の音が一発。そして部屋の中は静かになった。
「……ブチャラティ」
アバッキオが傍らの男に声をかける。ブチャラティの顔にはまばらに血の跡が飛んでおり、いつもシミひとつない白いスーツには赤い色が点々と落ちている。
「ブチャラティ、大丈夫か」
「問題ない ……これはほとんど俺の血じゃあない」
最初の呼びかけに応じなかった彼にもういちど呼びかけると、低い声で返ってくる。
たしかに、彼についた血の大半は先ほどまで相手をしていた男たちのものだ。アバッキオもそれはわかっていたから、「大丈夫か」と尋ねたのはそのためではなかった。
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今日の任務は難しいものではないはずだった。
パッショーネのシマで勝手に薬をサバいているチンピラがいる……ポルポから話をもってきたブチャラティは、腕っぷしに自信のあるアバッキオを連れて、その足でアジトと目されるネアポリス郊外の廃墟に来たのだった。
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