***** for you 趣味、特になし。
……本当は絵を描くこと。
「秘密にしてね、ぴぃちゃん」
【大激白⁉ 芸能人のマル秘エピソード全部見せちゃいますスペシャル‼】
「――315プロからはF-LAGSの秋月さんと、百々人さんに出演していただく予定です」
プロデューサーの説明を聞いてから、百々人は番組タイトルだけが書かれている表紙をめくって番組の概要に目を向ける。
番組の放映時間は二十三時から、司会は毒舌で有名な芸人が務めるらしい。出演予定者の顔ぶれを見るだけで、視聴者のあけすけな笑い顔まで克明に想像がついた。
「ぴぃちゃんが出て欲しいなら出るよー」
「ありがとうございます!」
百々人が快諾すれば笑顔を浮かべるプロデューサー。
(――よかった)
プロデューサーの笑みを見ているだけで、百々人の胸には温かいものが宿る。プロデューサーのためなら何だってできる――湧き出る確信を抱いて百々人が微笑みを返すと、プロデューサーは番組の主旨の説明を始める。
「秘密の暴露がテーマなので、出演者の皆さんには一つずつ非公開の情報を出していただくそうです。百々人さんには、趣味の絵を披露していただきたいんです!」
「――――――――、ぇ」
あえかな声が、ひとつ、漏れる。
プロデューサーの表情は変わらない笑顔。悪意はない。邪気もない。
そのことがより深く、百々人を暗い場所へと突き落とす。
――プロデューサーにだけと思って打ち明けた趣味。デビュー直前、アイドル名鑑に掲載されそうになった時は抗議して修正してもらったこともあった。
あの時。
人に知られたくないものだと、百々人は確かに伝えたはずだった。
「百々人さん……?」
絵を描くこと。
満たされないこころを、いっときだけでも満たしてくれること。
「……出演、やめておいた方が良いですか……?」
プロデューサー。
(――僕は、)
百々人にとって、その人は。
(ぴぃちゃんが――)
テーブルの下、拳を握る。
食い込む爪の痛みを打ち消す胸の痛みは、喪失を予期するかのようで。
「――ううん、出演するよ、ぴぃちゃん」
「百々人さん……」
顔に笑みを貼り付ければ、前髪が揺れた。
「ぴぃちゃんのためなら、僕――」
蛍光灯を浴びる瞳に影が差し、
「――何でもしちゃうー」
目尻を飾るハートマークは、くらやみの中に閉ざされた。