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    クリ想:まじわり
    💙💚
    付き合ってる二人が水族館デートなどをする話。

    ##クリ想

    クリ想:まじわり 古論クリス。
     元海洋学の助教。315プロ所属のアイドル。Legendersのメンバー。
     僕の恋人。

    「メバリングブームをご存知ですか?」
    「知ってる方がびっくりだよねー」
    「ベッコウゾイとも呼ばれるタケノコメバルは通常のメバルよりもやや大振りで、釣りやすい魚なのです」
     僕が興味のない態度を取っていることにも気づかずに、クリスさんは喋り続ける。
     水族館でのデートはどこにでもいる恋人らしくて気持ちが浮き立つけど、クリスさんは別の意味で浮かれている。低く響く声は水族館の水槽という水槽に反響して、平日のまばらなお客さんはチラチラとクリスさんを見ているみたいだ。
    「……すみません、北村想楽さん……ですか?」
     クリスさんがそうやってはしゃぐから、僕たちがアイドルだって気付く人まで出てくる。
    「ここにいたことは、内緒にしてくれますー?」
     握手をして、身体を離してから唇に指を当てるポーズ――無料のファンサービスはこのくらいでいいはず。
     ファンの対応をさらっと終わらせて、僕はクリスさんの隣に戻る。
    「クリスさん、声大きいよー」
    「! すみません……」
     分かりやすいくらい声を潜めるクリスさん。
     気を付けてねー、と言ってから、僕たちは水族館を回りだす。
     館内にある何もかもがクリスさんには素晴らしいものに見えるようで、クリスさんは目を輝かせてあちこちに行く。
     水槽を熱心に見つめる様子ははしゃいだ子どものようなのに、喋っている言葉は海への知識とクリスさん自身の知性が感じられるもので、なんだかおかしな気分になる。
     ずっと同じ水槽の前にいると、クリスさんの声に反応した人――それとクリスさんと僕がアイドルだと気付いた人で少しずつ人だかりが出来てしまう。タイミングを見てクリスさんを移動させながら水族館を出ると、もう夕暮れになっていた。
    「とても充実した時間でした」
     満足げに漏らすクリスさんの背中が茜色の光に包まれている。一筋の光が僕の目の前をよぎったかと思えばクリスさんは振り向いて、毛先に夕焼けを灯しながら僕の名前を呼ぶ。
    「想楽、今日もありがとうございました」
    「僕も楽しかったよー」
     言いながら歩く僕らの足取りに迷いはない。この水族館には何度か来たことがあって、辺りの地理は大体頭に入っている。迷子になることもなく、僕らは目的地のラブホテルに到着した。
     シャワーは先に浴びた。入れ替わりでシャワーを浴びるクリスさんをベッドで待ちながら、ツイスタで今日の僕らに気付いた人たちの反応をそれとなく探ると、すぐにいくつかの投稿が見付かった。
     近くで見ると背が高かった、顔が綺麗、などの短い感想が並ぶ。感想を見終えた流れでだらだらとスマホを触っていると、シャワーの水音がやんだ。
    「おかえりー」
     スマホを置いて、クリスさんに向き直る。
     濡れていない髪はサラリと揺れて、水気を帯びた肌はいつも以上の色気が宿る。海に潜った直後、濡れ髪で撮影現場に来たクリスさんをセクシーだと言ったカメラマンがいたことを思い出していると、クリスさんはベッドに体重を乗せた。
    「お待たせしました」
     ホテルに備えられた中途半端なバスローブは薄手で、体の線は少しも隠れない。
     触れるべき場所を示した僕の体にさっと視線を注いでから、クリスさんは僕を呼ぶ。
    「想楽」
    「うんー?」
     呼びかけの言葉に続きはなく、クリスさんは僕のバスローブの中に手を忍ばせる。
    「……、」
     触れられる前から胸に突起はあった。そこに指が届けば僕もクリスさんも、これまでと同じではいられない。
     クリスさんの体の重みを感じて、僕もクリスさんのバスローブの中に手を潜らせる。
    「想楽――」
    「――うん、」
     言葉の続きを身体で示しながら見上げるクリスさんの顔に欲望が浮かんで、僕はその顔を唇で捕まえるとベッドに深く深く沈ませた。

     僕の恋人。
     誰にも見せない欲望の顔。誰も知らない手つき。誰も感じたことのないよろこび。
     古論クリスとの深いまじわり。
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