(なまえ) 名前。
生まれた時からあるもの。
「まどかちゃん、大きくなったね」
「まどかちゃんは、幼稚園でお友達はできたのかな?」
「あは〜! まどかちゃん、こっち〜!」
いつまでも私のもの。
「樋口さんのお嬢さん? もう中学校に入学なんて早いわぁ」
「樋口ー、今日どっか行こ」
「今日の日直は――樋口と細谷だな」
いつの間にか誰も呼ばなくなるもの。
だから。
「円香先輩、遅い〜!」
「雛菜うるさい」
名前を呼ぶ人は特別になる。
「おーい、樋口ー」
「……樋口?」
名前で呼ばない人は褪せていく――そのはずなのに。
「円香ちゃんのこと、ずっとずっと応援してます!」
「今日も円香ちゃん絶好調だね〜!」
「私、円香さんのダンスに憧れてこの業界入ったんですよ!」
あなたたちが、当たり前みたいに私の名前を呼ぶから。
「円香先輩〜!」
特別にしたかった人が、褪せていく。