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    ノクチルが遊ぶ話

    (これなんていうの?)福丸小糸は 宇宙に乗って 圧倒的パワーで 世界を救う(知らない)「混ぜた?」
     カードの四隅を整えて、樋口円香が尋ねる。
    「ちゃんと、混ぜた……! と、思う……!」
    「混ぜた〜!」
     円香の問いかけにうなずく福丸小糸と市川雛菜の手にも、四枚のカード――厳密には、罫線つきのノートを四つ切りにした紙がある。紙は裏返しているから彼女たちは何が書かれているか読むことはできないが、ボールペンの痕は裏面にまで残っていた。
    「透先輩は〜?」
    「バッチグー。――あ、」
     雛菜に訊かれた浅倉が親指を立てると、その拍子に手の中の紙が一枚床へ滑り落ちる。
    「『圧倒的パワーで』〜?」
    「ネタバレ」
    「こ、これ、どうしよう……!」
    「樋口かー」
    『圧倒的パワーで』と書かれた文字を撫でて透が微笑む。
     紙はちょうど、透の自室の床に座り込む四人の真ん中に落ちた。透が拾わないから誰も拾わず、「しゃー」と呟いた透は小糸へ目を向ける。
    「小糸ちゃん、『だれが』」
    「!」
     呼びかけられた小糸が束ねた紙の一番上の紙を床に置く。八つの瞳が紙に書かれた文字の上を走り、「『福丸小糸が』……!」と小糸が読み上げる声が響く。
    「次、円香ちゃんだよね……! 『何を』!」
    「ん」
     うなずく円香は紙と紙の隙間に手を入れて、上から二番目の紙を引き抜く。床には置かずに自分だけで紙に書かれた文字を呼んだ円香はかすかに眉をひそめてから、小糸が置いた紙と向きを揃えて、小糸が置いた紙の下に用紙を置く。
    「『宇宙――に乗って』……浅倉、宇宙に乗るって何」
    「あー。船、どうやって書くか忘れて」
    「やは〜! 雛菜書けるよ〜!」
    「わ、わたしも……!」
    「漢字の小テストじゃない」
     透の手から落ちた『圧倒的パワーで』を拾って向きを調整する円香。他の二枚と向きを合わせると円香と透からは読みにくく、雛菜が一番読みやすく、小糸にはやや傾ぐ位置だと思うと癪ではあったが、わざわざ角度を全て変えるほどのこともないからそれ以上動かすことはなかった。
    「透先輩はもう出してるのか〜。じゃあ雛菜〜!」
     意気揚々と雛菜は一番上の紙を取る。「ど〜〜ん!」と叫んで置かれた紙は雛菜自身から見ると真逆の位置取りだが、読み上げる雛菜の声に淀みはない。
    「『世界を救う』〜!」
    「おー」
    「やば」
    「……!」
    「『福丸小糸が、宇宙に乗って、圧倒的パワーで、世界を救う』〜! 完成〜!」
     言いながら雛菜はスマートフォンを取ってカメラアプリを起動、並べられた紙や透にカメラを向ける。何枚か撮影してから「送信〜!」と雛菜が宣言すると、え、と透が首を傾げる。
    「誰に?」
    「プロデューサー!」
    「送らなくていい」
    「へ〜? でもプロデューサー、四人で遊んでるところのオフショ欲しいって言ってたよ〜?」
    「……だ、だから急にこれ始めたんだ……!」
     ようやく状況を理解した小糸はうなずき、円香は床に散らかった四枚の紙とそれぞれが持つ残りの三枚を回収するとまとめてゴミ箱に放り込む。
    「もういらないでしょ」
    「確かに」
    「うん! おしまい〜!」
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