渡( )ごっこ「妹から聞いたのですが」と古論クリスが切り出したので、北村想楽は顔を上げた。
「うん、どうしたのー?」
「渡韓ごっこ、とは何でしょうか?」
「説明が難しいねー」
ぼやきつつの手短な説明にクリスはうなずく。クリスは意味を問うこともなく、なるほどと呟いて窓の外を見やる。
「私も昔、似たような遊びをしたことがあります。水槽越しに写真を撮ってもらい、水中にいるかのような写真を作ったのです。いつになっても、行きたい場所にいるかのような写真を撮ることはあるのですね」
「そんなことしてたんだー」
「はい。現像を待つ間、どんな写真になっただろうと胸踊らせたものです!」
語るクリスに、想楽は以前見た彼の幼い頃の写真を思い出す。
足に触れる海水に目を輝かせるあの姿。それは、ここにいるクリスとほとんど変わっていないように思えた。
「若い方に流行しているようですが、想楽はこのような遊びはしないのですか?」
「僕はしないかなー」
言いつつ、想楽はクリスの首元に顔を寄せて恋人の顔を見上げる。
きめの細かい肌の下、潜む骨格は年齢のせいだけではなく想楽のものとは違う。高い鼻梁も顔に落ちる砂金色の長髪も異国の香りを残し、見つめているとこの顔が快感に歪むさまが思い出された。
未知だった雄の交わり。それを知らせた男の頬にキスをすれば、クリスは目を見開いて想楽を見下ろす。
「クリスさんがいれば、色んなところに連れて行ってくれるでしょー?」