呼びかけよ、と声は言う「ああ……!」
感嘆の息を吐くクラレンスが培養カプセルに手を当てるさまを、ホムンクルスは無感動に眺めていた。
形を成した肉の器、その内側に情動はまだ芽生えていない。培養液越しに視認する男の潤み煌めく瞳を視認はしていたが、その意味はまだ理解できずにいた。
「これが、私の……!」
震える声とともに、クラレンスの手に力が籠る。
生成されたホムンクルスは五体の揃った完璧な形をしている。平坦な肉体には余計なものはひとつもなく、クラレンスが想像しうる限り理想の形を取っている。カプセルに爪を立てる耳障りな音はホムンクルスまでは届かず、ホムンクルスは目の前の人間を模して片手を前に突き出してカプセルの内側に触れると、ふたりの手はカプセル越しに重なった。
「……ああ……!」
感涙がクラレンスの頬を濡らし、手に力が増す。
「――」
ホムンクルスもまた、追従して腕に力を籠め。
――二人を両断するかのように、カプセルに亀裂が入る。
大きな亀裂は内側から。ホムンクルスの無自覚な膂力を浴びたカプセルは更に細かなひび割れを起こした直後、カプセルは破片となって四散し、培養液はどっと外に流れ出た。
「!」
破片から顔をかばいながらも、クラレンスはホムンクルスから目が離せずにいる。
透徹にすら思える破壊音と培養液の奔流を前にクラレンスは床に倒れこむ。顔や衣服を汚す培養液は深いそのもののはずなのに、高揚感のせいでクラレンスにはまったく気にならなかった。
「――」
ぺたり。
裸足の足が、床を叩く。
「――おまえ、なに」
誰何する声もまた、理想に等しい。
「お前の……ノクスの創造主だ。究極の存在を……!」
随喜に歪む顔を見下ろすホムンクルスのおもては白い。
「――おまえ」
魂はまだ白いまま。
「あるじ」
呟けば、頬には紅が差す。
紅は渦を描いたかと思えば、ホムンクルスの頬に文様を刻む。
「ノクスの、あるじ――」
成った存在はひとつだけ欠けていた。
妖精の魂を得るまでは、あと――――。