前夜:バレットとトリガー(若里春名と秋山隼人) 劇中劇「タイムプリディクション〜時空の監視者〜」より 監視カメラから逃れるために、地下施設に窓はない。
夜半、構成員のほとんどが眠りに就いているから施設内の明かりは落とされていた。侵入者対策のための探知機が一定の周期ごとに異常がないことを示すように瞬く中、トリガーはうずくまったまま動かずにいた。
(……早く、寝ないと……)
明日には過去へ跳び、理人・ライゼをこの手で殺める。
『大いなる父』を破壊するのはトリガーの役割だ。そのためにハッキングの腕を磨いてきた。過去へ跳んだ瞬間から、あの時代のT.P.A.に狙われることだろう。手早く事を終えるためにも、早く寝なければ――思えば思うほどに、トリガーの意識は冴えていく。
(………………もしも)
暗がりに目を凝らしても何も分からない。
何も分からないから、そこには恐ろしいものが潜んでいるかのようで――
「トリガー」
胴震いするトリガーへ、暗闇から声が届く。
「……バレット?」
返した声は、自分でも分かるほど弱々しい。
「まだ起きてんのか」
トリガーの真横、距離を開けずにバレットは座り込んだ。肩が触れ合う距離では、人よりも高いバレットの体温が衣服越しにも伝わってくる。
「バレットこそ」
「オレはいいんだ」
そう広くない部屋に声が反響する。声に交ざる響きのせいで、声に乗る感情はどこか曖昧だった。
「オレはトリガーの命令さえあれば何でもできる。トリガーが大丈夫ならオレは大丈夫なんだ」
「……なんだよ、それ」
笑おうとしたのにうまくいかず、喉は鳴るばかり。
「不安か?」
「当たり前だろ」
もしも明日、全てに失敗してしまえば、投獄された人たちは――彼だけでなく、ここにいるレジスタンスたちも、
バレットも。
暗闇から這い寄る失敗のイメージから逃れるために、トリガーはバレットの肩に頭を寄せる。
「トリガー」
呼びかけにトリガーが顔を上げる。
バレットは前を向いて、トリガーを見ることはなく。
「何があっても、オレはお前を傷つけさせない」
「…………」
沈黙の中でトリガーがひとつうなずけば、会話はそれで終わり。
バレットにも傷ついてほしくない、と伝えることは出来ないまま、夜は深くなっていく――。