C.FIRST:グミ世界観:秀と百々人がグミを食べながら鋭心に思いを馳せる話 花園百々人が事務所のドアを開けると、ちょうど天峰秀が果汁グミを口に入れたところだった。
「ん」
「あ」
秀が口をもごもごさせながら頭を下げ、百々人はおはようと言って手を上げる。入り口の近くに立ったまま百々人がプロデューサーのデスクに目をやると、書類が積まれたデスクにプロデューサーの姿はない。見回すと、ソファに眉見鋭心のカバンが置かれていることに気付いた。
「ぴぃちゃん、マユミくんとお話し中?」
「……ん、そうです」
グミを飲み込んだ秀は答えて、果汁グミの袋を手に取った。
「食べます? 良ければですけど」
「いいの? 貰おうかな」
袋を振ると赤いグミが百々人のてのひらに転がり出た。百々人がグミを口に入れたのを見計らって、秀は百々人に尋ねる。
「……鋭心先輩、果汁グミ食べると思います?」
「食べるんじゃないかな」
「そうですかね。なんかもっと凄いもの食べてそうっていうか、グミ食べない気がするんですよ」
「あー」
はっきりとした言い方ではないが、秀が言いたいことは百々人にも何となく伝わった。
鋭心の言動の端々からは、秀や百々人とは異なる生活の質の気配が感じられる。果汁グミは鋭心の口には合わないかもしれない、と思うと秀の気持ちはしぼみだした。
「……やめとこ」
呟いた瞬間、別室で何か話をしていた鋭心がプロデューサーを伴って姿を見せた。
「百々人も来てたのか」
「おはようー。ぴぃちゃんとお話ししてたの?」
うなずく鋭心は自身のカバンの横に座ると、ぴんと伸ばした腕をカバンの中に入れて探り始める。そうしながら鋭心は秀の手元の果汁グミの袋に気付いて、グミか、と独りごちる。
「! ……鋭心先輩は、グミ食べます?」
「ああ。ちょうど、二人に食べさせたいグミがある」
「えっ」
「え!」
視線を交差させた秀と百々人がまばたきだけで会話する間に、鋭心は白い箱を取り出した。『彩果の宝石』と書かれた箱を開ければ、色とりどりのグミが丁寧に個包装されて詰まっている。
「貰い物だが、なかなか良い」
差し出された、見るからに高級なグミを前にして秀の口から声が漏れた。
「グミはグミでも――」
「一人だけ世界観が違うー」