W:本日の特別ランチ:漁港直送メバルのソテーと地元野菜をふんだんに使った海と畑の恵みプレート レモンをモチーフにしたライブを終えて数日後、蒼井悠介と享介はプロデューサーに連れられてカフェレストランへと入った。
真夏の熱波から逃れて息をつき、ウエイターが置いたグラスに口をつけると水からレモンが香る。レモネードの味を思い出して悠介が享介に目をやると、享介は目を細めて悠介に応じるように笑いかけた。
店に入るなりかかってきた電話のためにプロデューサーは席を外していた。一席が空っぽのままメニュー表が差し出され、二人はプロデューサーが戻る前に注文を決めておくことにした。
平日のランチメニューは種類が豊富だ。上から下へとメニューを読みながら、美味しそう、と悠介が呟けば享介はうなずく。そうして丹念にメニューを眺める二人だったが、最後まで読み終わる前から気になるメニューは決まっていた。
「決まった?」
「もちろん」
うなずく享介は、答え合わせの前から確信に満ちている。
「せーのっ――『本日の特別ランチ:漁港直送メバルのソテーと地元野菜をふんだんに使った海と畑の恵みプレート』」
ぴたりと重なった声に、どちらからともなく笑みが漏れる。
「やっぱり、これだよな」
「これだけダントツでメニュー名が長いからな〜」
笑い合う二人が思い出しているのは、レモネードの店で注文したトッピング。
『本日の店長オススメフレーバー 秘密の香りと共に そして、地元への感謝の気持ちを込めて‼』を注文した時に、注文を受けた店員はメニュー名を『オススメフレーバー』の一言で片付けていた――きっとこのメニューも、『特別ランチ』とだけ伝えれば十分なのだろう。
「すみません、お待たせしました」
「おかえり監督。俺たち、もう決めたから」
ずいとプロデューサーへメニューを差し出すと、プロデューサーはメニューにざっと目を通してすぐに店員を呼ぶ。
店員を前にして、促すようにプロデューサーは首を動かす。悠介と享介は視線を合わせると同時に口を開いた。
「特別ランチを二つ、お願いします!」
「はい、『本日の特別ランチ:漁港直送メバルのソテーと地元野菜をふんだんに使った海と畑の恵みプレート』ですね!」
「――」
まったく同じように沈黙する間にプロデューサーも注文を済ませ、店員は去って行く。
キッチンへ向かった店員が完全に見えなくなってから、悠介は呟く。
「……今度は――」
「全部言うやつだった!」