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    mame

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    千ゲン(宝島:石化中、千ゲ未満のゲのつらつら)

    もう二度と味わいたくないと思っていた、意識が底無し沼へ沈んでいくような、そんな感覚。ああ、そうだった。すっかり忘れていたけれど三七◯◯年前もこんな感じで、最初は意識があったのだ。やだなあ、この感覚。
     そんなことを考えながら、ゲンはきっと陣営でひとり残してしまった歳下の男の子のことを思う。大丈夫だろうか、千空ちゃん。
     絶対に大丈夫だと、あの子が残りさえすれば、みんな大丈夫だと本気で思っている。ゲンだってそうだ。きっと千空本人も。
     それでも、それでも。やはりあの子はまだ子どもだ。大層な夢を抱いているだけの、ただの科学が大好きな少年だ。その少年の心は、果たして大丈夫だろうか。
     ゲンの視界は既にまっくらだ。腕を上げて石化したはずだが、その感覚すらわからない。やはり油断すればずぶずぶと意識が沈みそうだった。必死で意識を繋ぎ止める。
     あの子の心に寄り添えずとも、もし少しでも影が差すことがあればそこに電気でも照らしてあげれるような、そんな存在でありたい。もうあれから随分時間が経ってしまったけれど、綺麗な冬の星空のもと、目隠しをした布の下で見せた千空のあの表情を見た時から。科学王国の心理担当として、それ以上にゲンがゲンとして抱いてきた思いだ。だというのに、こんなときに一緒に残っていられる状況を、ひとりきりにさせない状況を作り出せなかった自分が腹正しかった。
     苦笑いを浮かべたいし、舌打ちだってしたい。ため息だってつきたい。けれど、もちろん表情筋は見事に石化しているので動かすことはできない。
     だからせめて、意識だけは飛ばさずにいたい。身体が固くなっていく中、ゲンはそう決めた。
     きっと今頃、千空はあの悪どい長身男と対峙している。そして勝って、復活液で合理的な順番で仲間を元に戻していくのだ。ゲンを戻すのは千空じゃないといい。それが科学王国の勝利と、既に千空が元気に作業している証明になるから。
     ゲンが復活液をかけられるまで少し時間がかかるだろう。思考を止めずつらつら考えられることはなんだろう。うーん、と悩む間にゲンの意識がまた底へ引き摺り込まれそうになる。ああ、やだやだ。思い通りにはならないよ、俺は。
     そしてゲンは暗闇の中ふと思い出す。そうだ、つらつら考え続けて三七◯◯年もの間、意識を繋ぎ止めた前例がある。
    (いち、に、さん、し、ご、)
     思いついてすぐにゲンは数えはじめた。これなら、きっと千空の脳のどこかでカウントされ続けている思考上に現れる数字と寄り添える。笑みを浮かべたくなるのに、やはり頬は動かない。
     石化してすでに何秒たったかわからない。今になってやっとカウントをしはじめたのだ。当たり前である。
     けれど、それでも、ゲンは石化がとけて千空に言いたい。己が石化していた間にカウントした秒数を。意識は、意思は、共にあったのだと、ひとりの時間は決してなかったことを伝えたかった。
     できれば、ゲンが復活するまでに、それを伝えてくれる誰かがいればいい。一秒でも早く、誰かあの子の孤独を埋めて欲しい。
     秒数を伝えたら、きっと正しい石化中のタイムを千空は言ってくるのだろう。そうしたら「千空ちゃん気持ち悪い」と笑ってやるのだ。そんなことを思いながら、ゲンはカウントを続けたのだった。
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