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    mame

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    mame

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    千ゲン(造船中:あと1日で付き合う千ゲ)

    「好きだ、付き合え」
    「えっ、趣味悪っ」
    「オブラート使用放棄してんじゃねえよ、クソメンタリスト」
     隣で盛大に歪められた顔に「しまった本音が出た」とゲンが呟けば「出過ぎだろ」と呆れられる。たったいま告白してきた人物とは思えない。誰が誰に告白したかって、千空が、ゲンに、だ。
     えー、ほんとに? なんて思いながら、ゲンは自らの頬を抓ってみた。痛い。夢ではないようである。
    「一応確認なんだけど」
    「ん」
    「千空ちゃんが好きでお付き合いしたいのって、交際の意味かつ相手は俺?」
    「……この状況で別の人間の話してたらコエーだろ」
     現在、天文台でドラゴをふたりで集計している最中である。とっぷり日は暮れて、良い子はすでに寝る時間だ。階下では良い子のクロムが高鼾をかいて眠っている。一方、千空とゲンの手には紙の束。本日の千空デパートでの売上金だった。今朝方、一気に寒くなったので羽織り物がどっと売れたのだ。ランプの小さな灯りの中、その集計作業をしていたわけである。
     基本的に千空とゲンのふたりの会話は話し合うことや報告すべきことが片付けば、ゲンがぺらぺらと話し続けている。その大体の内容は作業に没頭する千空の目には届いていない部分の科学王国の日常風景だ。今日はあの子が一生懸命勉強していただとか、スイカとキノコ狩りにいったら落葉樹がずいぶん色を変えていただとか、芋っぽい葉っぱを見つけたから引き抜いてみたらサツマイモに類似していて、とりあえずいくつかフランソワに預けてみたから明日が楽しみだとか。そういう事をつらつら話す。その間千空は律儀に相槌を打ってくれる。意外としっかり聞いてくれているようで、そして案外この時間を千空は気に入っているようだった。
    「焼き芋とかさあ、みんなでできたらいいよねえ」
     だから今日もゲンは同じように話しをしていたのだ。そろそろ暖炉の準備もしないといけないかもね、なんて次の話題に移ろうともしていた。その話を始める前に、ゲンの話に相槌を打っていた千空が酷くあっさりした音色で、ゲンのことをまっすぐと見て告げたのだ。好きだ、付き合え、と。
     確認した結果、やはり千空の言葉は告白で、相手はゲンだった。話の流れも色気もムードも皆無である。否、頭上は秋晴れにより絶好の天体観測日和ではあった。キラキラと輝く満点の星空の下でランプの灯りに照らされる。ムードはいいのかも知れない。手にはドラゴの束があるのだけど。
    「だよねえ……趣味悪いなあ……」
     千空の肯定にゲンがそう返せば、胡座をかく千空は自身の膝に頬杖をつき、楽しそうに唇へ弧を描いた。いつも思うけどこの子は歯並びがいいなあ、なんてぼんやりとゲンは考える。
    「返事は?」
     頬杖をつく千空の反対の手には何度見てもドラゴの束。やはり色気はない。ゲンはそれにふふ、と息を漏らしながら笑って、少しだけ千空に近付いた。千空から喜びの気配がただよってきて、これくらいのことで喜んでくれるのかと少しゲンは驚いた。正座をしなおして、自身の足の親指同士をすり合わせる。流石に足元が冷えてきた。そろそろ靴の履き時かもしれない。
     ぼんやりとした灯りの中、千空の前髪がはらりと流れ落ちる。不思議で綺麗な髪だなあとゲンは思う。あと重力に対して酷く挑戦的だ。
     返事を催促するほどしっかり千空はゲンのことを想ってくれているらしい。赤い瞳がゲンの横顔を見ているのがわかっているが、なんとなくゲンは手にあるドラゴから視線が外せない。
    「いやあ……まあ……うーん……俺も千空ちゃんとお付き合いはしたいんだけど……」
    「けど?」
    「そんな素直にお付き合いしちゃっていいのかな、これ」
    「蝙蝠男的に?」
    「そう、蝙蝠男的に」
     千空が間髪入れずに言葉を的確に言い当てるので、ゲンもこくりと肯定を返す。千空が歯を見せて口角を上げたのが横目で見えたので、ゲンは思わずため息をつく。
    「随分素直に話してくれるじゃねえか」
    「普段素直じゃない男が素直に話してくれるし、本日当店のオブラート欠品しちゃってるんだよねえ」
    「なるほど。俺としちゃおありがてえこった」
     ランプの光で望遠鏡のレンズがほのかに光った。吹いた夜風が冷たくて、ゲンが一度ふるりと身震いすると、千空にテメーそろそろ靴履けよとゲンが先ほど考えていたことを突っ込まれる。呆れた口調に愛しさが混ざっていて、オブラートが品切れしてるのは千空もだよなあとゲンは思う。
    「明日、フランソワが出してくるのがスイートポテトだったら付き合うか」
    「適当な賭けだねえ、ま、いいけど」
    「いいのかよ」
    「うん、いいかなあ」
     ずいぶんと間延びした声になった。ゲンはそんな自分の声に小さく笑う。隣に座る千空も笑いながら言葉を返してくる。
    「ならもうここでオーケーだしたらいいじゃねえか、面倒臭ぇな」
    「うん、俺面倒臭い人間なのよ。知ってるでしょ。そんな男に告白してる自分の趣味の悪さを後悔しなよ、千空ちゃんはさ」
    「、そうだな」
     ため息まじりにそんな事を言えば、千空が愉快だとばかりに肩を揺らした。相変わらずゲンの話に相槌を打つのが千空は上手い。そんな千空にゲンもまた笑ってから、とっくに数え終えていたドラゴの束を床にぺしんと置いた。
    「明日、スイートポテトならいいね」
    「そうだな」
     なにせゲンは趣味が悪い千空のことがずっと好きなので、できることなら付き合いたいのだ。
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