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    mame

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    千ゲン(携帯作成中:どっちも無自覚片想いな千ゲ)

    昇ったばかりの朝日に照らされ、川の表面がきらきらと光る。その光を掬うように両手で器を作り差し入れた。掬った水を顔にパシャとかける。冷たい。おかげでようやく目が覚めてきた。もう一度同じ動作を繰り返してから水面に映る自身の姿に気付き、ゲンはうーんと唸る。明らかに伸びている。何って、髪がだ。
     二ヶ月に一度くらいの頻度で美容室に通い髪型をキープしていたゲンとしては、襟足が肩につきそうな伸びっぷりは体感として数年ぶりだった。間に意識のない三七〇〇年が挟まるのだけれど。復活してから切っていないのでかれこれ三ヶ月以上切っていないことになるだろうか。そりゃ眉も前髪で隠れるわけだ。
     気になりだしたらいてもたってもいられなくて、ゲンは羽織りの内側にある仕込み用のポケットから小刀を取り出した。以前氷月を出し抜くためにスイカ便で千空から貰った小刀だ。一度は返却したものの、入り用で一度借り受け、そのまま拝借している次第だ。借りパクともいう。
     川の水面を鏡代わりにして、右手に小刀をもつ。ちょっとドキドキするな、と前髪の毛先をひっぱり真っ直ぐにし、刃をそっと当て──
    「お、ゲンじゃねーか。おはよ」
     突然背中からかけられた声に、ぴくりと肩を揺らした。あ、とゲンは思う。
    「……おはよ〜クロムちゃん、早いね」
    「今日は素材集めに行くからな。早めに行って早めに帰ってこようと思ってよ。作業がヤベーくらいあるし」
     本日も朝から元気溌剌のクロムだった。振り返ることなく受け答えしたゲンを不思議に思ったらしいクロムが、どうかしたのか? と顔を覗き込んでくる。そしてその純粋な心配の表情が「あ」という顔に瞬時に変化した。ゲンはそのクロムに情けない笑顔を向けるしかなかった。


    「で、それか」
     ちらちらとゲンに視線を寄越しては逸らし、くすくすと肩を震わせている千空にゲンは唇を尖らせて抗議する。
    「ちょっと短いくらいでおかしくはないでしょう〜?」
    「いいんじゃねえか? 胡散臭さが3センチ程度減った」
    「ねえそれ、俺が切った髪の長さ的確に言い当ててないよね? こわいこわい、ジーマーでこわい。そもそも正解もわからない」
     腰に手を当てながら本格的に笑いはじめた千空の隣で、ゲンは非常にやり辛さを覚えながら手を動かした。そう、クロムに声をかけられたとき手元が狂い、切ろうとしていた前髪の長さよりざっくりいってしまったのだ。そんなに笑われるほどの短さではないと思うのだが、確かに石化前のゲンや石神村にやってきてすぐのゲンを知っていれば違和感があるに違いない長さではあった。
     カセキの手を借りるまでもないレベルの細やかな作業に、よくゲンは駆り出される。マジシャンなら手先は器用だろ、という千空の主張のせいだ。まあ説明さえちゃんとしてもらえたら出来ないこともない範囲なので引き受けているのだが、いかんせん今日はやりづらかった。なにせラボに入るなりぽかんとした顔で「どうしたそれ」と千空に指をさされたので。渋々事情を話し出したはいいが、途中から千空が笑い出すものだから居た堪れない。ハァ、と自然とため息が出た。どうせすぐ伸びる。少しの辛抱だ。ゲンは作業の手を止めずに己に言い聞かせる。
     一通り笑いおえたらしい千空がやっとゲンの隣で姿勢を正した。
    「今度切るタイミングまでにハサミ作っといてやるから」
    「それはおありがたいですね〜」
    「拗ねんなって、思わず笑いすぎた」
     そう言う千空の口元が上がっているのが横目に見えた。全く悪いと思っていないのがひしひしと伝わってくる。こんにゃろう、覚えてろよ。
    「襟足も切ったのか」
    「クロムちゃんがお詫びも兼ねてって切ってくれたのよ。さすがに後ろ見えなくて危ないからお願いしたんだけど、え、おかしい?」
    「いや、大丈夫だ。問題ねえ」
     内心で千空に向かって文句をつらつらと言い続けていると、それを知ってか知らずか、ようやく落ち着いたらしいトーンで話を続けられる。作業中、わりと雑談を千空はしてくれるが、作業の手を止めたまま話題を広げるのは珍しい。もしや、と思う。おかしくないとは言われたが本当はおかしいのではないか
    。クロムちゃん、わりとおっかなびっくりの手つきだったし……と先ほどのことを思い出し、ゲンがとにかく千空の表情を確認しようと顔を上げようとした、そのとき。
    「次は俺が切ってやるから、切りたくなったら声かけろよ」
     さり、と荒れた指先がゲンのうなじを撫でた。開きっぱなしのラボの出入り口から秋の冷たい風が吹き込んでくる。撫でられたうなじが熱を持ったのがわかった。そのまま短くなった襟足を軽く摘まれ、ひっぱられる。
    「カセキに言わなきゃならねえこと思い出したから、ちょっと行ってくる。サボんじゃねえぞ、メンタリスト」
     そういって、あっさりと千空の手はゲンから離れて、千空本人もあっさりとラボから出ていた。残されたのは呆然とした、髪の毛が短くなったゲンだけだ。かちんと凍らされたかのように身動きがとれない。そのくせ、うなじと顔が異様な熱さを持っている。
    「えー……? えー……? いまのなに千空ちゃん……」
     既に姿の見えないラボの出入り口を見ながら、ゲンはひとり呟く。外は大混乱のゲンの気持ちを置き去りにするかのような、腹が立つほど青い空が広がっていた。
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