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    mame

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    mame

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    千ゲ(復興したかなくらいの時間軸)

    「わかってる? 俺は精神科医でもカウンセラーでもないし、ましてや君のRPGの文明復興クエストに現れたお助けキャラでもないんだよ」

     初めてゲンの横髪が邪魔だと思った。白い月明かりに照らされ微かに光る長い横髪が、ゲンの表情を千空の視界から隠してしまっている。声ばかりが聞こえ、ゲンの冷たく突き放した話しぶりに、千空は開こうとしていた口を閉ざした。
     ゲンをこちらに振り向かせようと手を伸ばすが、藤色の羽織の裾をひらりと揺らしながらゲンが器用に千空を避けた。掴もうとした手が空を切る。
     こうやって千空からのアクションをゲンが避けたのは初めてだった。そう、初めてだったのだ。いままでこれはゲンがすべて許容していたのだという事実を千空は思い知った。──だから当たり前のように思ってしまったのだ。千空がゲンに好きだと言えば、俺も、と返ってくるものだと。いつものへらりとした笑みが返ってくるものだと。
     ゲンの表情が見えない。ゲンが怒っているのか、傷ついているのか、千空にはわからない。ぴしゃりと千空を嗜めるように言われた言葉を脳内で反芻してみる。この言葉の意図は一体なんなのか。
     千空に背を向けて、ゲンが月を見上げた。その丸いうしろ頭を見つめながら、千空はどうすればいいのか考える。もしこの後、ダメだと言われても諦められる気はしなかった。
     確かにゲンに甘えている所があるのは千空自身自覚していた部分がある。けれど、誰でも良いわけじゃなくて、ゲンだから。役に立つとかそういう合理的な理由だけじゃなくて、復興が叶ってからも、ただそばにあって、笑い合えたらと。そう思ったから。だから告げたのだ。

    「専門家とか、お助けキャラとか、そんなのは、いまお呼びじゃねえ。俺はテメーに好きだって言ったんだ」

     いつのまにか、千空の喉はからからに乾いていた。ごくりの唾を飲み込み、今度こそゲンの手を捕まえた。そのままぐいっと引っ張れば、ゲンの横髪がゲンの動きを追って流れた。星のようにきらりと何かが光って、千空は瞬いた。それがゲンの涙だったことに気付いたのは、ゲンの顔を見てからだ。
    「それでも、いいの? 俺、たまたまこの世界になったから君と会っただけの、ただのぺらぺらのメンタリストなんだけど」

     ぽろりとゲンの目尻から頬を伝って滴が落ちた。ゲンの輪郭を白い光が形取る。千空が掴む手とは逆の手で自身の顔をゲンが覆った。俯くゲンを千空は勢いよく引き寄せた。小さく震える、自分よりも歳上の、間違いなく男の、これまでそばにあって、これからもそばにあって欲しいその身体を精一杯の力で呆然と抱きしめた。

    「泣いちまうくれー嬉しいなら、素直に喜べバカ」

     白黒の頭ごとぎゅうぎゅうに腕の中に収め、千空は自身の声まで鼻声になっていることに気付いた。千空の服を、恐る恐るゲンが指先で掴んだ。しがみついたっていいのに、そんなところで遠慮するなと泣きたくなる。
     ぺらぺらだと自称するくせに、バカでかい愛をよこしてくるこの男が、千空は愛しくてたまらないのである。
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