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    mame

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    ろささ
    多忙でストレスがたまったふたりが明るく健全にストレス解消する話(中編)
    ※再結成からしばらくたって比較的最近お付き合いを開始したふたりです
    【前編】https://poipiku.com/1356905/4536647.html

    朝焼けアクセル(中編) タクシーにするか、と言ったが時間的に渋滞に巻き込まれそうやしと電車を選んだのは簓だった。
     盧笙の家の最寄駅に中身のない会話をしながらたどり着けばウメダ行きの電車がホームに滑り込んできた。タイミングよかったな、と口にしながら冷房の効いた車両に乗り込み隅っこへ向かう。学校終わりの学生なんかもいるので、キャップとマスクをしている簓を壁際に立たせ、少しでも壁になればと盧笙はその隣に立った。こそっと、ありがとうと隙間から覗く目尻を下げるので、こういうのも久しぶりだなあと思う。
     ウメダまで乗り換えなしで約二十分。ぞろぞろと電車をおりホームへ出る客に混じり、一番近くて有名な百貨店へ向かった。電車の中でとりあえず良い総菜と良い酒を大量に買おうという話になっていたのだ。
     エスカレーターを降りて少し歩けばすぐに辿りついた百貨店の入り口。食料品関係はデパ地下という言葉通り地下にある。再びエスカレーターを降りれば食べ物の匂いにぶわりと襲われた。ショーケースに飾られた和洋折衷の食べ物たちに、途端に心が躍る。よく簓と零が手土産だと言って盧笙の家にプリンと一緒に持ち込むデパ地下惣菜だが、盧笙自身がここに訪れることはなかなかなく、あまり馴染みのないグラム単位での量り売り惣菜達に自然と表情が明るくなった。
    「あれ、うまそうやな」
     数歩先のショーケースにあった山盛りの計り売り惣菜に対して、何の気無しに盧笙が言えば、簓がハッと息を呑んだ。名前を呼ばれた犬が尻尾をぶんぶんと振るような勢いで、これくださいと店舗の店員にすぐに声をかけに行ったのを驚きの表情で盧笙は見送った。ニコニコと「俺もうまいと思う」と会計を済ませ買い物袋片手に盧笙の元に戻ってきた簓に盧笙は酷く納得した。なるほど、これが散財。物を買うにあたり、吟味せず、衝動に任せて金を使う。本日の在り方を簓がまさにいまやってみせたのだ。
     物珍しそうなものや、簓がこの前ロケで食べてうまかったというものも、簓本人が口にするや否や店員に声をかける。フロア内のいろんな店で買うものだから、盧笙の手も簓の手もあっという間に複数の買い物袋で埋まってしまう。しかし百貨店ということもあり袋おまとめしますか? と店員から笑顔で声をかけてくれるのも有り難い。
     軽快にカードを切っていく簓が心の底から楽しそうなので、盧笙も買いすぎやろという理性の言葉を早々に封印した。買い方としては、一人当たり二口程度の少量を豊富な種類で手にしていく。試食を進められるがままにし、気に入れば購入し、惣菜売り場とスイーツ売り場を行脚し、そうしてふたりはやっと満足した。今晩だけでなく、明日と明後日の休日全てを賄えそうな量になったが、酒と一緒に食べればおそらくすぐなくなってしまうのだろう。盧笙はというと、スイーツ売り場で賞味期限内に食べられそうなプリンを5つ程、それぞれ別の店で簓に買ってもらった。
    「こんだけあれば食べ比べできるなあ」
     と、簓が店員に5つ目のプリンの支払いをしながら笑みを見せるので、盧笙は仰々しく頷いた。手に持つ色とりどりの買い物袋ががさりと音を立てる。
    「毎日のご褒美で食っても、たまの贅沢で食っても、食べ比べしてもプリンは美味い」
    「盧笙はどういう立ち位置からプリンを見てるん?」
     必要なものには保冷剤を入れてもらったが、冷蔵機能付きのロッカーにとりあえず買ったものをドサッと突っ込んだ。リカーショップで購入した普段飲まないクラフトビールや有名酒造のプレミアがついている酒がなかなか重かったため、かなり身軽になったふたりだ。再び手ぶらになった簓に、自身の手に巻かれた腕時計を見ながら盧笙は口を開いた。
    「閉店まであと一時間ってとこやな」
    「一時間かあ。俺、スーツ新調したいねんなあ」
    「ええやん、高額商品や」
     ほんならメンズ館か、と特に打ち合わせすることなくふたりは動き出した。ゆったりと幅がとられた百貨店の通路を横並びで喋りながら歩くが、店員達がおそらく白膠木簓だと気付いているだろうにスルーしてくれる。閉店一時間前ということもあり、一般客も急ぎで買い物を済ませる者ばかりで、珍しく気付かれなかった。気付かれれば気前良くファンサービスする簓であるし、そのことに対して盧笙も好意的に捉えているが今日はストレス発散が目的で外出しているわけで、互いに気が済むまで周囲に気付かれなかったらいいなと願う。
    「おそろで仕立てるか?」
     わずかに下。盧笙の左隣から聞こえた声に、外に出て横断歩道を渡ろうとしていた肩がピクリと跳ねた。いまの簓の声は、多分。
     瞬時に頭を回転させて、どう返事するのがベストなのか考えるが、結局いちいち考えていたらキリがないという答えに行きつき、盧笙は小さくため息を吐いて横断歩道を渡り切る。
     隣を見ればいつも通りの表情の簓がいるわけだが、さすがにもうわからない盧笙ではない。みくびってもらっては困る。
    「あほか、数学教師がオーダースーツ着て授業するなんてもったいなすぎるわ。チョークまみれなんねんぞ。量販店で十分やっちゅうねん」
    「えー、卒業式とかは?」
    「涙と鼻水つく。いやや」
    「号泣でっか、先生」
    「はっ、あたりまえやろ」
    「なんで胸張ったん」
     目当ての建物の入り口に差し掛かった。歩道にはひとがあふれていて、自分のペースでここまで辿り着くのは至難の業だ。煌々と夜の街を照らす百貨店の別館。男性用品に特化しているそこは、先ほどまでと随分と客層が違っている。
    「ちぇ、久しぶりに揃いのスーツいけるんちゃうかと思ったんやけどな」
     隣の簓はと言うと、ほんの少し拗ねたように唇を尖らせていた。その唇をむにっと摘んでやる。その間も足は止めないのだから器用なものだ。不満を視線で訴えられて、盧笙はフハッと息を吐き出しながら眉尻を下げ笑みを作る。
    「ない。ないで簓」
     赤の外観とは打って変わり、オフホワイトベースの店内に入る。フロアガイドを見ずとも簓は店の位置がわかっているらしくまっすぐエスカレーターへ向かっていた。
    「……別に念押しせんでもええやん。漫才やろ言うてるわけちゃうんやし」
     未だに、広義で盧笙と漫才をやりたい旨を言ってくれる簓に対し、過去が美化されてるんちゃうかと思ったこともたしかにあった。なにせ盧笙が簓と漫才をやっていたときを振り返れば辛い過去が必ず付き纏ってくるからだ。なんならその記憶がセンターを飾ってしまっていて、簓とのギャップを感じることがしばしばあった。でも、簓が再会してから一度も「教師を辞めて漫才をやろう」と誘ってきたことがないと気付いてからは、美化されているわけじゃないと理解した。
     再会時、組もうと誘ってきた簓に否を返した盧笙へ「なんでや」と連呼した簓に、半日かけて質問の答えを返した盧笙だった。その盧笙の答えを理解した簓の、本音と建前の精一杯。あわよくば、と考えている図々しさと、盧笙の人生を否定しない引き際。アンバランスなそれに一番翻弄されているのはきっと簓自身だ。
     お笑いじゃないけど、盧笙とてっぺんをとると言う簓の言葉に裏などない。つまり、本音として、簓はお笑いで盧笙とてっぺんを獲れるのが一番いいのだ。けれど、それを抜いてしても、昔ふたりして逃げてしまった、いまは別の板に立っている相手と組んで、今目の前にある山のてっぺんを目指したい。それもまた本音で。
     きっとお笑いで組んで、ラップバトルでも組んで、ふたつのてっぺんを目指せるのが簓にとってはベストなんだろう。でもそれは無理だ。盧笙には盧笙の生き方があって、同時に簓は盧笙がふたり別の道を歩み始めてからの盧笙のことを決して否定しない。簓は教師の盧笙をすごいなと手放しで認めるのだ。だから、無理だしありえない。
     そんな過去の盧笙も今の盧笙も見てくれている簓に、喜びを見出さず何を感じろというのか。譲れるところも、譲れないところも互いに違う。だから、簓も盧笙も、ふたりがふたりでいられる場所を新たに構築するため、互いを壊さず、尊重することに必死だ。
    「あー、ちゃう。突き放してるわけやないねん。でも俺らが揃いのスーツはもうないわ。白膠木簓がテレビで着てるスーツと一介の数学教師が同じスーツて、俺どんだけいじられんねん。あらゆる角度からツッコまれるし、ツッコまれんかったらそれはそれで死ぬやろ」
     盧笙がそう言えば、簓はツッコミ入れるなら俺に入れてやとムキーッと騒ぎ出した。こら、バレるで、とそんな簓を嗜めながら盧笙は簓と縦並びになりエスカレーターに乗る。盧笙のひとつ上の段に乗った簓は盧笙よりも目線の位置が上がっている。ペラペラとメンズ館の店舗の話を始める簓に、簓の中でこの話題は終わったのかもしれない、と思いつつ、先程おそろを提案してきた簓の声色を盧笙は思い出す──きっと、あれが、簓が盧笙にいま言える精一杯なのだ。
     いちいち距離を測って、言っていいわがままの範囲を考えて、引き際を見極めて。盧笙も盧笙で、どう返すのがベターなのか考えて。しかし会話のテンポもノリも変えないまま。
     酷くまどろっこしいし、言ってしまえば面倒なことこの上ない。しかし、それを経なければ、信用も信頼も勝ち取れない。
    「……まあ、次揃いにするなら、タキシードやろ」
     だから、終わった話題と分かっていながらも、盧笙は掘り返した。
    「俺、シルバーがええな。お前も似合うと思うわ」
     光沢があるネズミ色とかあるやん。ええなよなあ、あの色。シルバーグレーって言うんやっけ。言葉を続ける盧笙に、盧笙の一段上で簓がぽかんと口を開けている。簓の頭上ではエスカレーターの低い天井が変わらず動いていた。
     付き合い始めてからよくこの表情を見る。先ほど家での会話で盧笙もこの簓を理解した。盧笙の恋人モードに追いついてない簓の顔だ。理解すれば、愛着は沸く。再度にはなるが、簓がいうには、盧笙は素直なので。
    「も、」
    「も? あ、おい、エスカレーター終わんで。まえ見ぃ」
     上りエスカレーターを降りるため、盧笙の声に簓が一瞬前を向く。盧笙も同じくエスカレーターを降りた。一階よりも人は少ないが人がいないわけではない。そんな中、前を行く簓がキャップを勢いよく外し、緑の髪を曝け出した。突然の行動にギョッとしていれば、目元を熟れたリンゴのように真っ赤にした簓がぐるんと振り返り、盧笙を睨みつけた。残念ながら、全然怖くない。マスクの下の口はきっとわなわなと震えているのだろう。思わず破顔すれば、ついに簓が地団駄を踏む。
    「もお~~腹立つ~~~~~! またそういうことさらっというんや盧笙、お前はぁ~~~~! 俺をどうしたいん アァン」
    「いや照れ隠しのガラ悪いな。ほら、今日のところはオーダースーツの布選んだるわ」
     簓の背中をぽんと叩く。びく、と背筋を伸ばした簓が顰めっ面を作って盧笙を見上げてくるから、盧笙は酷く楽しい気持ちになった。綺麗に清掃されたフロアをすたすた歩き出せば、簓が慌てて追いかけてきて盧笙の隣に並んだ。わかりやすくソワソワしている簓に、隠すことなく盧笙は笑ってみせた。
    「はぁ〜 めっちゃ嬉しいわそれ! あ、カフスとハンカチも選んでや!」
    「いや情緒。任せとけ、めっちゃイカついの選んだるから」
    「待って、俺のキャラ考えてな」
     アンバランスで矛盾の塊でひどく騒がしいお前の、ずっと隣にいる覚悟があることがちゃんと伝わればいい。


     スーツのオーダーは簓が常連ということもあってスムーズに済んだ。
    「このスーツ何用なん? 劇場? テレビ?」
    「劇場! 今度ライブ予定してるからな、新しい服着て気合い入れたい」
     盧笙の質問に答えながら相変わらずド派手な生地を簓が候補に持ってきたので、盧笙はその中でも一番目に痛い生地を選んでやった。少し意外だったのか驚いた表情を少しだけ見せた簓だったが、すぐに店員さんに言うてくると弾むボールのように小走りで盧笙の下を離れた。その背中を見ながら、盧笙は小さく笑う。
    簓の芸は喋りがメインだ。そういう芸は、衣装が奇抜すぎては衣装に意識が持っていかれ集中出来なくなってしまうという懸念があるため派手すぎる衣装は万人に好まれない。だが、盧笙の知る白膠木簓はそんな縛りは物ともしないわけで。板の上で一度口を開いたら、迷子の子どもの意識だって引っ張ってみせる。そうか、ライブか。メジャーを持った店員と笑顔で戻ってくる簓を見ながら盧笙はゆるく微笑んだ。チケットとれるかな。
     採寸して「白膠木様、お身体変わりはないですか?」と痩せたことをオブラートに包んで尋ねてくる店員に、盧笙が「元の体型に戻させるんで前回のデータで大丈夫です」と言い放てば、簓が青い顔で「オカン、無茶な増量計画はかんにんして」と呟いた。
     発注書を整えたときには閉店時間が迫っていた。店員に見送られ、ふたりは急いでデパ地下へ戻る。冷蔵ロッカーから預けていた惣菜と酒を取り出し、また両手いっぱいに逆戻りだ。
    「盧笙、これどうする」
    「まだ帰らんのやろ?」
    「せやな、まだ遊び足りひんくない?」
    「ほんならクーラーボックス買おか。ヨドバシにあるんちゃう」
    「なんで電気屋にクーラーボックスあんの知ってるん……ハッ! 盧笙! おまっ! もしかして!!」
     歩道橋を横並びで歩いていれば、簓がわざとらしく立ち止まった。嫌な予感がして顰めっ面を張り付けて振り返る。三歩後ろでわなわなと震えるキャップにマスク姿の簓は、きっと両手が荷物で塞がってなければ盧笙を指差していたのだろう。
    「オサカナ鑑賞所のときのクーラーボックス、ヨドバシで買うたんか……!!」
     嫌な予感はばっちりあたってしまった。こういうときの簓の勘の良さは一体何なのか。盧笙の表情から全てを察したのか、是を返していないというのに、簓が膝から崩れ落ちた。夜といえど人通りは多い歩道橋だ。周りの人がぎょっと簓を見るので、慌てて簓の腕を引っ張り上げて立たせれば震えながら目尻を濡らしている。
     昔。蓋を開けてみればただ水族館に誘われただけだったというのに「オサカナ鑑賞所」だなんて簓にややこしい言い回しをされて、競りだと勘違いした盧笙は急いで色々用意した。その一式の中にあったクーラーボックスは簓の言う通りヨドバシカメラで購入したのである。盧笙に手を引かれながらもヒイヒイ言ってバカ笑いを続ける簓に、ぶすっと唇を尖らし盧笙は「ウチにクーラーボックス二個もいらんから今日の買ったのんはお前が持って帰れよ」と告げてやれば「アカン死ぬ、笑かすんやめて」と咳き込みながら簓が震えた。
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