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    mame

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    mame

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    出ロデ
    未来捏造、再会のプロローグ

     378000㎢
     この数字は日本の国土面積、らしい。
     だから、まあ、はっきり言って。会えるなんて、微塵も思っていなかったのだ。
     ロディは頭上にパチパチと光る緑の残像を呆然と目で追いながら、フライトの担当が決まってから叩き込んだ情報を頭の中で反芻する。肩に乗っている己の魂が、ピィと僅かに鳴いて震えているのを感じて、しかしどうするわけでもなく。網膜と脳に焼き付けるように高層ビルの合間を走っていった眩い閃光を見つめた。
    「ピノ、見たか」
    「ピピッ」
    「笑ってたなあ、デク」
     目の奥がじわりと熱い。視界が滲みそうになって、ロディは消えゆく閃光の更に向こうにある青空を見る。口角はあがったが、唇は戦慄いていた。
     オセオンにまた来ると言った出久に、二度と来るなとロディが言ったあの日以降、ふたりの間でなにもやりとりはなかった。一方的にオセオンに届くワールドニュースの欠片をひとつひとつ拾い集めて、ロディは出久が生きていることを祈るような気持ちで確かめていた。文字や映像、媒体越しに見ては安堵して、また無茶してるんだななんて呆れて、勝手に勇気づけられて。しまいには一度諦めた夢だったパイロットになって、この度日本便の副操縦士にまでなってしまって。
     日本便の希望を出すことで、出久に会えるかもしれないなんて、思ってなかった。連絡もとってない。どこにいるかもわからない。378000㎢の国に住む、1億2000万人の人間の中のたったひとり。でも、そのたったひとりが、ロディの人生における唯一のヒーローだった。それだけの話で、日本という国を知りたくて、どんな空なのか見てみたくて、ロディは鉄の塊で海を越えてこの地へ今日はじめてやってきた。
     デクだ! という誰かの声に弾かれたように声を上げた数秒前。そのヒーローは空を駆け抜けて行った。
     ロディとのその距離、およそ五メートル。己の乗り込んだコックピットの離陸時のスピードより速かったのではないかと、ロディは吐き出す息と一緒に笑った。
     上げていた顔を無理のない角度に戻す。視界にはロディが普段暮らすオセオンとはまるで違う風景が広がっている。
     ビル群に人混み。立ち並ぶ店の間をすり抜けるようにして歩いていく人々は一体何を考えているのだろう。わけもわからないまま心が弾んだ。口元をむずりとさせてから、ロディは引いていたキャリーバッグの持ち手をぎゅっと握った。
    「よーし、ピノ。さっさとホテルに荷物置いて観光するかあ!」
    「ピィ!」
     ばさりとロディの肩で羽音を立てたピノが機嫌良く鳴いてみせた。
     会えるなんて思ってなかった。
     でも、会えた。会えてしまった。
     じゃあ、もう、いいだろうか。
     だって日本まで来て、378000㎢の中でわずか五メートルの距離にあって、じゃあ。もう。ロディから会いに行っても、許されるのではないだろうか。結構、ここにくるまで頑張ったんだから、あの閃光を追いかけても、いいのではないだろうか。
     ホテルに荷物を置いたら、今までわざわざ調べてこなかったことを調べてみようとロディは心に決める。事務所の位置とか、SNSの目撃情報とか、そういうのを調べてヒーローの居場所を特定するのはマナー違反とわかりつつ、ロディは大きく肺に酸素を取り入れた。
    「でも最初に強引に追いかけてきて、俺のこと捕まえちまったのはアイツだしな」
     それでおあいこってことで、いいかいマイヒーロー。
     ビル風にしてはからりとした風がロディの頬を撫でた。足元はあの日と違う自分の足にぴったりと合ったプレーントゥ。雑踏に紛れるようにして、ロディはコンクリートの上で一歩を踏み出した。
     緩んだ頬を携えたロディの背中に懐かしい声で自身の名前をぶつけられ、ピノが大泣きしてその声の主の元に飛び出すまで、あとーー。
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