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    mame

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    mame

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    出ロデ プロヒ×パイロット
    ※互いに両想いなのはわかってるけど付き合ってないふたり
    設定・過去作( https://twitter.com/i/events/1431533338406178824)
    小雨が降った夜の話の巻(好き放題書いてるので情報は真に受けないでください)

    「あれ? このスープなんだか……」
    「お、気付いたか?」
     両手で持ったマグカップから白い湯気が立ちのぼる。出久はふうと息を吹きかけその湯気を散らしてからマグカップの中身を一口含んだ。熱すぎるくらいのそれは出久が知るものよりも随分とコクがあって目を見張る。
     透明で黄金色の、わずかに波立つスープを見つめてから、出久が顔を上げ問いかければ、ダイニングテーブルを挟んで向かい側に座ったロディがにんまりと得意げな笑みを浮かべてみせた。その表情にくすりと笑いながら、もう一口。舌の上でで熱々のスープを転がしてから、片肘で頬杖をついて変わらず笑みを浮かべるロディに首を傾げた。
    「コンソメスープ、だよね?」
    「ん、そう」
    「でもなんだかいつものコンソメスープとは違うというか……んん……? なんだか……すっごくおいしい……うん!? おいしいね、これ……!?」
     ロディに至極あっさりと肯定された出久の答えだが、出久自身がなんだか納得いかない。だって普段からこの家にあるコンソメスープの素はもうちょっとあっさりしている筈だ。再び首を傾げ、手の中のマグカップを何が違うんだろうと見つめるとロディがそんな出久を見て、息を漏らすのと一緒にくしゃりと笑ってみせた。
    「デク前言ってたろ、飛行機の機内サービスのスープおいしいって」
    「え、もしかして」
    「そう、あれ販売してんだ。知らなかったっしょ」
     買ってきた。そう続けてからニシシと歯を見せ、悪戯が成功した子どもみたいにロディが笑った。ピノが得意げにロディの肩でふわふわの胸を張る。ひとりと一羽のその表情に、出久は口をぽかんと開けるしかない。
     今日はロディが出久のセカンドハウスを訪れる日で、終業後、足取り軽く帰路についた出久だったのだが突如雨に降られた。びしょぬれになるほどの豪雨ではなかったが、それでも服全体がしっとりと濡れ、玄関のドアを開けた時にはずいぶん身体が冷えていたわけで。最近、随分と寒くなってきた。冬の入り口はもうすぐそこまできているようだ。
     そんな出久を玄関まで迎えに部屋から出てきてくれたロディは呆れ混じりに「さっさと風呂入ってこいよ。頭ワカメにしか見えねえから」と笑って、出久を脱衣所に強制的に押し込んだ。
     どうやらロディは出久が濡れて帰ってくるのを予想していたらしい。なにせ出迎えの時にはタオルを渡されたし、シャワーを浴びようと入った浴室の浴槽の中には綺麗なお湯が張られていたし、ぽかぽかになって風呂から上がって部屋に入るとダイニングテーブルにはマグカップがふたつ用意されていたからだ。その用意されていたマグカップの中身は、いつかの雑談の時に出久が口にしたらしい言葉を拾い上げてくれたロディの優しさの塊だった。
    「すごく嬉しいよ、ありがとうロディ」
     素直にそう言えば、ロディは唇の片端を釣り上げ目を細めた。ロディ自身も頬杖をついていない手でマグカップを持ち上げ口元へ運ぶ。
     出久は眉尻も目尻も下げているのに口角だけは随分と上がってしまう。ロディに会いに行こうと思ったきっかけは雨に降られたからだ。その日の思考が脳裏をよぎる。
     あの日は随分と虚しかったというのに、ロディがいる今日ときたら、濡れた出久を笑ってくれて、ぽかぽかの風呂に押し込み、その上あたたかい飲み物と出久への小さなサプライズ付きときた。もう、ロディと会わない期間が長くなる生活には、戻れないなと出久は確信している。こんなときにロディがいたらな、という気持ちが、実際に消化され、出久の想像以上のことを与えられるのだ。こんなの、手放せるわけがない。
     またマグカップを口元へ運ぶ。ふわりと鼻腔をくすぐる優しい香りと、風呂であたたまった身体をさらに温めてくれるぬくもりに、ふにゃりと顔が緩んでしまう。ロディはそんな出久を見ながら身体を僅かに左右に揺らした。長い足をテーブルの下で組んだらしい。ロディの履くスリッパの先がこつんと出久の脛に当たり、わり、と謝られる。出久は大丈夫、と返してから小首を傾げた。
    「空港の売店とかに売ってるの?」
    「いや、実店舗での販売はどこの会社もしてねえんじゃねえか? 搭乗者向けのカタログ販売か公式ネットショッピングサイトばっかりっつーか」
    「だから見かけたことないのか。なるほど」
    「他のとこは詳しくねえけど、ウチはそう。ま、これはウチの会社のスープだから、デクが思ってるやつとは違うだろうけどさ。言ってたのは日本の航空会社のだろ?」
    「たしかにそうだけど、これもとっても美味しいよ……なんかすごい……飛行機乗ってるときの味が家で……」
     両手で持つマグカップの中身をじっと見つめる。あるのは先ほどと変わらないスープのみだ。
    「普通のコンソメスープと何が違うんだろう」
     真剣な眼差しのまま口を開く出久を、ロディは相変わらず頬杖をついたまま一笑する。ピノが楽しそうにピピピと小刻みに鳴いた。
    「ビーフコンソメってのもあるだろうけど、なにより飛行機じゃ空の旅補正かかってるだろ。今飲んでるヤツ、いつもよりもおいしさ半減してんじゃねえか?」
    「そんなことないよ!?」
     むしろいつもよりおいしい、といいかけたところでピノが飛んでくる。あ、上機嫌だ。マグカップを片手で持ち、指先でピノの小さな額をくすぐってやると気持ちよさそうに身体を出久の指に寄せてくる。
     そんな出久とピノのやりとりを見つめていたロディが頬杖を外した。圧迫されていたロディの薄い頬は僅かに赤くなっている。出久がピノの相手をしながら、それを言おうとしたと同時。再びいたずらっ子の表情を覗かせたロディが両眉をひょいと上げた。
    「補正かけるために特別に機内サービスでもしてやろうか」
     出久の脳内に激しい落雷。ぴたりと動きをとめ、目を見張る。わなわなとマグカップを持つ手が小刻みに揺れているのを自覚しながら、出久は眉間に皺をよせつつ口を開いた。
    「そ、そんなスペシャルなことが許されるの……?」
    「別にスペシャルでもなんでもねえって」
     ふはっと笑って、ロディが椅子をひいて立ち上がる。ロディ自身が飲んでいたマグカップをことりとテーブルにおいて、すたすたとソファへ行き、背もたれにかけっぱなしのブランケットを手に取り、すらりとした腕にひっかける。こほんとひとつ咳払いをしたのち、ぴんと背筋を伸ばしたロディがダイニングテーブルに座る出久の元へ笑顔で寄ってきた。
    「ただいまよりブランケットを持った乗務員が客室へ伺います。ご利用の際はお気軽に乗務員に声をおかけください」
    「エッ!? キャビンアテンダントの方!?」
    「機内で大きな声を出すのはお控えください」
    「あっ、ごめんなさい!」
     仰天した反応を慌てて謝罪してブランケット要ります! と挙手すると、肩を小刻みに揺らしながら、ロディが腰をかがめどうぞ、とブランケットを出久に渡してくれる。それを出久は中身が半分以下になったマグカップをテーブルに置いてから両手で受け取った。いつも使っているブランケットが何倍も上等なものに変身した気がする。
     自身の膝にそっとかけて、出久はほぅと息を吐く。あたたかい。ピノがブランケットの上に降りてきて、出久の足の間でまるくなった。出久の横に立つロディはマグカップをちらりと見やり「ドリンクはおかわりも可能ですが、いかがされますか?」と小さく笑った。ぎゅん、と胸の奥が鷲掴まれた出久ある。
    「お願いします!」
     今度は大きく頭を下げれば、腰が低すぎる乗客だな、とくすくす笑いながらロディがテーブルに置かれた出久のマグカップを手に取り、慣れた足取りでキッチンへ歩いていった。出久の部屋はカウンターキッチンのため、ロディがキッチンに立つ様子がよく見える。調理台にマグカップを置いたロディが顔を軽く伏せながら作業を始める。赤みがかった褐色の髪の毛は首の横でゆるくまとめられていて、ロディが動くたびに小さく揺れた。
     楽しい。とても。まさかの展開にそわそわしながら、出久はロディを見つめながら口を開く。
    「ていうか、ロディ、受付もできてたよね……なんで……?」
     コンロ前に立ったロディはケトルのお湯を温め直しているらしい。再会の日を思い出した出久の質問に薄く笑みを浮かべながら、ロディが答えを返してくれる。
    「ああ、あれはな。研修受けさせられるんだよ。ウチの会社はパイロットも空港業務知っとけっていう方針でさ、一応一通りの事はもちろん専門の人間には敵わねえけど基本的な知識は持ってんだ。飛行機飛ばねえとかってなったら対応に追われて人手足りなかったりするしさ。そういう時はうちの会社じゃ飛行機飛ばなきゃ役立たずのパイロットは手伝ったりするんだよ」
    「へえ〜……!」
     購入してきたらしいコンソメスープの素をマグカップに入れて、すぐにことこと沸騰を主張してきたケトルを火から外しお湯を注ぎ入れる。
     慣れた手つきでカトラリー入れからスプーンを取り出し、マグカップの中身をくるくるとかき混ぜはじめた。陶器とステンレスがぶつかる軽やかな音が部屋にカンカンと響いた。
     マグカップを手に持ち、やはりピンと伸びた背筋でロディが出久の元へ戻ってくる。隣に立って、物腰やわらかに出久の前に静かにマグカップを置いた。最初の量に戻ったコンソメスープがマグカップの中で波紋を広げ揺れている。顔をあげると、ロディがあっさりと出久の正面の椅子へ座ろうとしていることに気付き、出久は思わずその手首を掴んだ。
    「すみません、隣に座って一緒に飲んでもらえませんか?」
     とっさに出た言葉に、その場の空気がぴたりと止まった気がした。
     ぱちぱちと目を瞬かせたロディは出久の顔を凝視していたが、ようやく何を言われたか理解したらしい。驚きに目を丸くしていた瞳が、じとりとしたものへ変わっていく。どうやらロディの口説き判定が入ったらしい。ちくしょう、頭の回転が速い。そこも大好きなんだけど、なんて出久が考えている間にロディはへらりと笑って、肩をすくめた。
    「申し訳ございません、ミスター。当機はそのようなサービスは行っておりません」
     ロディの腕時計を撒いているところだけが白い手首を掴んでいた出久の手を解かれる。ダメだったか、厳しいな……今日はなんだかいけそうな気がしたんだけど……と出久が奥歯を強く噛んでいると、ロディはほったらかしにしていた自身のマグカップの淵を上から掴んで持ち、出久の隣の椅子をすいっと引いた。
    「……が、ヒーローデクの頼みですので特別ですよ」
     そして涼しい顔をして、すとんと出久の横に腰をおろした。再び脳内へ落雷。薄く笑ったロディをぽかんと口を開けて出久は見つめるしかない。
     ロディが客室乗務員じゃなくて心から良かったと思った。こんなの乗客みんな虜にされてしまう。
     出久の部屋にあるコンパクトな四人掛けのダイニングテーブルでは、いつもテーブルを挟んでふたりは正面に座る。隣に座ったのは初めてだ。
     自分が誘ったくせに、いざ座られると頭が真っ白になってしまった出久である。ソファでは横並びで同じような距離で座っているというのに、場所が変わっただけで、なんだか心臓がやたらと存在を主張してくる。隣ではロディがぬるくなっているであろうコンソメスープをなんともない顔をして啜っていた。な、なにか会話……と考えてようやく出てきた言葉は。
    「ええと、あなたを口説いてもいいですか」
    「ダメです、それはヒーローデクでもアウトですね」
     間髪入れずスパッと一刀両断された。しかも笑顔で。出久にも簡単にわかった。ロディのこれは営業スマイルだ。ピノが出久の膝にかかるブランケットから出久を呆れた表情で見上げてきているのを確認するまでもなかった。ぐっと下唇をくやしさで食む。ダメか。ダメなのか。
    「こんなに特別扱いしてくれるのに……!?」
    「アウトです」
    「えー!」
    「勘違い野郎はとっととお帰りやがれください」
    「急に口が悪い!」
     騒ぎ出す出久にあははとロディが表情を崩して笑いはじめた。ピュルルとピノが笑い始めているのでこれはいつものロディの素の笑いだ。こちらも確認するまでもなかったけれど。
     すごすごとマグカップを再び両手で持ってから、出久はちらりと隣のロディを見やる。
     おふざけには乗ってくれる。なんなら率先してやってくれる。
     特別扱いもしてくれる。きっと、出久にとってのロディが特別なように、ロディにとっても出久は特別なのだ。それは自惚れでも勘違いでもないはずで。ない、はずで。ない、よな?
     だんだん自身の思考回路に自信がなくなってきて、下を見るとピノがまた丸くなっていた。リラックスしている様子に、ううん、と小さく唸りながら出久は熱々のコンソメスープを口に含んだ。ごくりと飲み込み、熱い液体が胃に落ちていくのを感じながら、なんで口説くのは駄目なんだろうなあ、なんてすっかりあたたかくなった唇を尖らせるしかないのだった。
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