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    kitanomado

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    kitanomado

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    「19802005」A5/p250(予定)/二段組/R18
    Web再録の書き下ろし分サンプルです。

    鬼のきょうじと村の子さとみくんの話続と狂児と二人で出かける事になった正実の話。他の書き下ろしは初夜後の話とか入る予定です。
    発行は1月上〜中旬予定です。おまけでツイまとめ本がつきます。通販決まりましたらツイなどでお知らせします。
    ご興味ありましたらよろしくお願いいたします🙏

    19802005『鬼のきょうじとさとみくん 都へ行く』

     むかしむかし。西の国の高い高いお山のてっぺんに、鬼たちが住む国がありました。その国は、祭の国と呼ばれていました。祭の国にはたくさんの鬼がいましたが、その中にひとりだけ、さとみ、という人間の男の子がいました。
     さとみは、十四の年の頃にこの鬼たちの住む山へ贄として連れてこられたのです。それからずっと鬼たちと一緒に暮らしていました。
     鬼たちは、人間よりも少しだけゆっくりと年をとります。鬼達の中でいちばん偉い「くみちょう」と呼ばれている鬼は、今年で二百歳になりますが、外見は人間のおじいさんよりもとても若く見えます。
    お山の不思議な空気と、お山の森になる赤いざくろの実を食べると、少しだけ、年をとるのが遅くなるのです。なので人間の子のさとみも、少しだけゆっくり年をとっていました。
     そうしてお天道様が登ったり沈んだりをいくつか繰り返した頃、さとみは十八歳になりました。成長したさとみは、輝くような美しい青年に育ちました。白い肌と真っ黒な髪はつやつやとしています。大きな目は、澄んだ湖のようです。
     さとみは、このお山に来た時から鬼たちに、たいそう可愛がられ、大切にされていました。そのなかでも、さとみのことをとびきり大切にしていたのは、きょうじ、という鬼です。きょうじは鬼たちの中でも、若頭ほさといって、ずいぶん立派な鬼でした。若い鬼たちを従えたり纏めたりする、鬼達のなかでも位の高い鬼なのです。
     きょうじは、さとみが十四で初めて鬼の国に来たときから、さとみの身の回りのことを率先してあれやこれやと世話していました。きょうじはさとみの側からぴったりとくっついて離れません。ふたりはどこに行くにもいつも一緒でした。

     ある日、きょうじは都へさとみを誘いました。
    「さとみくん都行こ!」
    「都ですか?」
    お山の麓には、おおさかというたくさんの人間たちが住む、大きな都があります。とても栄えていて、美味しいものや珍しいものが沢山あるというのです。
    祭の鬼たちは、時々都へ降りては商売をしていました。なので鬼たちにとって、おおさかは、自分たちの庭のようなものでした。さとみは、おおさかのことはずっと話には聞いていましたが、行ったことはありませんでした。
    「温泉もあるし、うまいもんもあるしええとこやねん。さとみくんと行きたいわ」
    きょうじの膝の上で、都の話を聞いていたさとみは、祭のお山も大層立派だけれど、おおさかもそんなにすごいのかしらと想像しました。
    「行ってみたいな」さとみがそう答えると、きょうじはさとみのやわらかい、つきたてのお餅のようなほっぺたにすり、と頬を寄せました。
    「さとみくんもお兄ちゃんなったからな、ほなお泊りしよ」
     きょうじの言葉に、さとみはしれず、唇を噛みしめ、手をきゅうと握りました。とうとうこの日がきた、と思ったのです。お兄さんになったので、きょうじに食べられるのだろうと思いました。
     昔、お兄さんになったらな、ときょうじは言いました。
    きょうじたち鬼は人間は食べないというのですが、なぜかきょうじはさとみのことをいつも「さとみくんはほんまにかわええな。食べてまいたいわ」と言うのです。
    そんなことを言うのは鬼の中でもきょうじだけです。きょうじは、特殊なのかもしれません。それに、本来ならさとみは鬼の国に食べられるつもりでやってきたのです。
     きょうじはいつもさとみに良くしてくれていました。それに、さとみはきょうじのことが大好きだったのです。恥ずかしくてきょうじに言ったことは一度もありませんが、ずっとずっと大好きなのです。だから、きょうじになら食べられてもいい。そう思っていました。
     温かい春の日。ふたりは、おおさかに旅に出ることにしました。皆に見送られながらお屋敷の大きな門をでます。門の前で、きょうじはヒュッと口笛を吹くと、黒くてぴかぴか光る四角い物が二人の前にすっと止まりました。良く見ると下には四つの車輪がついています。
    きょうじは扉をあけると、さとみを中に促しました。さとみが中に入ると柔らかい椅子に腰をおろします。それはいつもきょうじと寝ているお布団くらいふかふかでした。まるで雲の上に乗っているようです。
    きょうじがさとみの隣にのると、黒い乗り物は風のように山を降りていきます。その早さといったら、お馬とは比べ物になりません。しかもほとんど揺れず、とても静かなのです。

    そうして、あっという間におおさかにつきました。
    高い塔や、大きな橋のある街の中心のにぎわいはそれはそれは大変なものでした。
    聡実は人の多さに目が回りそうになります。はぐれてしまわないように、きょうじの大きな手をしっかりと握っていました。
    ふたりは少し休憩しようと茶屋に入りました。

    ※ ※ ※

    茶屋を出ると、近くから女の人の大きな声がします。
    「きょうじさんや!」
    「いや!ほんまやん!」
    「ややわぁ、こっち来てはったんならいうてくれたらええのに。水臭いわぁ」
    「最近ご無沙汰やないですか。寂しかった〜」
     きらびやかな着物を身にまとい、髪の毛を豪華にまとめた綺麗な女の人達がきょうじに駆け寄ります。さとみはびっくりして、慌ててきょうじの後ろに隠れました。女の人達からは、甘い花のような、いい香りがします。それは、きょうじのつけている香りとは違いました。
     女の人たちはみんな、きょうじのことをうっとりと見つめては、口々にお喋りをしています。それもそのはず、きょうじは鬼たちの中でもとびぬけて美しい鬼なのです。さとみはきょうじの手下のひとりから、きょうじのように美しく、立派で体躯のいい鬼のことを、美丈夫というのだと教えてもらいました。そして、さとみに出会う前からきょうじは随分人間の女の人たちに好かれていたのだといいうことも聞いていました。
     さとみはきょうじの顔がとても好きでした。時々、きょうじの立派な濃い眉毛や、すっと通った鼻筋の横顔をぼんやりと見つめては、きょうじに「さとみくんどないしたん?」と笑われていたのです。そのたびにさとみは、恥ずかしくて「なんでもあれへん」といって誤魔化していました。
     だから、きょうじがこんな風に綺麗な女の人たちに、ちやほやされるのは仕方がないことや。そう、自分に言い聞かせました。だけど、さとみはなんだか面白くありません。
     そのうち、ひとりの女の人が、きょうじの後ろに隠れているさとみに気がつきました。
    「きょうじさん、その子誰?」
    「きょうじさんの子ども?」
    「うせやん!」
    「でも、角あれへんな。人間の子?」
     さとみは、女の人達から口々に自分のことを聞かれて、困ったようにきょうじを見あげました。きょうじはさとみのことを更に背中の後ろに隠しながら、顔の前で軽く手をふりました。
    「アカンアカン!この子は大事な子やねんから触りなや。それに今日は仕事やないねん。また今度な。さとみくん行こ」
     名残惜しげな女の人達をよそに、きょうじはさとみを腕に抱きあげると、そのまますたすたと歩いていきました。しばらくして、きょうじはさとみの顔を覗き込みました。
    「さとみくんごめんなぁ。びっくりしたやろ?うちのシマの嬢たちやねん。最近他のんに店任せてて俺が顔出さへんからって、きゃんきゃんしとってん」
     きょうじの仕事の人達だとわかって、さとみはほんの少しほっとしましたが、それでもやっぱり、さとみの心の中は、もやもやとしたままです。なんだか、胸の中に真っ白な霧が立ち込めてしまったようです。それは、祭りのお山で雨が降る前に立ち込める濃い霧と同じでした。胸の奥が、しっとりと濡れてしまって、重たい気持ちがします。さとみの口数が随分少なくなったのに気がついたきょうじは、心配そうに聞きました。
    「さとみくん、どないした?疲れたか?」
    「へいき」
     さとみは、さっきからなんでこんなに腹が立つのか、自分でもよくわかりません。せっかく都までふたりで旅に来たのに、こんな風にしていたら、きょうじもきっと困ってしまうし、なんなら怒ってしまうかもしれません。きょうじがさとみに怒ったことは今まで一度もありませんが、それでも、今日はきょうじが楽しみにしていたせっかくの旅なのです。きょうじだってよくは思わないでしょう。さとみは段々悲しくなってきました。もうすぐきょうじとお別れなのに、こんな風にお別れするのはいやでした。
     ずっと俯いていたさとみの頬を、きょうじはちょいちょい、とつつきます。
    「さとみくん。見てー。もうすぐ着くよ。着いたら休憩しよな。茶菓子もあるよって」
     さとみが顔をあげると、大きな通りの両側にいくつもの建物が並んでいました。それは旅籠といって、遠いところから来た旅の人たちが寝泊まりするところでした。
    「なんや、いつもここらへんも人ぎょうさんおるのに混んでへんな。珍し」きょうじは不思議そうに呟きました。
    通りのなかでも一番立派な旅籠にきょうじとさとみは入りました。奥から宿の主人が出てきて、丁寧に頭を下げました。
    「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
    「ふたり泊まりたいんやけど」
    きょうじがそう言うと、宿の主人ははっとした顔できょうじをみました。
    「旦那様はもしや祭の方ではございませんか」
    「せやけど」
    きょうじがそう答えると、宿の主は深々と頭を下げたのです。
    「どうか後生でございます。手前どもをなんとか助けてはくださいませんでしょうか」
    宿の主人が話すにはこうです。
     ここ数日、夜中になると、どこからともなく大勢のけものたちが現れて、食料を荒らしたり、時には働いている人々が攫われたりと、ひどい悪さをして困っているのです。その噂は街にも広まり、客足が遠のいてしまっているというのです。
     きょうじは主人の話を顎をこすりながら聞き、少し渋い顔をしました。
    「ほんまはさとみくんとのんびり過ごそう思って来たんやけどな」
     さとみは、きょうじの羽織の裾をつい、と引きます。
    「きょうじさん、この人困ってはるし助けてあげて。そのけもののこと、解決してからゆっくりしたらええんやないの」
     さとみは、主人のことが大層気の毒になったのです。きょうじは裾をひいたさとみの手を握りました。
    「さとみくんがそういうなら仕方あれへんな。そんな邪魔くさい奴ちゃ、ちゃっちゃと片付けてまうわ」


    ---------------------------

    『岡正実の喜憂について続』

     なんで、こんなことに。
     正実は、今日で何度目かのため息をついた。
    「おにいさーん、こっちこっち〜」
     朗らかに、そしてでかい声で呼んでくるのは、弟の彼氏だ。声もでかければ背もでかい。さらに顔も良いのでやたら目立つ。弟の彼氏、成田狂児さんはスーツに白いシャツ、ぱっと見サラリーマン風だけど、サラリーマンにしてはやけにいかつい雰囲気がある。そりゃそうだ。だってあの人ヤクザやし。
    「お義兄さん」と、再び呼ぶ狂児の声に、正実は「あの、」と控えめに遮った。
    「はい?」
    「お義兄さんて呼ばれるのまだ慣れなくて。いうか、やっぱり狂児さんにお義兄さん呼ばれるの違和感しかないですよ」
    「そうですか?でもお義兄さんはお義兄さんやしなあ。ほな正実さんでええですか?」
    「それでお願いします」
     初めて狂児さんと顔を合わせた日。聡実が「会わせたい人がいる」と言って、会ったのは聡実より遥かに年上のヤクザの男だった。
    ふたりが本気なのを戸惑いながらも聞きながら、やっぱり可愛い弟とその彼氏のことを応援したい折れの気持ちは変わらなかった。
     うちの実家の両親へ挨拶をするのに手土産を用意したい。どんなのがええやろかなんて話をしていると、聡実は、スプーンの上に多めにすくったカレーを口にいれ、飲み下してから口を開いた。
    「ほな、兄ちゃんと狂児さんで買いに行ってきたらええやん。ふたりとも大阪住みやし」
    「えっ」
     聡実、お前大切な兄ちゃんに対してなんて恐ろしいことを言うんや。聡実が小さい頃、夜中にトイレに行くのが怖いからいややいうて泣いてるお前に一緒について行った事、何回もあったやろ?覚えてるやろ?そんな兄ちゃんを今度はひとりきり(正しくはヤクザとふたりきり)にするいうんか聡実。頼むから兄ちゃんをこの人とふたりきりにせんでくれ。間がもたれへん。
     つい縋るように聡実の方を見ると、その隣の成田さんはぱっと顔を輝かせた。
    「ええなあ。お義兄さんそうしましょう!」
    「ええ……」 
     あれよあれよと約束が取り付けられてしまった。
     成田さんのことが苦手という訳ではない。ヤクザやけど、そこまで悪い人ではないのはわかる。たぶん。悪い人間やったら聡実のことなん絶対やれへんわ。ただ、何を話したらええのか悩む。しかもふたりきりとか。やくざとの共通の話題なんて一個もあれへんし。いや普通あれへんやろ。聡実、普段なに話てんのやろ。
    喫茶店からの帰り道。成田さんと別れてから、すぐに聡実の腕を引いた。
    「聡実」
    「なに?」
    「俺が成田さんと出かける話やけど、」
    「うん」
    「ふたりきりでの会話、俺全然思いつかへんねんけど、兄ちゃんなに話したらええねん。いうか、あの人何話したらあかんの。NGワードとかある?」
    「そんな、ちょっと変なこと言うたからて狂児も殴ったり殺したりはせえへんから大丈夫やて。たぶん」
    「たぶんてお前」
    「ああ見えて狂児温厚やねんて。一応」
     度々最後に追加される単語が不安を煽る。
    「聡実、成田さんといつもどんな話してんの」
    「どんなて……。すごいどうでもええ事とかくだらん事とか……?」
     聡実は思い出すように空を見上げた。
    「兄ちゃん僕より全然コミュ力高いし大丈夫やて。さっきも普通に話せてたやん」
     聡実、昔からそういう妙に楽観的なとこあるな。ええことやで。やけど兄ちゃんもさすがにヤクザの人とはコミュニケーションとったことあれへんねん。そこは聡実の方が先輩やねんか。あれか「ヤクザの心理学」とかそういう本読んどいたらええんか。

     背の高い成田さんの後頭部を見ながら、兄弟での会話を思い出し、あとをついていく。コインパーキングに停められた、黒く艶光する高級車の脇に成田さんは立った。俺の給料で買うのにどんなけかかるんやろ。いうか絵になるなあ、そう思っていると、成田さんは後部座席のドアを開ける。
    「正実さん後ろ乗ってください。広いんで」
    「靴脱いだ方がええですか」
    「いや、そのままで大丈夫です。正実さんやったらどんなドロつけられても大丈夫ですから」
    俺やなかったら、どんな目に会うてまうんやろ。なんて思いながら、促されるまま後部座席に乗り込む。柔らかいのにしっかりとした座席。ええ車ってこんなんなんやな。
    シートベルトをしめると、「ほな出発します」狂児さんはバックミラー越しにこちらを見た。
    「お願いします」
    静かに車が発進した。
    「正実さんとは、最初から初めて会うた気せんのですけどね。聡実くんのお兄さんやからかな。実はどっかで一回会うたことありませんか?」
    「狂児さんみたいな方、いっぺん見たら忘れへん思いますけど」
     良くも悪くも、絶対に忘れられない。背も顔も目立つ人間。ヤクザなんやってて目立ってまうんやなかいかな。それともヤクザは目立ってなんぼなんやろか。バックミラーに映る、濃い眉毛と大きな二重の目を見ながらつぶやいた。
    「……聡実、面食いやったんやな。知らんかったわ」
    「え?なんです?」
    「いえ、なんでもないです」



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