ナイトウォーク 前編「クラフトコーラ? って、なに?」
おかえりの抱擁のために両腕を広げていた七海は、おあずけを喰らった犬のようにその場で停止した。ただいまのあとは抱擁、というのは二人で暮らしはじめてからずっと暗黙の了解であったし、悠仁が日中バイトに出ているあいだはひとりで家に籠っている七海にとって大切な儀式のひとつだ。
「ハグは?」
「あ、ごめん」
促されて腕を広げた悠仁を、七海はいつもより強い力で抱きしめる。「え? 力強くない?」戸惑っている悠仁の声はきかなかったことにする。私は悪くないので。胸の内だけで言い訳をして、ぎゅうぎゅうと悠仁を締めつけた後、七海は悠仁の若くつるんとした額にくちづけた。
外から帰ってきたばかりだというのに、悠仁の身体はポカポカとあたたかい。逆に家のなかに籠っていた七海の方が冷えているくらいで、「わっ、冷たっ」と悠仁が七海の両手を包む。
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