寒室からはまだ明かりが漏れていた。
江澄は少しだけ上がった息を整えて、開いたままの門扉をくぐった。
就寝前の時間に訪ねる非常識は、たぶん許してもらえる。
「藍渙」と戸口から声をかけると、がたんと派手な音がした。常ならば、藍氏の常識で考えればありえない音である。
「江澄?」
手燭を掲げて、藍曦臣が姿を現した。
その顔は驚きに満ち、嫌厭の色はない。江澄は胸をなでおろした。
「遅くにすまない」
「いえ、それはいいのですが、なぜ、こちらに」
「……あなたが、言ったのだろう。その、夜に来いと」
自分でも苦しい言い訳だと分かっていたが、それ以外に言いようがなかった。半ばは八つ当たりでもある。
藍曦臣をうかがい見ると、彼ははっきりと喜色を示した。
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