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    Laurelomote

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    カー●ィギャグパロアンソロ『ポヨポヨコミック』付録冊子にて掲載させていただきました、仄暗いサスペンスです。
    mtkb気味です。

    さらばマヌカン
    作:ロゥレル

    本文の内容はフィクションです。
    登場する用語は全て架空のものであり、実在の人物・団体・出来事等の名称とは一切関係ありません。


    カシャ、カシャ…
    軽快な音と共に繰り返される光の点滅、角度を変えて何度も切られるシャッター、その向こう側…スクリーン上のビーチの前に、彼は立っていた。
    「…はい!オッケーでーす、お疲れ様でしたー!」
    カメラマンの響く声を合図に、被写体であるカービィは自身を飾るハイビスカスの花はそのままに、作り物の青空・青い海から飛び出し簡素なパイプ椅子に沈み込んだ。
    「お疲れさま!今日も頑張ったね〜」
    「…」
    「…元気ないね」
    マネージャーのワドルディが駆け寄り顔を覗いても、つい先程までカメラに晴れやかな笑顔を見せていたはずのトップモデル・星のカービィの表情は曇ったまま。
    今の彼は、身につけたアイテムは銀河中の女性がこぞって買い漁り売り切れ続出、最近はテレビ出演など活動の幅も広がっている話題のスーパーモデル・星のカービィ。SNSでは『何してもカワイイ!』ともっぱらの好評を受け続け、その勢いは誰にも止められないとまで評されているのだが、
    「こないだの事、やっぱり気にしてる?」
    「うん…」
    彼のモデル稼業が軌道に乗り始めて2~3ヶ月ほど経過した頃から、彼の周りで不可解な事件・事故が頻発するようになった。
    例えば、高級ジュエリーブランドの社長との対談企画を控え、いざ訪問するとそこには不老不死とも噂される美しきキャリアウーマンではなく、二目と見られぬほどに醜い老婆がミイラのように転がっていた…といった怪事件はまだほんの序の口。オファーを持ちかけてきたアパレルメーカーの社屋がカルト宗教の総本山として摘発され、夥しい数の凶器と全裸の老若男女が痙攣するまま警察により回収される。やっかみを吐いてきた同業の女が翌日、自宅にて両目に注射器を刺して倒れている状態で発見されるなど、精神衛生上よろしくない出来事ばかりがカービィの関わる場所で度々起こるのである。
    始めのうちは単なる偶然と気にせずにいたカービィだが、一部の報道で死傷者および逮捕者との関連を疑われるようになると流石に憔悴の色を隠せなくなり、現在に至る。
    「社長に言って、しばらく休んだ方が良いんじゃないかな?」
    「いや…それだけは絶対にダメだ!だってまだ予定詰まってるし、ボクを待ってくれている人がたくさんいるから…ここで辞めたらきっとみんなにメイワクになっちゃう!だから…まだ大丈夫!」
    「カービィ…そうだね、その意気だ!こんなにすぐ立ち直れるなんて流石だね、ボクも見習わないと」
    「っよし!お仕事はまだまだあるぞー!次の予定ってなんだっけ?」
    「えっと、この後お昼食べたら13時30分からClown*Crown 新作アクセの撮影でスタジオ入り、17時からthe World of Vibgyor で『花束』イメージコスメのCM収録、明日は10時ジャストにSugar Friends の店舗で今季の広告作って、それからHELLO CUBIC の秋物の先取り撮影と、StrawberryJack のコラボ下着のキャンペーンインタビューに…」
    「ちょ、ちょっとまって!まだそんなに…」
    長ったらしいブランド名にスケジュールの詳細をスラスラと空で羅列するマネージャーに、カービィも思わず待ったをかける。これが他ならぬ自分の予定だというのだから尚更止めたくもなる。
    暗記など不可能な業務内容にため息をつきつつ最後まで聞き、とりあえず昼食をとパイプ椅子から身を離した、その時、
    「カービィちゃんお疲れっすー!」
    「あ、編集さん…」「この後のランチさー一緒しない?」
    セットを片付けているスタッフ達を掻き分けるように、軽々しい風貌の男が走り寄ってきた。
    「あ…ちょっと!カービィのプライベートに深く関わるのはNGだよ!」
    「えー、またその話?ほんとオタクの事務所コワイね。ちょっとくらいいーじゃん」
    元々他人に対し強く出る事が苦手なきらいのあるカービィは、男の誘いを無下に断る事が出来ずにいた。
    「ダメだってば!待って…」
    だが、彼がカービィの手を強く引っ張ろうとした瞬間、
    ガシャン!!
    「えっ?」
    突如、上方から聞こえた大きな音に、カービィは咄嗟に身を引いた。ピンクの戦士が近くにいたワドルディを抱きかかえ飛び退いた瞬間、更なる轟音と共に照明など大型の撮影機材が次々と横倒しになった。
    「うわああセットが!」
    「ちょっと!誰か!!」
    「なんだ!?」
    「おい、みんな怪我はないか!?」
    音が止まると、次に飛び交ったのは狼狽するスタッフの声。ほんの刹那の事態に、和やかな空気だった撮影スタジオが緊張の一色に染まる。
    「いたた…ワドルディ大丈夫!?」
    「ボクはなんとか…それより、編集さんは!?」
    2人が顔を上げると、崩落したセットの下に”違和感”を覚えた。
    瓦礫と化した撮影機材の隙間から、握りつぶしたトマトよろしく特集記事の編集担当”だったもの”が覗くと、現場に居合わせた関係者の悲鳴がスタジオ中に木霊した。


    喧騒から一転、通報後の避難で誰もが立ち去り静まり返ったスタジオで、ワドルディはひとり携帯電話と対話していた。
    「でも…これじゃあカービィが…えっ…イヤ、です。カービィがどこかに行っちゃってもう会えなくなるなんて、絶対にイヤです!はい…はい、わかりました」
    煮え切らないとばかりに通話を切れば、噎せ返るような鉄の臭いが先刻の惨状を嫌と言うほど思い起こさせる。
    「…ごめんね、カービィ」


    「入れ」
    ノックから5秒ほどで、低く通りの良い声が扉の向こうから聞こえる。
    「失礼します」
    惨事の直後、カービィは”社長”に呼び出され事務所に戻った。
    「社長…」「二人きりの時はメタナイトで良いと、前にも言っただろう」
    デスク越しに革張りの椅子に座る、星のカービィ所属事務所の最高責任者・メタナイト。混乱の起きたスタジオで肉塊と化した男が言及した、カービィの「NG事項」のほとんどは彼による設定である。宴席や寝泊まりなどプライベートでの交流は禁止、歌番組への出演は禁止…など、商売の要である人気ファッションモデルにそこまで厳しい制約をかける理由は、誰にも明かされていない。
    「話は聞いた。良かったじゃないか、あの男は共に仕事をしたモデルを自宅に連れ込むような奴だったらしいぞ」
    「…なんで今そんなこと言えるの」
    「君に魔の手が伸びなかった事を、心の底から嬉しく思っているからだ」
    「ありがとう、キミがそう思ってくれるのなら、ボクも嬉しい」
    「カービィ、辛くはないか?」
    「ほんとは、つらい…でも、やっぱり、みんなが待ってるから…モデルとしてのボクを、待ってるから…行かなきゃ」
    「…それが君の選択なのか」
    「うん…ごめんね、心配かけちゃって」
    「いや、良いんだ。まずは休みを取れ」
    メタナイトは席を立ち、デスク横に用意されていたティーセットの前へと足を運んだ。慣れた手つきで自ら準備し、両手に持った飲料のうち片方をカービィに手渡す。
    カービィにグラスを、メタナイトは同じものではなく、ティーカップを。
    「わぁ、ありがとう」
    飲料を受け取ったカービィは、其処に何の疑いも持たぬまま、澄み渡る内容物に口付けた。
    「おいしい…あんしんするぅ…」
    口にした液体の感想を言い終える前に、ソファの上で丸い身体がガクンと下を向き、そのまま動かなくなった。ピンクの掌からグラスが滑り落ち、透明な氷の打音が空間に響くのみ。
    「さようなら、卑しい手垢に塗れたマネキンよ。よくも私から"星のカービィ"を奪ってくれたな」
    陶器や硝子の器に埋もれるように、小さな薬瓶が置かれている事実に、カービィが気づく事はなかった。


    糸が切れたマネキン人形を尻目に、メタナイトは取り出した携帯電話からの着信に応える。
    「やあ、私だ。彼はもうすぐ目を覚ますよ。我々がどこかで止めなければ、彼はあの腐った世界の奴隷として堕ちていくだけだ…そうだな、にわかには信じがたいが、今は君が寄越した記憶操作剤の効果を信じてみるよ。それ以外の後始末は全て任せる。」
    端末越しの対話を終えたメタナイトは自身の後方へと振り向く。敷居のあるその空間は、裏にボイスレコーダーや誰かの蜜月を撮った写真、変色した赤がこびりついた鉄パイプ、点々と染みのついた札束…無造作に転がるそれらを一瞥し、メタナイトは仮面の下からでも判別ができる程の歓喜の声を漏らした。

    「やはり君は媚びよりも、剣を振るうのが似合っているよ」


    「あ、おはようメタナイト。あれ…ボク、こんなとこで寝てたの」
    「モデルとしての君は確かに世の模範として相応しい姿だった。だが、それは本来の君ではない。私にはわかるとも、君の一番のファンは、他でもない私なのだから」
    「モデル…何のこと?」

    翌日、ファッションモデル・星のカービィの所属事務所は、彼の引退を発表した。


    『魔性のトップモデル、消える!』
    『曰くつきファッションスター・星のカービィの最期?』
    当然ながら、大衆がより目を向けるメディアの世界にて輝く真っ最中であった人気モデルの唐突な引退発表は、このようにネタに餓えたマスコミを一心に群れさせる事となった。
    だが、人の噂も七十五日。
    「そういや、最近カービィってモデル見ないね」
    「えっ、そんなのいたっけ…」
    しばらくは突如消えた伝説のモデルとして持て囃されたカービィだったが、やがてそれも宇宙中の記憶から、無情且つ緩やかに忘れ去られていった。

    今日も呆れ返るほど平和な楽園で、まん丸ピンクがのんきに飛び跳ねる。


    さらばマヌカン FIN

    あとがき

    最近のグッズ界隈のモデルさん的なカービィちゃんごっつ可愛いけど、それって小説版とかの気が狂ったメタ様が見たら…という話でした。性癖としては「サイコサスペンス」「執着」といった感じでしょうか。
    主催のさかしら様、参加者の皆様、そして当本を手に取られたあなた様へ心より感謝の意を表します。
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